ガハハと笑う公爵令嬢は、王太子の自由を縛らない ~水戸黄門ムーブでざまぁします~

ふわふわ

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第22話 「見に来る貴族」と「見る人間」

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第22話 「見に来る貴族」と「見る人間」

 王都の朝は、いつもより騒がしかった。

 人の流れが、微妙に変わっている。
 宿屋の前で荷を下ろす者。
 工房を探して歩く職人。
 掲示板の前で、依頼書を食い入るように読む若者たち。

 ――ウィンタースイート公爵領、求人多数。

 その張り紙の前で、数人の男たちが立ち止まっていた。

「……王都より条件がいいな」 「賃金だけじゃねぇ。
 “話を聞いてくれる”って書いてある」

「話を?」

「領主が現場に来るってさ」

 誰かが、鼻で笑う。

「領主が来る?
 どうせ、上から見下ろすだけだろ」

 だが、別の男が首を振った。

「いや、違うらしい」

「“見る”んじゃねぇ。
 “混ざる”って話だ」

 その言葉に、場が静まった。


---

 同じ頃。

 王都の別の場所では、
 アルバート・フィリックスが、再び現場に立っていた。

 今度は、市街地の舗装工事。

 前回の倉庫街より、人目が多い。
 つまり、“見られる”。

(……今回は、違う)

 アルバートは、内心でそう思っていた。

 ただ見るだけでは、意味がない。
 それくらいは、分かってきた。

「進捗は?」

 声をかける。

「は、はい!
 予定通りです!」

 現場責任者は、即答する。

 その反応に、アルバートは眉をひそめた。

(……予定通り、か)

 前回も、同じ言葉を聞いた。
 だが、その裏で、何が起きているかまでは分からない。

「……問題点は?」

「特に、ございません!」

 きっぱりした返答。

 だが、それが本当かどうか、判断できない。

 アルバートは、しばらく沈黙し――
 やがて、口を開いた。

「……よし。
 引き続き、頼む」

 それ以上、何も言えなかった。

 従者たちが、視線を交わす。

(……まただ)

 現場の空気が、再び止まる。

 作業員たちは、彼が立ち去るのを待ってから、小さく息を吐いた。

「……で、何だったんだ?」 「さあ……」

「怒られなかっただけ、マシか」

 誰かがそう言って、肩をすくめた。

 だが、誰も“助かった”とは言わなかった。


---

 一方。

 ウィンタースイート公爵領の外れ。

 ガラリアは、簡素な作業小屋の前に立っていた。

 集まっているのは、数人の職人と、若い見習い。

「で、困ってるのは何だ」

 いきなり、核心から入る。

「……材料が、足りません」

 職人の一人が、正直に答えた。

「王都からの仕入れが遅れていて……」

「理由は?」

「他の現場が優先されてるみたいで」

 ガラリアは、頷いた。

「分かった」

 短い言葉。

「今日中に、代替ルートを通す」

 職人たちが、驚いて顔を上げる。

「え、そんなすぐ……」

「通す」

 きっぱりと言い切る。

「その代わり」

 ガラリアは、指を一本立てた。

「工程、組み直せ」

「無理すんな」

「遅れは、私が背負う」

 現場の空気が、変わった。

 誰も、文句を言わない。
 誰も、遠慮しない。

「……分かりました!」

 その返事は、迷いがなかった。


---

 その様子を、少し離れた場所で、ディーンが見ていた。

 今日は、同行ではない。
 あくまで、視察。

 だが、口は出さない。

(……違いが、はっきりしてきた)

 アルバートと、ガラリア。

 二人とも、現場に来る。
 二人とも、身分は高い。

 だが――

(“来た理由”が、違う)

 アルバートは、
 「来た」という事実を作りに来ている。

 ガラリアは、
 「見るため」に来ている。

 そして、“見る”とは――
 責任を引き受ける覚悟だ。


---

 夕方。

 ディーンは、ガラリアと合流した。

「今日は、見ていました」

「そうか」

 ガラリアは、特に気にした様子もない。

「何か、分かったか」

 ディーンは、少し考えてから答えた。

「……違いは、
 “口を開く順番”だと思います」

 ガラリアは、目を細めた。

「ほう」

「アルバートは、
 説明を求める前に、立場を示す」

「あなたは」

 ディーンは、言葉を選ぶ。

「先に、聞く」

「それから、決める」

 ガラリアは、ふっと笑った。

「まぁ、そうだな」

「殿下は?」

「……私は」

 ディーンは、正直に言った。

「まだ、聞く前に考えてしまいます」

「それでいい」

 即答だった。

「考えるな、とは言わねぇ」

「だがな」

 ガラリアは、空を見上げる。

「現場じゃ、
 考えてる間に、壊れるもんもある」

「だから私は、
 分かる前に、立つ」

 ディーンは、その言葉を胸に刻んだ。


---

 その夜。

 アルバートは、社交界の席にいた。

 だが、会話が耳に入らない。

「最近、
 ウィンタースイート公爵領、人気よね」

「ええ。
 職人が集まってるって」

「“働きやすい”って評判」

 その言葉が、胸に刺さる。

(……なぜだ)

 俺も、行った。
 俺も、見た。

 なのに。

(……何が、違う)

 答えは、まだ見えない。

 だが、確実に言えることがある。

 現場は、もう彼を見ていない。

 見ているのは――
 “見る人間”の背中だけだ。

 その事実が、
 アルバートの胸に、重くのしかかっていた。
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