聖女と呼ばれたくなかった公爵令嬢は、静かにざまぁを選ぶ

ふわふわ

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第十七話 重なる失敗

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第十七話 重なる失敗

 祈祷会の翌日、教会は沈黙した。

 公式な発表はなく、聖女マルガリータも姿を見せない。ただ、「点検のため」「体調回復のため」という曖昧な言葉だけが、関係者の口から繰り返された。

 だが、沈黙は安心を生まない。
 むしろ、人々の想像を膨らませる。

 王都の茶店では、声を潜めた会話が増えていた。

「浮遊の次は、祈祷会で転んだんですって」
「偶然が続きすぎじゃない?」
「……奇跡って、そんなに壊れやすいものかしら」

 誰も断定はしない。
 だが、誰も以前のように無条件では信じなくなっていた。

 ヘレン・バートンは、その様子を屋敷で静かに聞いていた。報告は簡潔で、感情を交えない。今は、余計な刺激を与えない方がいい。

「教会は、次の巡業を延期したそうです」

「当然ですわね」

 短く答え、書類を閉じる。

 失敗が続けば、準備期間を取る。
 演出を見直し、原因を探し、責任を押し付け合う。

 それは、どんな組織でも同じだ。

 午後、教会内部では、苛立ちが表に出始めていた。

「どうしてだ、今まで問題なかっただろう!」
「装置は全部、確認したはずだ!」
「……まさか、誰かが細工を?」

 その言葉に、場が一瞬静まる。

 だが、すぐに首が振られた。
 そんなことをする理由がない。
 そんなことができる者もいない。

 彼らの認識では、そうだった。

 マルガリータは、部屋の隅で黙り込んでいた。
 尻に残る鈍い痛みが、現実を突きつけてくる。

(……おかしい)

 失敗の前に、いつも一瞬、感覚がずれる。
 祈りが届いていないというより、何かに遮られているような。

 だが、それを口に出せば――。

「集中が足りないと言われるだけ」

 彼女は、唇を噛んだ。

 その夜、教会は急きょ、小規模な奇跡を行うことを決めた。
 大衆向けではない。
 限られた信者だけを集めた、室内での儀式だ。

 安全で、失敗しにくいはずだった。

 ヘレンは、その報せを聞き、静かに頷いた。

(確認作業ですわね)

 彼らは、自分たちがまだ“できる”と証明したい。
 だからこそ、同じ轍を踏む。

 儀式が始まる。

 小さな部屋。
 少人数の視線。
 静かな祈り。

 そして――また、起きた。

 灯されていた燭台の火が、同時に揺れ、いくつかが消えた。
 祝福の言葉に合わせて鳴るはずの鐘が、空振りの音を立てる。

「……?」

 沈黙が落ちる。

 奇跡は、起きなかった。
 何も、起きなかった。

 教会関係者の顔が、青ざめていく。

「……今日は、ここまでだ」

 慌てて解散が告げられ、信者たちは不安そうに帰っていった。

 ヘレンは、屋敷の窓辺で夜風を感じながら、静かに思う。

(もう、“たまたま”では説明できません)

 失敗は、連続した。
 規模も、場所も、形式も変えたのに。

 残る答えは、一つだけだ。

 ――奇跡は、最初から存在しなかった。

 王都の空気が、確実に変わり始めていた。
 信じる声より、確かめる視線が増えている。

 ヘレンは、目を閉じる。

(ここからは……早いですわ)

 一度崩れた信用は、
 同じやり方では、もう戻らない。

 そして教会は、
 その事実に、まだ気づいていなかった。
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