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第12話 王子は探し、モブは黙る
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第12話 王子は探し、モブは黙る
学園の空気が、明確に変わったのは翌日からだった。
令嬢Cは、朝の廊下を歩きながら、肌でそれを感じていた。
(……来ましたわね……)
理由は、分からなくはない。
いや、分かりすぎるほど分かっている。
――王太子ダイナスティ。
あの人が「本気で探し始めた」時の空気だ。
前世でも、何度か経験した。
権力を持つ者が、
自分の思い通りにならない存在に遭遇したとき。
最初は興味。
次に疑念。
そして――圧。
(……最悪の……
段階に……
入りました……)
廊下のあちこちで、
生徒たちが不自然にざわついている。
「……聞いた……?」
「……殿下が……
直接……
聞いて回ってるって……」
「……誰を……?」
「……分からない……
“名を名乗らない令嬢”……
だとか……」
令嬢Cは、心の中で深くため息をついた。
(……その……
呼び方……
やめて……
ほしい……)
だが、表情には出さない。
いつも通り。
いつも以上に、平然と。
それが、モブの基本。
教室に入ると、
すでに友人1、友人2、友人3が揃っていた。
「……来ましたわね……」
友人1が、声を潜める。
「……殿下……
生徒会経由で……
教師に……
話を……」
友人2が、顔をしかめる。
「……クラス全体に……
質問……
だそうです……」
「……名を……
聞かれて……
いる……?」
令嬢Cは、静かに頷いた。
「……答えなくて……
いい……」
「……え……?」
「……知らない……
ものは……
知らない……」
それだけだ。
嘘はつかない。
だが、余計なことも言わない。
前世で学んだ、
最も安全な態度。
やがて、教師Aが教室に入ってきた。
いつもより、
少しだけ緊張した表情。
「……皆さん……
本日の……
授業の前に……」
教室が、静まり返る。
「……王太子殿下から……
問い合わせが……
ありました……」
ざわり、と空気が揺れる。
「……夜会に……
招かれた……
生徒の……
中で……」
教師Aは、一瞬だけ言葉を探し――
続けた。
「……“名を……
明かしていない……
令嬢”……
について……」
沈黙。
令嬢Cは、机の上で手を組み、
視線を落としたまま動かない。
(……正解……)
教師Aは、続ける。
「……心当たりの……
ある方は……
後ほど……
職員室へ……」
だが。
誰一人、動かない。
教室の空気は、
張り詰めている。
それでも、
誰も、令嬢Cを見ない。
視線を向けない。
(……ありがとう……)
令嬢Cは、胸の奥でそう呟いた。
モブガールズは、
分かっている。
王子が「面倒なタイプ」だということを。
教師Aも、
薄々理解している。
だから、
それ以上踏み込まない。
「……では……
授業を……
始めましょう……」
教師Aは、そう言って話を切った。
授業中。
令嬢Cは、黒板を見つめながら、
別のことを考えていた。
(……王子は……
“圧”を……
かけ始めました……)
次は、
生徒会。
その次は、
保護者。
(……でも……)
(……名前が……
なければ……
探しようが……
ありません……)
それが、
唯一の救い。
昼休み。
学園の片隅で、
友人たちと集まる。
「……正直……
怖い……」
友人2が、ぽつりと漏らす。
「……でも……
今……
裏切ったら……」
友人3が、真剣な目で言う。
「……次は……
自分かも……」
令嬢Cは、静かに言った。
「……大丈夫……」
「……え……?」
「……王子は……
“誰か”を……
探しています……」
「……はい……」
「……でも……
“誰”か……
分かっていない……」
それが、
最大の弱点。
「……だから……
名前を……
与えなければ……
いい……」
友人1が、
ゆっくり頷く。
「……名乗らない……」
「……呼ばない……」
「……覚えさせない……」
それは、
生き残るための、
無言の同盟だった。
その頃。
王太子ダイナスティは、
苛立ちを隠せずにいた。
「……なぜ……
誰も……
答えない……」
教師も。
生徒も。
使用人も。
皆、曖昧な返事しかしない。
(……口裏を……
合わせている……?)
その疑念が、
彼をさらに追い込む。
「……エスカレード……」
脳裏に浮かぶのは、
あの言葉。
――観測者。
(……やはり……
普通では……
ない……)
そして、
彼は誤った結論に辿り着く。
(……俺を……
避けている……)
(……意図的に……)
その思い込みが、
王子の行動を、
さらに強硬にしていく。
夕方。
令嬢Cは、
寮への帰り道で、
空を見上げた。
(……まだ……
大丈夫……)
(……でも……
長くは……
持ちません……)
王子の圧は、
確実に強まっている。
それでも。
令嬢Cは、決めていた。
(……最後まで……
モブで……
います……)
(……名は……
渡しません……)
それが、
彼女の生き方。
そして――
物語は、次の段階へ進む。
王子は、
「探す」から
「追い詰める」へ。
モブ達は、
「黙る」から
「守る」へ。
誰もが、
同じ方向を見ていないまま。
――破綻は、
静かに、
だが確実に、
近づいていた。
---
学園の空気が、明確に変わったのは翌日からだった。
令嬢Cは、朝の廊下を歩きながら、肌でそれを感じていた。
(……来ましたわね……)
理由は、分からなくはない。
いや、分かりすぎるほど分かっている。
――王太子ダイナスティ。
あの人が「本気で探し始めた」時の空気だ。
前世でも、何度か経験した。
権力を持つ者が、
自分の思い通りにならない存在に遭遇したとき。
最初は興味。
次に疑念。
そして――圧。
(……最悪の……
段階に……
入りました……)
廊下のあちこちで、
生徒たちが不自然にざわついている。
「……聞いた……?」
「……殿下が……
直接……
聞いて回ってるって……」
「……誰を……?」
「……分からない……
“名を名乗らない令嬢”……
だとか……」
令嬢Cは、心の中で深くため息をついた。
(……その……
呼び方……
やめて……
ほしい……)
だが、表情には出さない。
いつも通り。
いつも以上に、平然と。
それが、モブの基本。
教室に入ると、
すでに友人1、友人2、友人3が揃っていた。
「……来ましたわね……」
友人1が、声を潜める。
「……殿下……
生徒会経由で……
教師に……
話を……」
友人2が、顔をしかめる。
「……クラス全体に……
質問……
だそうです……」
「……名を……
聞かれて……
いる……?」
令嬢Cは、静かに頷いた。
「……答えなくて……
いい……」
「……え……?」
「……知らない……
ものは……
知らない……」
それだけだ。
嘘はつかない。
だが、余計なことも言わない。
前世で学んだ、
最も安全な態度。
やがて、教師Aが教室に入ってきた。
いつもより、
少しだけ緊張した表情。
「……皆さん……
本日の……
授業の前に……」
教室が、静まり返る。
「……王太子殿下から……
問い合わせが……
ありました……」
ざわり、と空気が揺れる。
「……夜会に……
招かれた……
生徒の……
中で……」
教師Aは、一瞬だけ言葉を探し――
続けた。
「……“名を……
明かしていない……
令嬢”……
について……」
沈黙。
令嬢Cは、机の上で手を組み、
視線を落としたまま動かない。
(……正解……)
教師Aは、続ける。
「……心当たりの……
ある方は……
後ほど……
職員室へ……」
だが。
誰一人、動かない。
教室の空気は、
張り詰めている。
それでも、
誰も、令嬢Cを見ない。
視線を向けない。
(……ありがとう……)
令嬢Cは、胸の奥でそう呟いた。
モブガールズは、
分かっている。
王子が「面倒なタイプ」だということを。
教師Aも、
薄々理解している。
だから、
それ以上踏み込まない。
「……では……
授業を……
始めましょう……」
教師Aは、そう言って話を切った。
授業中。
令嬢Cは、黒板を見つめながら、
別のことを考えていた。
(……王子は……
“圧”を……
かけ始めました……)
次は、
生徒会。
その次は、
保護者。
(……でも……)
(……名前が……
なければ……
探しようが……
ありません……)
それが、
唯一の救い。
昼休み。
学園の片隅で、
友人たちと集まる。
「……正直……
怖い……」
友人2が、ぽつりと漏らす。
「……でも……
今……
裏切ったら……」
友人3が、真剣な目で言う。
「……次は……
自分かも……」
令嬢Cは、静かに言った。
「……大丈夫……」
「……え……?」
「……王子は……
“誰か”を……
探しています……」
「……はい……」
「……でも……
“誰”か……
分かっていない……」
それが、
最大の弱点。
「……だから……
名前を……
与えなければ……
いい……」
友人1が、
ゆっくり頷く。
「……名乗らない……」
「……呼ばない……」
「……覚えさせない……」
それは、
生き残るための、
無言の同盟だった。
その頃。
王太子ダイナスティは、
苛立ちを隠せずにいた。
「……なぜ……
誰も……
答えない……」
教師も。
生徒も。
使用人も。
皆、曖昧な返事しかしない。
(……口裏を……
合わせている……?)
その疑念が、
彼をさらに追い込む。
「……エスカレード……」
脳裏に浮かぶのは、
あの言葉。
――観測者。
(……やはり……
普通では……
ない……)
そして、
彼は誤った結論に辿り着く。
(……俺を……
避けている……)
(……意図的に……)
その思い込みが、
王子の行動を、
さらに強硬にしていく。
夕方。
令嬢Cは、
寮への帰り道で、
空を見上げた。
(……まだ……
大丈夫……)
(……でも……
長くは……
持ちません……)
王子の圧は、
確実に強まっている。
それでも。
令嬢Cは、決めていた。
(……最後まで……
モブで……
います……)
(……名は……
渡しません……)
それが、
彼女の生き方。
そして――
物語は、次の段階へ進む。
王子は、
「探す」から
「追い詰める」へ。
モブ達は、
「黙る」から
「守る」へ。
誰もが、
同じ方向を見ていないまま。
――破綻は、
静かに、
だが確実に、
近づいていた。
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