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第二十七話 返事の重さ
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第二十七話 返事の重さ
王国の官庁街では、最近になって奇妙な光景が増えていた。
机の上に積まれた書類が、
以前よりも減っている。
処理が進んでいるからではない。
そもそも、回ってこなくなったのだ。
「……この案件、来ていませんね」
若い官僚が、帳簿をめくりながら首を傾げる。
「以前なら、必ず回ってきたはずですが」
上司は、少し間を置いて答えた。
「帝国で処理された」
「え?」
「事後報告だけは、届いている」
若い官僚は、言葉を失う。
違反ではない。
規約にも、抵触していない。
だが――
王国が関与する“前段階”そのものが、消えている。
王太子のもとにも、
同様の報告が集まっていた。
「帝国が返事を出したのは、
我々が内部協議に入った、その翌日です」
「……こちらの返答は?」
「草案の段階で止まっています」
王太子は、
机に置いたペンを、静かに転がした。
「返事をする前に、
整えようとした」
誰にともなく、そう呟く。
「整えきれなかった、
それだけだ」
官僚の一人が、
恐る恐る口を開く。
「殿下……
返事を急げば、
批判も出ます」
「拙速だと」
「無責任だと」
王太子は、
ゆっくりと頷いた。
「分かっている」
「だがな」
視線を上げる。
「返事をしなかった結果について、
誰も責任を取らないのは、
おかしくないか?」
沈黙。
その問いは、
今の王国では、
あまりにも重かった。
一方、帝国。
中立都市から、
追加の相談が届いていた。
「期間を三ヶ月、延ばしたい」
「承認は?」
帝国側の官僚が、
書類を確認する。
「問題ありません。
条件は同じで」
「ありがとうございます。
助かります」
そのやり取りは、
五分もかからなかった。
宰相府。
ネフェリアは、
簡単な報告を受ける。
「延長、承認しました」
「了解しました」
それだけだ。
判断は、
軽い。
だが、
軽率ではない。
期限。
撤退条件。
責任者。
必要なものは、
すでに揃っている。
「……返事の重さは、
内容ではなく、
タイミングで決まります」
ネフェリアは、
書類を閉じながら言った。
「どれだけ正しい返事でも、
遅れた瞬間に、
価値は半分になります」
王国では。
ある商人が、
王国宛てに出していた問い合わせを、
そっと取り下げた。
「もういい」
「帝国で話がついた」
その一言が、
小さな決断であり、
確かな変化だった。
人は、
無視されたと感じた相手に、
再び声をかけない。
それは、
怒りですらない。
ただの、
選択だ。
夜、王太子。
執務室で、
未送信の返答文を見つめていた。
内容は、
悪くない。
条件も、
現実的だ。
だが、
日付を見ると、
もう、
意味を持たない。
「……遅すぎる」
自分の声が、
ひどく遠く感じられた。
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、
静かに灯りを落とす。
今日一日で、
彼女が出した返事は、
三つ。
どれも、
完璧ではない。
だが、
相手は動き、
道は繋がった。
「返事をする、というのは」
誰もいない部屋で、
彼女は小さく呟く。
「相手の時間を、
尊重するということです」
王国は、
まだ学んでいる途中だ。
だが、
時間は、
待ってはくれない。
返事の重さに、
気づいたときには――
すでに、
返事を待つ相手が、
いなくなっていることもあるのだから。
王国の官庁街では、最近になって奇妙な光景が増えていた。
机の上に積まれた書類が、
以前よりも減っている。
処理が進んでいるからではない。
そもそも、回ってこなくなったのだ。
「……この案件、来ていませんね」
若い官僚が、帳簿をめくりながら首を傾げる。
「以前なら、必ず回ってきたはずですが」
上司は、少し間を置いて答えた。
「帝国で処理された」
「え?」
「事後報告だけは、届いている」
若い官僚は、言葉を失う。
違反ではない。
規約にも、抵触していない。
だが――
王国が関与する“前段階”そのものが、消えている。
王太子のもとにも、
同様の報告が集まっていた。
「帝国が返事を出したのは、
我々が内部協議に入った、その翌日です」
「……こちらの返答は?」
「草案の段階で止まっています」
王太子は、
机に置いたペンを、静かに転がした。
「返事をする前に、
整えようとした」
誰にともなく、そう呟く。
「整えきれなかった、
それだけだ」
官僚の一人が、
恐る恐る口を開く。
「殿下……
返事を急げば、
批判も出ます」
「拙速だと」
「無責任だと」
王太子は、
ゆっくりと頷いた。
「分かっている」
「だがな」
視線を上げる。
「返事をしなかった結果について、
誰も責任を取らないのは、
おかしくないか?」
沈黙。
その問いは、
今の王国では、
あまりにも重かった。
一方、帝国。
中立都市から、
追加の相談が届いていた。
「期間を三ヶ月、延ばしたい」
「承認は?」
帝国側の官僚が、
書類を確認する。
「問題ありません。
条件は同じで」
「ありがとうございます。
助かります」
そのやり取りは、
五分もかからなかった。
宰相府。
ネフェリアは、
簡単な報告を受ける。
「延長、承認しました」
「了解しました」
それだけだ。
判断は、
軽い。
だが、
軽率ではない。
期限。
撤退条件。
責任者。
必要なものは、
すでに揃っている。
「……返事の重さは、
内容ではなく、
タイミングで決まります」
ネフェリアは、
書類を閉じながら言った。
「どれだけ正しい返事でも、
遅れた瞬間に、
価値は半分になります」
王国では。
ある商人が、
王国宛てに出していた問い合わせを、
そっと取り下げた。
「もういい」
「帝国で話がついた」
その一言が、
小さな決断であり、
確かな変化だった。
人は、
無視されたと感じた相手に、
再び声をかけない。
それは、
怒りですらない。
ただの、
選択だ。
夜、王太子。
執務室で、
未送信の返答文を見つめていた。
内容は、
悪くない。
条件も、
現実的だ。
だが、
日付を見ると、
もう、
意味を持たない。
「……遅すぎる」
自分の声が、
ひどく遠く感じられた。
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、
静かに灯りを落とす。
今日一日で、
彼女が出した返事は、
三つ。
どれも、
完璧ではない。
だが、
相手は動き、
道は繋がった。
「返事をする、というのは」
誰もいない部屋で、
彼女は小さく呟く。
「相手の時間を、
尊重するということです」
王国は、
まだ学んでいる途中だ。
だが、
時間は、
待ってはくれない。
返事の重さに、
気づいたときには――
すでに、
返事を待つ相手が、
いなくなっていることもあるのだから。
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