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第十三話 準備は静かに
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第十三話 準備は静かに
翌日から、ヘレン・バートンの行動は、外から見れば何一つ変わらなかった。
舞踏会には出ない。
教会とも距離を保つ。
屋敷で本を読み、領地から届く報告に目を通す。
それまでと、まったく同じ日常だ。
だが――内側では、はっきりと歯車が回り始めていた。
ヘレンはまず、情報を整理した。
聖女マルガリータが「奇跡」を行う場所、日時、参加者。
教会関係者の配置。
巡業の動線と、警備と称した人員の数。
どれも、特別な手段を使うまでもなく集まる情報だった。
教会は今、自分たちが疑われているとは思っていない。
だから、警戒もしていない。
「……次は、中央広場ですのね」
書類に目を落とし、静かに呟く。
民衆が最も集まりやすい場所。
視界が開け、奇跡を“見せやすい”舞台。
そして、失敗すれば、言い逃れが難しい場所でもある。
ヘレンは、机に置かれたペンを指で転がした。
やることは、単純だ。
奇跡を壊す。
だが、力を誇示する必要はない。
重要なのは、自分が何もしなかったように見せること。
午後、ヘレンは執事を呼んだ。
「しばらく、私が外出しないように見せてください」
「かしこまりました」
「理由は、体調不良で結構ですわ。
大袈裟でなく、疑われない程度に」
執事は一瞬だけ首を傾げたが、深く詮索はしなかった。
長年仕えていれば、今の言葉が“準備”だと分かる。
その日の夜、ヘレンは書斎で一人、窓を開けた。
王都の空気が、静かに流れ込む。
遠くで、教会の鐘が鳴っていた。
「……奇跡というのは」
独り言のように、低く呟く。
「起こすより、壊す方が簡単ですの」
天声者としての力は、
何かを生み出すためだけのものではない。
人の意識をずらす。
集中を断つ。
支えになっている“前提”を、そっと外す。
それだけで、人が用意した奇跡は成立しなくなる。
ヘレンは、目を閉じた。
かつて、聖女だった頃。
同じ力を使って、救いも、裁きも行ってきた。
だが今回は違う。
(裁く気はありません)
彼女の目的は、罰ではない。
破滅でもない。
ただ、嘘を嘘として露出させること。
本物の力を持たない者が、
本物の名を使えないようにすること。
それだけだ。
翌朝、王都では大きな告知が出回った。
――中央広場にて、
――聖女マルガリータが
――新たな奇跡を披露する。
人々は期待し、
教会は自信満々だった。
ヘレンは、その知らせを聞き、静かに頷いた。
「ええ……ちょうどいいですわ」
表に出るつもりはない。
名乗るつもりもない。
それでも、
舞台は整った。
教会が作った“奇跡の舞台”で、
彼ら自身に、それが幻想だと気づかせる。
その準備は、
もう十分だった。
嵐の前の空気は、
驚くほど穏やかだった。
だからこそ――
誰も、この先に待つ展開を疑っていない。
最初の失敗が、
すぐそこまで迫っていることに。
翌日から、ヘレン・バートンの行動は、外から見れば何一つ変わらなかった。
舞踏会には出ない。
教会とも距離を保つ。
屋敷で本を読み、領地から届く報告に目を通す。
それまでと、まったく同じ日常だ。
だが――内側では、はっきりと歯車が回り始めていた。
ヘレンはまず、情報を整理した。
聖女マルガリータが「奇跡」を行う場所、日時、参加者。
教会関係者の配置。
巡業の動線と、警備と称した人員の数。
どれも、特別な手段を使うまでもなく集まる情報だった。
教会は今、自分たちが疑われているとは思っていない。
だから、警戒もしていない。
「……次は、中央広場ですのね」
書類に目を落とし、静かに呟く。
民衆が最も集まりやすい場所。
視界が開け、奇跡を“見せやすい”舞台。
そして、失敗すれば、言い逃れが難しい場所でもある。
ヘレンは、机に置かれたペンを指で転がした。
やることは、単純だ。
奇跡を壊す。
だが、力を誇示する必要はない。
重要なのは、自分が何もしなかったように見せること。
午後、ヘレンは執事を呼んだ。
「しばらく、私が外出しないように見せてください」
「かしこまりました」
「理由は、体調不良で結構ですわ。
大袈裟でなく、疑われない程度に」
執事は一瞬だけ首を傾げたが、深く詮索はしなかった。
長年仕えていれば、今の言葉が“準備”だと分かる。
その日の夜、ヘレンは書斎で一人、窓を開けた。
王都の空気が、静かに流れ込む。
遠くで、教会の鐘が鳴っていた。
「……奇跡というのは」
独り言のように、低く呟く。
「起こすより、壊す方が簡単ですの」
天声者としての力は、
何かを生み出すためだけのものではない。
人の意識をずらす。
集中を断つ。
支えになっている“前提”を、そっと外す。
それだけで、人が用意した奇跡は成立しなくなる。
ヘレンは、目を閉じた。
かつて、聖女だった頃。
同じ力を使って、救いも、裁きも行ってきた。
だが今回は違う。
(裁く気はありません)
彼女の目的は、罰ではない。
破滅でもない。
ただ、嘘を嘘として露出させること。
本物の力を持たない者が、
本物の名を使えないようにすること。
それだけだ。
翌朝、王都では大きな告知が出回った。
――中央広場にて、
――聖女マルガリータが
――新たな奇跡を披露する。
人々は期待し、
教会は自信満々だった。
ヘレンは、その知らせを聞き、静かに頷いた。
「ええ……ちょうどいいですわ」
表に出るつもりはない。
名乗るつもりもない。
それでも、
舞台は整った。
教会が作った“奇跡の舞台”で、
彼ら自身に、それが幻想だと気づかせる。
その準備は、
もう十分だった。
嵐の前の空気は、
驚くほど穏やかだった。
だからこそ――
誰も、この先に待つ展開を疑っていない。
最初の失敗が、
すぐそこまで迫っていることに。
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