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第二十三話 追いつけない背中
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第二十三話 追いつけない背中
王国の改革案は、正式に動き始めていた。
決裁権限の整理。
会議体の再編。
担当官の明確化。
どれも、間違ってはいない。
むしろ、本来なら何年も前に整っているべき内容だった。
「……これで、ようやく形になります」
若い官僚が、少しだけ安堵したように言う。
王太子は、静かに頷いた。
「形にはなる。
だが――」
言葉を切り、書類に視線を落とす。
「これで、帝国に追いつけるわけではない」
その一言で、空気が引き締まった。
「制度を作ることと、
制度が機能することは別だ」
誰も反論しない。
それは、痛いほど理解しているからだ。
仕組みは、作った瞬間から動くわけではない。
人が慣れ、判断し、責任を引き受けるまでには、
時間がかかる。
そして――
時間こそが、今の王国に最も残されていないものだった。
一方、帝国。
宰相府の会議は、すでに次の段階に進んでいた。
「王国側の制度改革、始まりました」
報告を受けて、セドリックは視線をネフェリアへ向ける。
「想定通りですね」
「ええ」
ネフェリアは、資料を閉じる。
「追いつこうとするでしょう。
ですが、追いつくために必要なのは“同じことをする”ことではありません」
「では?」
「追う側は、常に一手遅れる。
だからこそ、別の価値を作らなければならない」
それは、王国がまだ理解していない視点だった。
帝国は、王国の制度改革を妨げない。
嘲笑もしない。
ただ、
その動きを前提に、
さらに先の布石を打つ。
王国では。
新しい会議体が初めて開かれていた。
「では、この案件は、
第一判断を財務局、
最終判断を政務局で」
「異論は?」
沈黙。
「……では、そのように」
決まった。
確かに、決まった。
だが、誰かの胸に、
小さな疑問が残る。
――この判断、
本当に今でよかったのだろうか。
その疑問は、
口にされない。
制度ができたことで、
かえって慎重さが増している。
責任の所在が明確になった分、
責任を負うことへの恐れも、
同時に生まれていた。
夜。
王太子は、執務室で一人、窓の外を見ていた。
「……背中が、遠いな」
帝国の動きは、
報告としてしか入ってこない。
だが、その一つ一つが、
王国の“次の一手”を先回りしている。
追いかけている。
確かに、追いかけている。
だが、
距離は縮まらない。
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、宰相府を後にし、
夜の街を歩いていた。
街は穏やかで、
人の流れは途切れない。
「……追いつけない背中、ですか」
自分でも、ふと笑ってしまう。
かつて、
その“背中”だったのは、
彼女自身だった。
王国は、
彼女一人を背負わせ、
仕組みを作らなかった。
帝国は違う。
彼女がいなくても、
動く仕組みを、
最初から前提にしている。
「国も、人も、同じですね」
選ばれる側に立ち続けるためには、
誰かに頼り切ってはいけない。
王国は、
今になって、
ようやく走り出した。
だが、
帝国はすでに、
歩調を変え、
次の景色へ向かっている。
追いつこうとしたとき、
背中が見えているうちは、
まだ間に合う。
だが――
その背中が、
夜の向こうへ溶け始めたとき、
追走は、
もはや意味を失う。
王国の改革案は、正式に動き始めていた。
決裁権限の整理。
会議体の再編。
担当官の明確化。
どれも、間違ってはいない。
むしろ、本来なら何年も前に整っているべき内容だった。
「……これで、ようやく形になります」
若い官僚が、少しだけ安堵したように言う。
王太子は、静かに頷いた。
「形にはなる。
だが――」
言葉を切り、書類に視線を落とす。
「これで、帝国に追いつけるわけではない」
その一言で、空気が引き締まった。
「制度を作ることと、
制度が機能することは別だ」
誰も反論しない。
それは、痛いほど理解しているからだ。
仕組みは、作った瞬間から動くわけではない。
人が慣れ、判断し、責任を引き受けるまでには、
時間がかかる。
そして――
時間こそが、今の王国に最も残されていないものだった。
一方、帝国。
宰相府の会議は、すでに次の段階に進んでいた。
「王国側の制度改革、始まりました」
報告を受けて、セドリックは視線をネフェリアへ向ける。
「想定通りですね」
「ええ」
ネフェリアは、資料を閉じる。
「追いつこうとするでしょう。
ですが、追いつくために必要なのは“同じことをする”ことではありません」
「では?」
「追う側は、常に一手遅れる。
だからこそ、別の価値を作らなければならない」
それは、王国がまだ理解していない視点だった。
帝国は、王国の制度改革を妨げない。
嘲笑もしない。
ただ、
その動きを前提に、
さらに先の布石を打つ。
王国では。
新しい会議体が初めて開かれていた。
「では、この案件は、
第一判断を財務局、
最終判断を政務局で」
「異論は?」
沈黙。
「……では、そのように」
決まった。
確かに、決まった。
だが、誰かの胸に、
小さな疑問が残る。
――この判断、
本当に今でよかったのだろうか。
その疑問は、
口にされない。
制度ができたことで、
かえって慎重さが増している。
責任の所在が明確になった分、
責任を負うことへの恐れも、
同時に生まれていた。
夜。
王太子は、執務室で一人、窓の外を見ていた。
「……背中が、遠いな」
帝国の動きは、
報告としてしか入ってこない。
だが、その一つ一つが、
王国の“次の一手”を先回りしている。
追いかけている。
確かに、追いかけている。
だが、
距離は縮まらない。
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、宰相府を後にし、
夜の街を歩いていた。
街は穏やかで、
人の流れは途切れない。
「……追いつけない背中、ですか」
自分でも、ふと笑ってしまう。
かつて、
その“背中”だったのは、
彼女自身だった。
王国は、
彼女一人を背負わせ、
仕組みを作らなかった。
帝国は違う。
彼女がいなくても、
動く仕組みを、
最初から前提にしている。
「国も、人も、同じですね」
選ばれる側に立ち続けるためには、
誰かに頼り切ってはいけない。
王国は、
今になって、
ようやく走り出した。
だが、
帝国はすでに、
歩調を変え、
次の景色へ向かっている。
追いつこうとしたとき、
背中が見えているうちは、
まだ間に合う。
だが――
その背中が、
夜の向こうへ溶け始めたとき、
追走は、
もはや意味を失う。
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