聖女と呼ばれたくなかった公爵令嬢は、静かにざまぁを選ぶ

ふわふわ

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第二十三話 残された者たち

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第二十三話 残された者たち

 教会の再編は、水面下で進んでいた。

 表向きには「内部調査」と「信仰の立て直し」という言葉が並ぶが、実際に行われているのは、資金の洗い出しと責任の所在の整理だった。帳簿は複雑に分かれ、寄付金の流れは巧妙に隠されている。だが、一度疑念が生まれた以上、隠し通せるものではない。

 関係者の一部は、早々に距離を取った。
 名を出さず、役職も曖昧にし、何も知らなかった顔で姿を消す。

 残された者たちは、沈黙の中で待つしかなかった。

 マルガリータは、教会の離れに移されていた。豪邸と呼ばれていた建物から比べれば、驚くほど質素だが、不思議と不満はなかった。毎朝、決まった時間に起き、簡単な仕事を手伝い、夜は静かに眠る。

 誰も、彼女を「聖女」とは呼ばない。

 それが、少しだけ寂しく、
 同時に、ひどく安らかだった。

(私は、これでよかったのよね)

 そう思おうとすると、胸の奥が小さく痛む。
 だが、あの舞台に戻りたいとは、もう思わなかった。

 王都では、裁きが始まりつつあった。

 表沙汰になるのは、ほんの一部だ。
 すべてを暴けば、混乱が大きくなりすぎる。

 だから、象徴となる者が選ばれ、
 制度だけが「改められた」と発表される。

 現実は、いつも折衷だ。

 ヘレン・バートンは、その報告を淡々と受け取っていた。
 書斎の机に積まれた紙束を一瞥し、必要なものだけに目を通す。

「……妥当ですわね」

 完全な正義ではない。
 だが、完全な不正を許すよりは、ずっといい。

 午後、ヘレンは久しぶりに庭に出た。冬の名残を残す風が、葉を揺らす。ここには、奇跡も、演出もない。ただ、季節が移ろうだけだ。

(かつての私は、ここで祈っていたのかしら)

 前世の記憶が、ふと掠める。
 聖女ヘレンヘレンとして、人々の願いを聞いていた日々。

 あの頃は、力があった。
 だが、力があるからこそ、歪みも生まれた。

 今世では、違う立場にいる。
 力を振るうのではなく、
 距離を置き、見極める側として。

 それでいい、とヘレンは思う。

 夕方、王都の鐘が鳴った。
 特別な意味はない、いつもの合図。

 だが、その音を聞きながら、人々はそれぞれに考えている。

 ――信じるとは、何だったのか。
 ――誰の言葉を、どこまで受け取るべきか。

 答えは、簡単には出ない。
 それでも、問いを持ったこと自体が、
 以前とは違う一歩だった。

 ヘレンは、屋敷へ戻り、再び本を開く。

 この物語は、もう終盤だ。
 だが、完全な終わりではない。

 残された者たちは、
 それぞれの場所で、
 それぞれの続きを生きていく。

 そしてそれを、
 彼女は、静かに見送るつもりだった。
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