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第二十四話 静かな対面
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第二十四話 静かな対面
その知らせは、控えめな形で届いた。
「……聖女マルガリータが、お会いしたいと申しております」
執事の声には、判断を委ねる余白があった。
断っても、不自然ではない。
受けても、騒ぎにはならない。
ヘレン・バートンは、少しだけ考え、頷いた。
「構いませんわ。
ただし、公的な場ではなく、この屋敷で」
過去を清算するのに、観衆はいらない。
数日後、マルガリータは質素な馬車で屋敷を訪れた。
かつての華やかな衣装はなく、装飾も最低限だ。だが、その姿は以前よりも落ち着いて見えた。
応接室に通されると、彼女は深く頭を下げた。
「……お時間をいただき、ありがとうございます」
「どうぞ、お掛けになって」
ヘレンの声は、穏やかだった。
責める響きも、試す色もない。
一瞬、沈黙が流れる。
先に口を開いたのは、マルガリータだった。
「……謝りたくて、来ました」
言葉は、慎重に選ばれている。
「私がしたことは、言い訳できません。
でも……あのまま嘘を重ねるより、
最後に正直になることだけは、
間違いじゃなかったと、思いたいんです」
ヘレンは、カップを置いた。
「ええ。
それは、間違っていませんわ」
その肯定に、マルガリータの肩がわずかに下がる。
「私、あなたが……
ヘレン様が、何かしていたことは、
薄々、感じていました」
視線が、恐る恐る向けられる。
「でも……それが誰なのか、
なぜなのか、
最後まで、分かりませんでした」
ヘレンは、少しだけ微笑んだ。
「知らなくてよかったのです」
「……え?」
「知っていたら、
あなたは、もっと早く壊れていた」
その言葉は、突き放すものではなかった。
むしろ、静かな配慮だった。
マルガリータは、しばらく黙り込み、やがて小さく息を吐く。
「……私、これからどうすればいいのか、
まだ分かりません」
「分からないままで、よろしいのですわ」
ヘレンは、窓の外に視線を向けた。
「役割を失った直後に、
答えが見つかる人はいません」
少し間を置いて、続ける。
「ただ一つだけ。
“奇跡を起こさなくていい自分”を、
否定しないことです」
マルガリータは、その言葉を、
何度か心の中で繰り返した。
「……ありがとうございます」
それは、許しを求める言葉ではなかった。
理解されたことへの、感謝だった。
別れ際、マルガリータは振り返り、問いかける。
「ヘレン様は……後悔していますか?」
ヘレンは、ほんの一瞬だけ考え、首を振った。
「いいえ。
ただ……少し、大人げなかったかしら、とは思います」
その答えに、マルガリータは、かすかに笑った。
馬車が去ったあと、応接室には静けさが戻る。
ヘレンは、一人で紅茶を飲み干した。
(これで、本当に終わりですわね)
復讐でも、断罪でもない。
ただ、役割が終わり、
人が人に戻っただけ。
それで十分だと、
彼女は、静かに思っていた。
その知らせは、控えめな形で届いた。
「……聖女マルガリータが、お会いしたいと申しております」
執事の声には、判断を委ねる余白があった。
断っても、不自然ではない。
受けても、騒ぎにはならない。
ヘレン・バートンは、少しだけ考え、頷いた。
「構いませんわ。
ただし、公的な場ではなく、この屋敷で」
過去を清算するのに、観衆はいらない。
数日後、マルガリータは質素な馬車で屋敷を訪れた。
かつての華やかな衣装はなく、装飾も最低限だ。だが、その姿は以前よりも落ち着いて見えた。
応接室に通されると、彼女は深く頭を下げた。
「……お時間をいただき、ありがとうございます」
「どうぞ、お掛けになって」
ヘレンの声は、穏やかだった。
責める響きも、試す色もない。
一瞬、沈黙が流れる。
先に口を開いたのは、マルガリータだった。
「……謝りたくて、来ました」
言葉は、慎重に選ばれている。
「私がしたことは、言い訳できません。
でも……あのまま嘘を重ねるより、
最後に正直になることだけは、
間違いじゃなかったと、思いたいんです」
ヘレンは、カップを置いた。
「ええ。
それは、間違っていませんわ」
その肯定に、マルガリータの肩がわずかに下がる。
「私、あなたが……
ヘレン様が、何かしていたことは、
薄々、感じていました」
視線が、恐る恐る向けられる。
「でも……それが誰なのか、
なぜなのか、
最後まで、分かりませんでした」
ヘレンは、少しだけ微笑んだ。
「知らなくてよかったのです」
「……え?」
「知っていたら、
あなたは、もっと早く壊れていた」
その言葉は、突き放すものではなかった。
むしろ、静かな配慮だった。
マルガリータは、しばらく黙り込み、やがて小さく息を吐く。
「……私、これからどうすればいいのか、
まだ分かりません」
「分からないままで、よろしいのですわ」
ヘレンは、窓の外に視線を向けた。
「役割を失った直後に、
答えが見つかる人はいません」
少し間を置いて、続ける。
「ただ一つだけ。
“奇跡を起こさなくていい自分”を、
否定しないことです」
マルガリータは、その言葉を、
何度か心の中で繰り返した。
「……ありがとうございます」
それは、許しを求める言葉ではなかった。
理解されたことへの、感謝だった。
別れ際、マルガリータは振り返り、問いかける。
「ヘレン様は……後悔していますか?」
ヘレンは、ほんの一瞬だけ考え、首を振った。
「いいえ。
ただ……少し、大人げなかったかしら、とは思います」
その答えに、マルガリータは、かすかに笑った。
馬車が去ったあと、応接室には静けさが戻る。
ヘレンは、一人で紅茶を飲み干した。
(これで、本当に終わりですわね)
復讐でも、断罪でもない。
ただ、役割が終わり、
人が人に戻っただけ。
それで十分だと、
彼女は、静かに思っていた。
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