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第40話 ガハハと笑う日常(エピローグ)
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第40話 ガハハと笑う日常(エピローグ)
朝の空気は、少し冷たくて、澄んでいた。
ウィンタースイート公爵領の外れ。
小高い丘の向こうにある孤児院から、いつも通りの喧騒が聞こえてくる。
「おらぁ! ガキどもー! 朝っぱらから走り回るんじゃねぇ!」
張りのある声が響いた直後、
子どもたちの笑い声が、追いかけるように弾けた。
「でもお嬢様ー!」 「早く来ないと、朝ごはんなくなるって言われたー!」
「だから走るなっつってんだろ!
転んだら飯どころじゃねぇぞ!」
怒鳴りながらも、
ガラリアの手は迷いなく伸び、
つまずいた子どもの肩を掴んで支える。
「ほら、ちゃんと歩け。
飯は逃げねぇ」
「はーい!」
そのやり取りを、
少し離れた場所から、ディーンが眺めていた。
王太子としての正装ではなく、
今日は動きやすい簡素な服装だ。
「……毎回思いますが」
苦笑交じりに声をかける。
「怒鳴っているようで、
誰よりも周りを見ていますよね」
「当たり前だろ」
ガラリアは、
手を腰に当てて言い切る。
「ガキは予測不能だ。
見てねぇと、すぐ怪我する」
「王太子妃としての模範的な発言では、
ありませんね」
「模範なんて、知らねぇ」
そう言ってから、
ガラリアは、ふっと表情を緩めた。
「でもな。
守るってのは、こういうことだ」
ディーンは、
その言葉を、
静かに噛みしめた。
---
正式な婚約が発表されてから、
すでに、しばらくの時が経っている。
王宮は混乱し、
社交界は騒然とし、
反対の声も、確かにあった。
――王太子妃に相応しくない。
――品位がない。
――前例がない。
だが、それらの声は、
いつの間にか、
“現実”の前に沈黙した。
王都と公爵領。
どちらも、目に見えて変わったからだ。
現場の声が上がり、
改善が早く、
人が定着する。
理由は、
誰もが理解している。
トップが、
現場を「見ている」から。
そして――
「分からないまま、尊重している」から。
---
「殿下ー! これ見てー!」
子どもの一人が、
ディーンの服の裾を引っ張った。
「どうした?」
「昨日ね、
お嬢様が言ってた通りにしたら、
畑、うまくいった!」
「……ほう」
ガラリアが、
後ろから鼻で笑う。
「だから言ったろ。
水やりは、やり過ぎんなって」
「えへへ!」
その様子を見て、
ディーンは、
心の奥で確信する。
――この人は、
誰かの上に立つために、
生きているのではない。
誰かの「隣」に立つために、
生きている。
それが、
王太子妃であっても、
孤児院の“うるさいお嬢様”であっても、
変わらない。
---
昼下がり。
孤児院の庭で、
簡素な食事が並べられた。
「おら、順番!
並べっつってんだろ!」
ガラリアの怒鳴り声が飛ぶ。
「ディーン、
あんたも突っ立ってねぇで、
配れ!」
「はいはい……」
苦笑しながらも、
ディーンは自然に動いた。
王太子が、
皿を運び、
水を配る。
誰も、
それを不思議だとは思わない。
ここでは、
それが“普通”だからだ。
「なぁ」
ガラリアが、
ふいに言った。
「……ん?」
「後悔してねぇか?」
ディーンは、
一瞬だけ考えてから、
首を振る。
「いいえ」
「こんなだぞ?
俺は」
「知っています」
ディーンは、
真っ直ぐに答えた。
「だから、です」
ガラリアは、
数秒、黙ったあと――
「……変なやつ」
そう言って、
大きく笑った。
「ガハハハハ!」
腹の底から、
遠慮のない笑い声。
その音は、
孤児院の庭に、
気持ちよく響いた。
---
夕暮れ。
帰りの馬車に向かいながら、
ディーンは言う。
「あなたの自由を、
縛るつもりはありません」
ガラリアは、
歩きながら、
ちらりと横目で見る。
「今さら、だな」
「ええ。
今さらです」
王太子として、
できることは多い。
だが、
彼女の笑い声を、
彼女の歩き方を、
彼女の生き方を、
“変える権利”など、
最初から持っていない。
それでいい。
それがいい。
---
夜。
王宮の一室で、
ガラリアは窓を開け、
外の風を吸い込んだ。
「……ま、
なるようになるさ」
誰に向けた言葉でもない。
ただの、
独り言。
けれど、
その背後で、
ディーンは微笑んだ。
なるようになる。
彼女がいる限り、
その“なるよう”は、
きっと、
人の声が聞こえる場所だ。
現場があり、
笑い声があり、
ガハハと笑う公爵令嬢がいる。
――それが、
この国の、
新しい日常になる。
そして今日もまた、
どこかで――
「おらぁ! ちゃんと並べー!」
その声が、
変わらず、
響いている。
ガハハと笑いながら。
朝の空気は、少し冷たくて、澄んでいた。
ウィンタースイート公爵領の外れ。
小高い丘の向こうにある孤児院から、いつも通りの喧騒が聞こえてくる。
「おらぁ! ガキどもー! 朝っぱらから走り回るんじゃねぇ!」
張りのある声が響いた直後、
子どもたちの笑い声が、追いかけるように弾けた。
「でもお嬢様ー!」 「早く来ないと、朝ごはんなくなるって言われたー!」
「だから走るなっつってんだろ!
転んだら飯どころじゃねぇぞ!」
怒鳴りながらも、
ガラリアの手は迷いなく伸び、
つまずいた子どもの肩を掴んで支える。
「ほら、ちゃんと歩け。
飯は逃げねぇ」
「はーい!」
そのやり取りを、
少し離れた場所から、ディーンが眺めていた。
王太子としての正装ではなく、
今日は動きやすい簡素な服装だ。
「……毎回思いますが」
苦笑交じりに声をかける。
「怒鳴っているようで、
誰よりも周りを見ていますよね」
「当たり前だろ」
ガラリアは、
手を腰に当てて言い切る。
「ガキは予測不能だ。
見てねぇと、すぐ怪我する」
「王太子妃としての模範的な発言では、
ありませんね」
「模範なんて、知らねぇ」
そう言ってから、
ガラリアは、ふっと表情を緩めた。
「でもな。
守るってのは、こういうことだ」
ディーンは、
その言葉を、
静かに噛みしめた。
---
正式な婚約が発表されてから、
すでに、しばらくの時が経っている。
王宮は混乱し、
社交界は騒然とし、
反対の声も、確かにあった。
――王太子妃に相応しくない。
――品位がない。
――前例がない。
だが、それらの声は、
いつの間にか、
“現実”の前に沈黙した。
王都と公爵領。
どちらも、目に見えて変わったからだ。
現場の声が上がり、
改善が早く、
人が定着する。
理由は、
誰もが理解している。
トップが、
現場を「見ている」から。
そして――
「分からないまま、尊重している」から。
---
「殿下ー! これ見てー!」
子どもの一人が、
ディーンの服の裾を引っ張った。
「どうした?」
「昨日ね、
お嬢様が言ってた通りにしたら、
畑、うまくいった!」
「……ほう」
ガラリアが、
後ろから鼻で笑う。
「だから言ったろ。
水やりは、やり過ぎんなって」
「えへへ!」
その様子を見て、
ディーンは、
心の奥で確信する。
――この人は、
誰かの上に立つために、
生きているのではない。
誰かの「隣」に立つために、
生きている。
それが、
王太子妃であっても、
孤児院の“うるさいお嬢様”であっても、
変わらない。
---
昼下がり。
孤児院の庭で、
簡素な食事が並べられた。
「おら、順番!
並べっつってんだろ!」
ガラリアの怒鳴り声が飛ぶ。
「ディーン、
あんたも突っ立ってねぇで、
配れ!」
「はいはい……」
苦笑しながらも、
ディーンは自然に動いた。
王太子が、
皿を運び、
水を配る。
誰も、
それを不思議だとは思わない。
ここでは、
それが“普通”だからだ。
「なぁ」
ガラリアが、
ふいに言った。
「……ん?」
「後悔してねぇか?」
ディーンは、
一瞬だけ考えてから、
首を振る。
「いいえ」
「こんなだぞ?
俺は」
「知っています」
ディーンは、
真っ直ぐに答えた。
「だから、です」
ガラリアは、
数秒、黙ったあと――
「……変なやつ」
そう言って、
大きく笑った。
「ガハハハハ!」
腹の底から、
遠慮のない笑い声。
その音は、
孤児院の庭に、
気持ちよく響いた。
---
夕暮れ。
帰りの馬車に向かいながら、
ディーンは言う。
「あなたの自由を、
縛るつもりはありません」
ガラリアは、
歩きながら、
ちらりと横目で見る。
「今さら、だな」
「ええ。
今さらです」
王太子として、
できることは多い。
だが、
彼女の笑い声を、
彼女の歩き方を、
彼女の生き方を、
“変える権利”など、
最初から持っていない。
それでいい。
それがいい。
---
夜。
王宮の一室で、
ガラリアは窓を開け、
外の風を吸い込んだ。
「……ま、
なるようになるさ」
誰に向けた言葉でもない。
ただの、
独り言。
けれど、
その背後で、
ディーンは微笑んだ。
なるようになる。
彼女がいる限り、
その“なるよう”は、
きっと、
人の声が聞こえる場所だ。
現場があり、
笑い声があり、
ガハハと笑う公爵令嬢がいる。
――それが、
この国の、
新しい日常になる。
そして今日もまた、
どこかで――
「おらぁ! ちゃんと並べー!」
その声が、
変わらず、
響いている。
ガハハと笑いながら。
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