聖女と呼ばれたくなかった公爵令嬢は、静かにざまぁを選ぶ

ふわふわ

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第二十二話 余波の行き先

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第二十二話 余波の行き先

 教会の静まり返った空気は、数日で王都全体へと染み出していった。

 急激な混乱は起きなかったが、小さな変化は確実に積み重なっていく。寄付の帳簿が合わなくなり、巡業の予定はすべて白紙に戻された。護符を扱っていた商人たちは、売れ残った品を前に頭を抱え、教会と距離を置き始める。

 信仰は消えていない。
 ただ、向かう先が変わっただけだ。

 人々は、派手な奇跡よりも、身近な祈りへと戻っていく。古い神殿、小さな礼拝所、あるいは家庭での静かな祈り。奇跡を見せられる信仰ではなく、支えとしての信仰へ。

 それは、教会にとって最も都合の悪い流れだった。

 マルガリータは、教会の一室で、簡素な服に着替えさせられていた。聖女としての衣装は、すでに回収されている。重たい装飾がなくなった身体は、不思議なほど軽い。

 司教が、疲れた声で告げる。

「しばらく、表に出ることは控えなさい。
 ……君自身のためにも」

 その言葉に、保身が混じっていることを、彼女は理解していた。それでも、反論する気力はなかった。

「分かりました」

 短く答え、頭を下げる。

 部屋を出るとき、ふと足が止まった。

(私は……これから、どうなるの)

 答えは出ない。
 だが、少なくとも一つだけ確かなことがある。

 ――もう、嘘をつかなくていい。

 一方、ヘレン・バートンは、王宮からの非公式な招待を受けていた。名目は、近況報告と意見交換。実際には、誰もが知っている件についての探りだ。

 応接室で向かい合ったのは、王家の側近だった。

「今回の件……公爵家としては、どのようにお考えですか」

 ヘレンは、わずかに首を傾ける。

「教会が何を信じさせ、何を売っていたのか。
 それが明るみに出ただけですわ」

 感情は、乗せない。

「裁くのは、王家と法の役目です。
 私の立場では、意見以上のことは」

 側近は、静かに頷いた。

「……公爵令嬢として、冷静なお答えです」

 それ以上、踏み込んだ話はなかった。

 帰路の馬車の中で、ヘレンは小さく息を吐く。

(これで、表の話は終わり)

 あとは、裏での整理が進むだけだ。資金の流れ、関係者の処分、教会の再編。時間はかかるが、避けられない。

 屋敷に戻ると、紅茶の香りが迎えてくれた。
 本を開き、ページをめくる。

 平穏な時間。
 だが、完全な終わりではない。

 信仰を利用した歪みが消えれば、
 次は、別の形で現れる。

 ヘレンは、静かに思う。

(次に出てくるものが、
 同じ過ちを繰り返さないといいのですが)

 その願いには、期待も、諦めも混じっていた。

 王都は、今日も動いている。
 何かを失い、
 何かを学びながら。

 そして、
 この物語は、
 終わりに向かって、
 ゆっくりと歩み続けていた。
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