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2-4 神罰と“返品お断り”の真意
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第2章 辺境スローライフ始動!
2-4 神罰と“返品お断り”の真意
――王都が静かに崩れ始めたのは、アリアが“返品拒否宣言”をして三日後のことだった。
神殿の大祈祷で、“新聖女”リリィが神に祈りを捧げたにもかかわらず、
光は降りず、聖水は黒く濁った。
そして翌朝、王宮中の花が一斉に枯れ、家畜が不調を訴えた。
> 「なぜ……? 神が……沈黙している!?」
王太子リュシアンは顔面蒼白になりながら、祭壇にすがりついた。
しかし、その祈りは――空に届くことはなかった。
---
一方その頃、辺境のグランツ領では。
「アリア様! 王都が大変なことになっているそうです!」
「まあ、ついに“真実の愛”が賞味期限切れを迎えましたのね♡」
村人の報告に、私は紅茶をすすりながら静かに頷いた。
神殿から神の加護が消える――それはつまり、神が“信仰の対象”を入れ替えたということ。
「……本当に、そうなるとはな」
レオン様が窓の外を見つめながら呟く。
「神は気まぐれですわ。でも、少なくとも“嘘の祈り”には興味がないのでしょう」
「……“嘘の祈り”か」
私は頷きながら、ティーカップを置いた。
「わたくし、思うのですの。神様って、意外と皮肉屋なのではなくて?」
「皮肉屋?」
「だって、“真実の愛”を掲げた二人が国を滅ぼし、“返品不可”の私が村を豊かにしているんですのよ♡」
レオンが吹き出した。
「……確かに、神のユーモアは冷たいな」
「ですわね。おそらく、あの方も少々“ざまぁ”がお好きなんですの♡」
---
それから数日後。
王都から二通目の使者が到着した――だが今度は雰囲気が違った。
疲れ果て、鎧は泥だらけ、顔は青ざめている。
「お、お願いです……アリア様……!」
馬車から転がり出るようにして、男は地面にひれ伏した。
「王都が……王都が……!」
私は彼を見下ろして、優雅に首を傾げる。
「まあまぁ、まるで返品希望者の“最終セール”のようですわね」
「ち、違います! これは命令ではなく懇願です!」
「懇願?」
使者の声は震えていた。
> 「王太子殿下はお倒れになり、聖女リリィ様の祈りは暴走しております!
王宮中が光に包まれ……人々は昏睡し……神殿も崩れかけているのです!」
「まあ……それはそれは、“真実の愛”がずいぶん激しい余波をお持ちで」
「ど、どうかお願いします! アリア様、あなた様だけが、あの暴走を鎮められる!」
私はしばらく黙り込んだ。
胸の奥で、何かがわずかに疼く。
王都の人々――あの冷たい神殿で、私を断罪した人々。
彼らの苦しみを聞いても、心が痛むほどの優しさは、もう残っていないと思っていた。
けれど。
助けを求める声には、確かに“本物の恐怖”が宿っていた。
---
レオン様が静かに口を開く。
「アリア。……行くつもりか?」
「ええ、考えておりますの」
「彼らは君を傷つけた。赦す必要など――」
「赦すためじゃありませんわ」
私は立ち上がり、風に揺れるカーテンを見つめた。
「ただ、“神の沈黙”の理由を、私自身の目で確かめたいのですの」
「理由?」
「神が沈黙しているのは、“愛が汚れたから”ではなく、“祈りが歪んだから”かもしれませんわ」
レオンはしばし黙り、そして苦笑した。
「……君は本当に、面倒な女だ」
「ええ、“面倒でも見捨てられない”と評判ですの♡」
その言葉に、彼が微かに笑った。
---
王都へ向かう準備が整うまで、わずか一日。
村人たちは涙を浮かべて送り出してくれた。
「アリア様、本当に行くの?」
「ええ、大丈夫ですわ。神様が私をここまで導いたのですもの。
今度は、神様のいたずらの続きを見届けてまいります♡」
レオンは馬を引きながら、低い声で言った。
「無茶はするな」
「まあ、レオン様が同行してくださるの?」
「君を一人で王都に返すものか」
「まあまあ、心強い“返品防止タグ”付きですわね♡」
「……タグ扱いするな」
二人で笑った。
---
道中。
荒れ果てた道、倒れた馬車、枯れた木々。
王都に近づくにつれて、景色はどんどん灰色に染まっていった。
「……本当に、ここがかつての王都か?」
「ええ。神様の皮肉は容赦がありませんわね」
街の門をくぐると、そこには沈黙した兵士たちと倒れた民。
空には、淡く光る“祈りの霧”が漂っていた。
「アリア、あれは……」
「リリィの祈りが暴走しているのですわ」
彼女の祈りが、もはや“救い”ではなく“支配”になっていた。
光は街を覆い、人々の意識を奪いながら、ゆっくりと神殿を中心に広がっていく。
---
私は神殿の前で立ち止まり、両手を組んだ。
「……殿下、そしてリリィ。あなたたちの“真実の愛”の結果を、しっかり拝見しましたわ」
レオンが剣を抜く。
「アリア、下がれ!」
「いいえ、これは私の領分ですの」
私は静かに目を閉じ、祈った。
かつて神に仕えた者としてではなく――
一人の人間として。
> 『神よ、どうか見届けてくださいませ。
誰かを傷つける祈りではなく、
誰かを守る祈りこそが“愛”であると。』
その瞬間、光が揺れた。
空を覆っていた“祈りの霧”が、花びらのように舞い散る。
神殿の鐘が鳴り、眩しい白光が辺りを包み――
やがて、静寂。
---
リリィは膝をついて泣いていた。
「ど、どうして……どうして、私は認められないの……!?」
その前に立つ王太子は、虚ろな瞳でアリアを見つめた。
「アリア……お前が……本物の聖女だったのか……」
私は小さく首を振った。
「いいえ。わたくしはもう聖女ではありませんの。
ただ、“返品不可の元婚約者”ですわ♡」
レオンが一歩前へ出て、王太子を睨む。
「彼女を“物”のように扱った報いだ。
お前はその愚かさを、生涯噛みしめるがいい」
王太子は、ただ膝をついて動けなかった。
---
その後。
神殿は再び静けさを取り戻し、人々の意識も戻った。
けれど王都の噂はすぐに広まった。
> 「追放された聖女が、再び奇跡を起こした」
「神は真実を見ていたのだ」
「“返品不可”の聖女が、神の寵愛を受けた」
まったく、皮肉なことですわ。
あの頃は「偽聖女」と呼ばれたのに、
今は「神に選ばれし者」だなんて。
---
数日後。
私はレオンと共に再び辺境へ戻った。
久しぶりの畑の香りが、心を落ち着かせてくれる。
「やっぱり、ここが一番ですわねぇ……」
「そうだな」
「王都の連中、今ごろ騒いでいるでしょうけど」
「放っておけ。お前の“返品不可”は、もう全王国に知れ渡っている」
「まあ、それはそれでちょっと恥ずかしいですわ♡」
レオンが微笑んだ。
「だが、私はその言葉が好きだ」
「え?」
「“返品不可”。
つまり、お前はここにいていい――そう聞こえる」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……まあ、レオン様。そんな風に言われたら……」
「なんだ?」
「返品どころか、“予約済み”ですわね♡」
彼が噴き出し、二人の笑い声が畑にこだました。
---
2-4 神罰と“返品お断り”の真意
――王都が静かに崩れ始めたのは、アリアが“返品拒否宣言”をして三日後のことだった。
神殿の大祈祷で、“新聖女”リリィが神に祈りを捧げたにもかかわらず、
光は降りず、聖水は黒く濁った。
そして翌朝、王宮中の花が一斉に枯れ、家畜が不調を訴えた。
> 「なぜ……? 神が……沈黙している!?」
王太子リュシアンは顔面蒼白になりながら、祭壇にすがりついた。
しかし、その祈りは――空に届くことはなかった。
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一方その頃、辺境のグランツ領では。
「アリア様! 王都が大変なことになっているそうです!」
「まあ、ついに“真実の愛”が賞味期限切れを迎えましたのね♡」
村人の報告に、私は紅茶をすすりながら静かに頷いた。
神殿から神の加護が消える――それはつまり、神が“信仰の対象”を入れ替えたということ。
「……本当に、そうなるとはな」
レオン様が窓の外を見つめながら呟く。
「神は気まぐれですわ。でも、少なくとも“嘘の祈り”には興味がないのでしょう」
「……“嘘の祈り”か」
私は頷きながら、ティーカップを置いた。
「わたくし、思うのですの。神様って、意外と皮肉屋なのではなくて?」
「皮肉屋?」
「だって、“真実の愛”を掲げた二人が国を滅ぼし、“返品不可”の私が村を豊かにしているんですのよ♡」
レオンが吹き出した。
「……確かに、神のユーモアは冷たいな」
「ですわね。おそらく、あの方も少々“ざまぁ”がお好きなんですの♡」
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それから数日後。
王都から二通目の使者が到着した――だが今度は雰囲気が違った。
疲れ果て、鎧は泥だらけ、顔は青ざめている。
「お、お願いです……アリア様……!」
馬車から転がり出るようにして、男は地面にひれ伏した。
「王都が……王都が……!」
私は彼を見下ろして、優雅に首を傾げる。
「まあまぁ、まるで返品希望者の“最終セール”のようですわね」
「ち、違います! これは命令ではなく懇願です!」
「懇願?」
使者の声は震えていた。
> 「王太子殿下はお倒れになり、聖女リリィ様の祈りは暴走しております!
王宮中が光に包まれ……人々は昏睡し……神殿も崩れかけているのです!」
「まあ……それはそれは、“真実の愛”がずいぶん激しい余波をお持ちで」
「ど、どうかお願いします! アリア様、あなた様だけが、あの暴走を鎮められる!」
私はしばらく黙り込んだ。
胸の奥で、何かがわずかに疼く。
王都の人々――あの冷たい神殿で、私を断罪した人々。
彼らの苦しみを聞いても、心が痛むほどの優しさは、もう残っていないと思っていた。
けれど。
助けを求める声には、確かに“本物の恐怖”が宿っていた。
---
レオン様が静かに口を開く。
「アリア。……行くつもりか?」
「ええ、考えておりますの」
「彼らは君を傷つけた。赦す必要など――」
「赦すためじゃありませんわ」
私は立ち上がり、風に揺れるカーテンを見つめた。
「ただ、“神の沈黙”の理由を、私自身の目で確かめたいのですの」
「理由?」
「神が沈黙しているのは、“愛が汚れたから”ではなく、“祈りが歪んだから”かもしれませんわ」
レオンはしばし黙り、そして苦笑した。
「……君は本当に、面倒な女だ」
「ええ、“面倒でも見捨てられない”と評判ですの♡」
その言葉に、彼が微かに笑った。
---
王都へ向かう準備が整うまで、わずか一日。
村人たちは涙を浮かべて送り出してくれた。
「アリア様、本当に行くの?」
「ええ、大丈夫ですわ。神様が私をここまで導いたのですもの。
今度は、神様のいたずらの続きを見届けてまいります♡」
レオンは馬を引きながら、低い声で言った。
「無茶はするな」
「まあ、レオン様が同行してくださるの?」
「君を一人で王都に返すものか」
「まあまあ、心強い“返品防止タグ”付きですわね♡」
「……タグ扱いするな」
二人で笑った。
---
道中。
荒れ果てた道、倒れた馬車、枯れた木々。
王都に近づくにつれて、景色はどんどん灰色に染まっていった。
「……本当に、ここがかつての王都か?」
「ええ。神様の皮肉は容赦がありませんわね」
街の門をくぐると、そこには沈黙した兵士たちと倒れた民。
空には、淡く光る“祈りの霧”が漂っていた。
「アリア、あれは……」
「リリィの祈りが暴走しているのですわ」
彼女の祈りが、もはや“救い”ではなく“支配”になっていた。
光は街を覆い、人々の意識を奪いながら、ゆっくりと神殿を中心に広がっていく。
---
私は神殿の前で立ち止まり、両手を組んだ。
「……殿下、そしてリリィ。あなたたちの“真実の愛”の結果を、しっかり拝見しましたわ」
レオンが剣を抜く。
「アリア、下がれ!」
「いいえ、これは私の領分ですの」
私は静かに目を閉じ、祈った。
かつて神に仕えた者としてではなく――
一人の人間として。
> 『神よ、どうか見届けてくださいませ。
誰かを傷つける祈りではなく、
誰かを守る祈りこそが“愛”であると。』
その瞬間、光が揺れた。
空を覆っていた“祈りの霧”が、花びらのように舞い散る。
神殿の鐘が鳴り、眩しい白光が辺りを包み――
やがて、静寂。
---
リリィは膝をついて泣いていた。
「ど、どうして……どうして、私は認められないの……!?」
その前に立つ王太子は、虚ろな瞳でアリアを見つめた。
「アリア……お前が……本物の聖女だったのか……」
私は小さく首を振った。
「いいえ。わたくしはもう聖女ではありませんの。
ただ、“返品不可の元婚約者”ですわ♡」
レオンが一歩前へ出て、王太子を睨む。
「彼女を“物”のように扱った報いだ。
お前はその愚かさを、生涯噛みしめるがいい」
王太子は、ただ膝をついて動けなかった。
---
その後。
神殿は再び静けさを取り戻し、人々の意識も戻った。
けれど王都の噂はすぐに広まった。
> 「追放された聖女が、再び奇跡を起こした」
「神は真実を見ていたのだ」
「“返品不可”の聖女が、神の寵愛を受けた」
まったく、皮肉なことですわ。
あの頃は「偽聖女」と呼ばれたのに、
今は「神に選ばれし者」だなんて。
---
数日後。
私はレオンと共に再び辺境へ戻った。
久しぶりの畑の香りが、心を落ち着かせてくれる。
「やっぱり、ここが一番ですわねぇ……」
「そうだな」
「王都の連中、今ごろ騒いでいるでしょうけど」
「放っておけ。お前の“返品不可”は、もう全王国に知れ渡っている」
「まあ、それはそれでちょっと恥ずかしいですわ♡」
レオンが微笑んだ。
「だが、私はその言葉が好きだ」
「え?」
「“返品不可”。
つまり、お前はここにいていい――そう聞こえる」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……まあ、レオン様。そんな風に言われたら……」
「なんだ?」
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