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第二十九話 声が届かない
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第二十九話 声が届かない
王国の外務局に、珍しく一通の抗議文が届いた。
文面は丁寧だ。
感情的な言葉もない。
だが、内容は明確だった。
「帝国との交渉過程において、
王国の意向が十分に反映されていない」
読み終えた官僚が、ゆっくりと息を吐く。
「……意向、ですか」
隣にいた者が、苦く笑った。
「意向は、
伝えなければ反映されません」
問題は、
王国が何も言わなかったことではない。
言った“つもり”でいたことだ。
実際には。
「検討中です」
「内部協議が必要です」
「後日、改めて――」
それらはすべて、
言葉としては存在していた。
だが、
相手に届く“意思”ではなかった。
王太子のもとで、
外務局長が報告を行う。
「帝国側は、
王国から明確な反対や代案がなかったため、
そのまま進めたとのことです」
「……そう言うだろうな」
王太子は、
机に手を置いたまま動かない。
「我々は、
声を上げていなかった」
「上げたつもりで、
実際には、
何も示していなかった」
官僚の一人が、
耐えきれずに言った。
「殿下……
帝国は、
少し強引すぎるのでは?」
王太子は、
ゆっくりと首を振る。
「違う」
「強引なのではない。
はっきりしているだけだ」
一方、帝国。
中立都市との会合が、
淡々と進んでいた。
「王国からの異議は?」
「ありませんでした」
「では、
当初案のままで」
議論は、
それだけで終わる。
誰も、
王国を無視しようとしていない。
ただ、
聞こえる声を拾っただけだ。
宰相府。
ネフェリアは、
王国から届いた抗議文の写しに、
一度だけ目を通した。
「……意向が反映されていない、ですか」
小さく、
息を吐く。
「意向とは、
伝えるものです」
彼女は、
それ以上、何も言わなかった。
王国では、
内部での不満が増え始めていた。
「帝国ばかりが得をしている」
「王国は軽視されている」
「もっと強く出るべきだ」
だが、
強く出るための材料が、
どこにもない。
返事は遅れた。
判断は先送りした。
代案は出していない。
それでいて、
結果だけに不満を述べる。
夜。
王太子は、
一人で外庭を歩いていた。
風は冷たい。
空は澄んでいる。
「……声は、
出していなければ、
届かない」
誰に教わった言葉でもない。
今になって、
ようやく実感した事実だった。
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、
次の案件の概要を確認していた。
期限。
責任者。
返答予定日。
すべてが、
簡潔に整理されている。
「……聞こえない声に、
応えることはできません」
彼女は、
静かに書類を閉じる。
帝国が選ばれているのは、
声が大きいからではない。
言うべきことを、
言うべき時に、
言っているからだ。
王国は、
今になって、
自分たちの声が
どれほど小さく、
曖昧だったかを知る。
だが、
声が届かない場所で、
いくら叫んでも、
状況は変わらない。
必要なのは、
大声ではない。
はっきりした言葉と、
それを出す覚悟だ。
それを持たない限り、
王国の声は、
これからも
誰の耳にも届かない。
王国の外務局に、珍しく一通の抗議文が届いた。
文面は丁寧だ。
感情的な言葉もない。
だが、内容は明確だった。
「帝国との交渉過程において、
王国の意向が十分に反映されていない」
読み終えた官僚が、ゆっくりと息を吐く。
「……意向、ですか」
隣にいた者が、苦く笑った。
「意向は、
伝えなければ反映されません」
問題は、
王国が何も言わなかったことではない。
言った“つもり”でいたことだ。
実際には。
「検討中です」
「内部協議が必要です」
「後日、改めて――」
それらはすべて、
言葉としては存在していた。
だが、
相手に届く“意思”ではなかった。
王太子のもとで、
外務局長が報告を行う。
「帝国側は、
王国から明確な反対や代案がなかったため、
そのまま進めたとのことです」
「……そう言うだろうな」
王太子は、
机に手を置いたまま動かない。
「我々は、
声を上げていなかった」
「上げたつもりで、
実際には、
何も示していなかった」
官僚の一人が、
耐えきれずに言った。
「殿下……
帝国は、
少し強引すぎるのでは?」
王太子は、
ゆっくりと首を振る。
「違う」
「強引なのではない。
はっきりしているだけだ」
一方、帝国。
中立都市との会合が、
淡々と進んでいた。
「王国からの異議は?」
「ありませんでした」
「では、
当初案のままで」
議論は、
それだけで終わる。
誰も、
王国を無視しようとしていない。
ただ、
聞こえる声を拾っただけだ。
宰相府。
ネフェリアは、
王国から届いた抗議文の写しに、
一度だけ目を通した。
「……意向が反映されていない、ですか」
小さく、
息を吐く。
「意向とは、
伝えるものです」
彼女は、
それ以上、何も言わなかった。
王国では、
内部での不満が増え始めていた。
「帝国ばかりが得をしている」
「王国は軽視されている」
「もっと強く出るべきだ」
だが、
強く出るための材料が、
どこにもない。
返事は遅れた。
判断は先送りした。
代案は出していない。
それでいて、
結果だけに不満を述べる。
夜。
王太子は、
一人で外庭を歩いていた。
風は冷たい。
空は澄んでいる。
「……声は、
出していなければ、
届かない」
誰に教わった言葉でもない。
今になって、
ようやく実感した事実だった。
同じ夜、帝国。
ネフェリアは、
次の案件の概要を確認していた。
期限。
責任者。
返答予定日。
すべてが、
簡潔に整理されている。
「……聞こえない声に、
応えることはできません」
彼女は、
静かに書類を閉じる。
帝国が選ばれているのは、
声が大きいからではない。
言うべきことを、
言うべき時に、
言っているからだ。
王国は、
今になって、
自分たちの声が
どれほど小さく、
曖昧だったかを知る。
だが、
声が届かない場所で、
いくら叫んでも、
状況は変わらない。
必要なのは、
大声ではない。
はっきりした言葉と、
それを出す覚悟だ。
それを持たない限り、
王国の声は、
これからも
誰の耳にも届かない。
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