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第36話 改善命令
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第36話 改善命令
公的承認から、数日後。
医会本部には、かつてない緊張が漂っていた。
白を基調とした会議室。
威厳を示すためだけに積み上げられてきた歴史ある調度品が、今日はどこか場違いに見える。
「――王宮より、正式な通達が下った」
医会会長が、低い声で告げた。
その手にある文書には、王家の封印が押されている。
それを見ただけで、ここに集められた医師たちは察していた。
良い知らせでは、ない。
「改善命令、だ」
一瞬、沈黙。
次の瞬間、ざわめきが広がった。
「改善命令……?」
「まさか、医会に?」
「我々が、何を改善しろと?」
会長は、ゆっくりと視線を巡らせる。
「処方箋の記載内容」
その一言で、空気が凍りついた。
「症状を一括で処理する表記を改め、
原因・経過・判断理由を明示すること」
「……そんなことをすれば、診察時間が増える!」
「現場が回らなくなる!」
「効率が落ちる!」
反論が、次々と飛ぶ。
だが、会長は、首を横に振った。
「効率は、すでに“数字”で否定された」
重い沈黙。
「新医療機関と国営薬局の連携により、
回復期間は短縮し、再来院率は低下した」
「同条件下での比較結果も、提出されている」
誰も、否定できない。
「さらに」
会長は、文書をめくる。
「処方内容の透明化に伴い、
薬局への責任転嫁を禁ずる」
その一文に、何人かが顔を歪めた。
「結果が悪ければ、薬が悪い――
そう言い切る時代は、終わったということだ」
沈黙が、長く続く。
やがて、一人の医師が、絞り出すように言った。
「……つまり」
「我々は、
“診察した責任”を、
正面から負えということか」
「そうだ」
会長は、きっぱりと答えた。
「それが、本来の医師の仕事だ」
その言葉は、責めるようでもあり、
同時に、原点を思い出させるものでもあった。
一方――
ゲート公爵邸では、ミーシャ・ゲートが同じ報告を受けていた。
「医会に、改善命令が正式に下りました」
側近の声に、ミーシャは静かに頷く。
「想定通りです」
彼女の表情に、喜色はない。
勝った、という感覚もない。
「成功したように見える、でしょう?」
ぽつりと呟く。
新医療機関は認められ、
医会は改革を強いられた。
誰の目にも、“改革は成功した”と映る。
だが――
ミーシャは、分かっていた。
制度は、変わっただけでは意味がない。
使われ続けて、初めて価値を持つ。
そして、制度が動けば、
必ず“はみ出す者”が出る。
それをどう扱うか。
それが、次の試練だ。
窓の外を見つめながら、ミーシャは静かに息を吐いた。
「……これで終わりだなんて、思っていませんわ」
改革は、完成ではない。
均衡を崩した、その先に待つのは――
必ず、反動。
そして、その反動は、
現場に、個人に、向かう。
ミーシャは、まだ知らないふりをしていた。
その矛先が、
いずれ“ギ・メイ”という名に向かうことを。
――改革は成功したように見えた。
だがそれは、
本当の裁きの、始まりに過ぎなかった。
公的承認から、数日後。
医会本部には、かつてない緊張が漂っていた。
白を基調とした会議室。
威厳を示すためだけに積み上げられてきた歴史ある調度品が、今日はどこか場違いに見える。
「――王宮より、正式な通達が下った」
医会会長が、低い声で告げた。
その手にある文書には、王家の封印が押されている。
それを見ただけで、ここに集められた医師たちは察していた。
良い知らせでは、ない。
「改善命令、だ」
一瞬、沈黙。
次の瞬間、ざわめきが広がった。
「改善命令……?」
「まさか、医会に?」
「我々が、何を改善しろと?」
会長は、ゆっくりと視線を巡らせる。
「処方箋の記載内容」
その一言で、空気が凍りついた。
「症状を一括で処理する表記を改め、
原因・経過・判断理由を明示すること」
「……そんなことをすれば、診察時間が増える!」
「現場が回らなくなる!」
「効率が落ちる!」
反論が、次々と飛ぶ。
だが、会長は、首を横に振った。
「効率は、すでに“数字”で否定された」
重い沈黙。
「新医療機関と国営薬局の連携により、
回復期間は短縮し、再来院率は低下した」
「同条件下での比較結果も、提出されている」
誰も、否定できない。
「さらに」
会長は、文書をめくる。
「処方内容の透明化に伴い、
薬局への責任転嫁を禁ずる」
その一文に、何人かが顔を歪めた。
「結果が悪ければ、薬が悪い――
そう言い切る時代は、終わったということだ」
沈黙が、長く続く。
やがて、一人の医師が、絞り出すように言った。
「……つまり」
「我々は、
“診察した責任”を、
正面から負えということか」
「そうだ」
会長は、きっぱりと答えた。
「それが、本来の医師の仕事だ」
その言葉は、責めるようでもあり、
同時に、原点を思い出させるものでもあった。
一方――
ゲート公爵邸では、ミーシャ・ゲートが同じ報告を受けていた。
「医会に、改善命令が正式に下りました」
側近の声に、ミーシャは静かに頷く。
「想定通りです」
彼女の表情に、喜色はない。
勝った、という感覚もない。
「成功したように見える、でしょう?」
ぽつりと呟く。
新医療機関は認められ、
医会は改革を強いられた。
誰の目にも、“改革は成功した”と映る。
だが――
ミーシャは、分かっていた。
制度は、変わっただけでは意味がない。
使われ続けて、初めて価値を持つ。
そして、制度が動けば、
必ず“はみ出す者”が出る。
それをどう扱うか。
それが、次の試練だ。
窓の外を見つめながら、ミーシャは静かに息を吐いた。
「……これで終わりだなんて、思っていませんわ」
改革は、完成ではない。
均衡を崩した、その先に待つのは――
必ず、反動。
そして、その反動は、
現場に、個人に、向かう。
ミーシャは、まだ知らないふりをしていた。
その矛先が、
いずれ“ギ・メイ”という名に向かうことを。
――改革は成功したように見えた。
だがそれは、
本当の裁きの、始まりに過ぎなかった。
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