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3-4 女神と呼ばれても困りますの。わたくし、ただの“返品不可”ですわ♡
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第3章3-4 女神と呼ばれても困りますの。わたくし、ただの“返品不可”ですわ♡
それから一か月後――
辺境は、驚くほど静かだった。
あの王都軍の強制召喚事件以来、誰一人としてこの地を訪れる者はいない。
むしろ、辺境の空気が浄化されたかのように、空は青く澄み渡り、
花畑の白い花々はよりいっそう輝いていた。
世間では、“聖女アリア・レーヴェンス、神に選ばれし女神へ昇華”という
大げさな噂が飛び交っているらしい。
……そんな称号、要りませんわ。
わたくし、ただの“返品不可”の一般人ですの♡
---
朝――いや、昼前。
ミーナがカーテンを開ける。
「アリア様、朝ですよ」
「朝という定義を、もう少し広く取っていただけませんこと?」
「すでに昼を過ぎております!」
「まあ、なんて早起き♡」
ミーナは呆れ顔で布団を剥がす。
「お体の具合はどうですか?」
「絶好調ですわ。特に寝起きのこの倦怠感が最高♡」
「……それ、怠けてるだけでは」
そんなやり取りをしていると、外からレオン様の声が聞こえた。
「アリア、もう昼食だぞ」
「まあ! 寝ている間にお昼が! なんて効率的な時間の流れ!」
寝癖を整えて階下に降りると、食卓には温かいスープとパン、
そして彼の焼いたグリル野菜が並んでいた。
「レオン様の手料理……いつ見ても麗しいですわ♡」
「言い方が物騒だな」
「いえ、本心ですの。料理も顔も、麗しゅうございます♡」
「お前……褒め方がどんどん上手くなってるな」
にやりと笑うレオン様を見て、思わず笑みがこぼれる。
ああ、これが本当の“幸せ”というものですのね。
---
昼食後、わたくしは庭で紅茶を飲みながら新聞を広げた。
『王都、混乱続く――王太子消息不明。新政権、聖女アリアを崇拝対象に』
「……勝手に宗教を作らないでいただきたいですわね」
記事の下には、“聖アリア教団、信徒急増”の文字。
信者たちがわたくしの肖像画を掲げて祈っている写真まで載っていた。
わたくし、そんなポーズ取った覚えありませんのに……。
「レオン様、これをご覧くださいませ。わたくし、知らぬ間に信仰対象になっております」
「ふむ。国が壊れるよりはマシだな」
「褒めてますの?」
「守られる女神より、俺の隣で笑う君のほうがいい」
「……まあ♡ そんな台詞、ずるいですわね」
レオン様は穏やかに笑って、紅茶を一口。
その横顔を見ているだけで、胸の奥が温かくなる。
---
それでも、わたくしの“ざまぁ体質”は健在だった。
ある日、王都から一人の役人が来た。
おそらく、また“書類上の確認”とか“形式的な報告”という名目で、
返品希望書類を持ってくるつもりなのだろう。
玄関で応対したレオン様の後ろから、わたくしは顔を出した。
「まあ、ご苦労様ですわね♡ お茶でもどうぞ」
「い、いえ、結構でございます……! 本日はご挨拶だけで――」
「“返品”の件でしたら、こちらの看板をご覧になって?」
わたくしが指差した先――
屋敷の門には、立派な木製のプレートが掲げられていた。
> 【返品元立入禁止】
【返品不可・再購入不可・交換不可】
【生ものであるため、再流通いたしません♡】
役人は固まった。
そして、見事に敬礼して去っていった。
「……本当に貼ったのか」
「もちろんですわ。再発防止策ですの♡」
レオン様が吹き出した。
「君という人は……本当に痛快だな」
「ええ、“痛快こそわたくしの生き甲斐”ですの♡」
---
そんなある日の午後。
村の子どもたちが屋敷に遊びに来た。
“女神様、また絵本読んで~!”と元気な声を上げる。
「女神ではございませんのよ、“寝坊のアリアお姉さん”ですの♡」
「ねぼうってなにー?」
「大人になると、朝がちょっとお昼寄りになることですわ♡」
子どもたちが笑う。
わたくしは膝の上に彼らを乗せ、優しく物語を読み聞かせた。
――かつて聖女と呼ばれた自分が、今こうして普通の生活をしている。
それが、何よりの“ざまぁ”だと思う。
世界に復讐する代わりに、
世界の片隅で幸福に笑って生きる。
それこそが、最大の勝利なのだから。
---
夜。
屋敷のバルコニーに出ると、風が心地よかった。
白い花畑が月光に照らされ、銀の海のように広がっている。
レオン様が隣に立ち、そっと肩を抱いてくれた。
「……どうした?」
「いえ、ただ思いましたの。
“聖女”でも、“女神”でも、“返品不可”でも――
結局、わたくしの幸せは“あなたの隣”にしかありませんのねって♡」
レオン様は静かに笑い、
額に唇を寄せた。
「お前の幸せがここにあるなら、
俺の幸福もここにある」
「まあ……もう、そういう台詞をさらっと言うのやめてくださいませ♡」
「なら、キスで黙らせようか?」
「きゃっ……!」
唇が触れる。
柔らかな夜風と共に、心の奥まで温かい。
まるで神様が見ていないふりをしてくれているようだった。
---
その後、わたくしたちは小さな村の学校を建てた。
孤児たちや、働く農家の子どもたちが通う場所だ。
わたくしはそこで読み書きを教えながら、お菓子作りの講師も務めている。
――王都を救った聖女が、いまは焼き菓子職人。
世の中とは、本当に愉快ですわね。
「アリア様、今日は何を焼くんですか?」
「本日は“返品マドレーヌ”ですの♡」
「へんぴん……?」
「ええ、“一度食べたら二度と手放せない味”ですの♡」
子どもたちが笑い転げ、
オーブンの中で甘い香りが広がる。
これが、わたくしの望んだ日常。
戦いも断罪ももう要りませんの。
---
夕方。
レオン様が迎えに来る。
彼の手には小さな花束――例の白い花、“返品不可”。
「アリア、今日も良い香りだな」
「まあ、マドレーヌの香りと、あなたの香り、どちらかしら♡」
「両方だろうな」
「……もう、そういうところが好きですわ♡」
二人で並んで歩く。
辺境の空は黄金色に染まり、
遠くの鐘が静かに鳴り響いていた。
---
帰宅後、机の上に届いた手紙を一通開く。
差出人は“元・聖女リリィ”。
> 『アリア様、ごめんなさい。
あなたのように生きたいと思いました。
どうか、少しでもその強さを教えてください』
わたくしは微笑んだ。
そして、短く返信を書く。
> 『リリィ様へ。
まずは、しっかり食べて、しっかり寝ること。
幸福は“返品不可”なほどよく寝た人にしか訪れませんの♡』
手紙を封じ、そっとランプの火を見つめる。
わたくしのざまぁ劇は、もう終幕。
でも、この穏やかな幸福こそが――最終章にふさわしい“勝利”ですの。
---
夜風がカーテンを揺らす。
レオン様がベッドの隣で本を閉じた。
「おやすみ、アリア」
「おやすみなさいませ、レオン様♡」
眠りにつく前、ふと思う。
神様、あなたもきっと笑っていらっしゃるでしょう?
ええ、わたくし――もう二度と返品いたしませんわ。
この幸せだけは、永久保証ですの♡
-
それから一か月後――
辺境は、驚くほど静かだった。
あの王都軍の強制召喚事件以来、誰一人としてこの地を訪れる者はいない。
むしろ、辺境の空気が浄化されたかのように、空は青く澄み渡り、
花畑の白い花々はよりいっそう輝いていた。
世間では、“聖女アリア・レーヴェンス、神に選ばれし女神へ昇華”という
大げさな噂が飛び交っているらしい。
……そんな称号、要りませんわ。
わたくし、ただの“返品不可”の一般人ですの♡
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朝――いや、昼前。
ミーナがカーテンを開ける。
「アリア様、朝ですよ」
「朝という定義を、もう少し広く取っていただけませんこと?」
「すでに昼を過ぎております!」
「まあ、なんて早起き♡」
ミーナは呆れ顔で布団を剥がす。
「お体の具合はどうですか?」
「絶好調ですわ。特に寝起きのこの倦怠感が最高♡」
「……それ、怠けてるだけでは」
そんなやり取りをしていると、外からレオン様の声が聞こえた。
「アリア、もう昼食だぞ」
「まあ! 寝ている間にお昼が! なんて効率的な時間の流れ!」
寝癖を整えて階下に降りると、食卓には温かいスープとパン、
そして彼の焼いたグリル野菜が並んでいた。
「レオン様の手料理……いつ見ても麗しいですわ♡」
「言い方が物騒だな」
「いえ、本心ですの。料理も顔も、麗しゅうございます♡」
「お前……褒め方がどんどん上手くなってるな」
にやりと笑うレオン様を見て、思わず笑みがこぼれる。
ああ、これが本当の“幸せ”というものですのね。
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昼食後、わたくしは庭で紅茶を飲みながら新聞を広げた。
『王都、混乱続く――王太子消息不明。新政権、聖女アリアを崇拝対象に』
「……勝手に宗教を作らないでいただきたいですわね」
記事の下には、“聖アリア教団、信徒急増”の文字。
信者たちがわたくしの肖像画を掲げて祈っている写真まで載っていた。
わたくし、そんなポーズ取った覚えありませんのに……。
「レオン様、これをご覧くださいませ。わたくし、知らぬ間に信仰対象になっております」
「ふむ。国が壊れるよりはマシだな」
「褒めてますの?」
「守られる女神より、俺の隣で笑う君のほうがいい」
「……まあ♡ そんな台詞、ずるいですわね」
レオン様は穏やかに笑って、紅茶を一口。
その横顔を見ているだけで、胸の奥が温かくなる。
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それでも、わたくしの“ざまぁ体質”は健在だった。
ある日、王都から一人の役人が来た。
おそらく、また“書類上の確認”とか“形式的な報告”という名目で、
返品希望書類を持ってくるつもりなのだろう。
玄関で応対したレオン様の後ろから、わたくしは顔を出した。
「まあ、ご苦労様ですわね♡ お茶でもどうぞ」
「い、いえ、結構でございます……! 本日はご挨拶だけで――」
「“返品”の件でしたら、こちらの看板をご覧になって?」
わたくしが指差した先――
屋敷の門には、立派な木製のプレートが掲げられていた。
> 【返品元立入禁止】
【返品不可・再購入不可・交換不可】
【生ものであるため、再流通いたしません♡】
役人は固まった。
そして、見事に敬礼して去っていった。
「……本当に貼ったのか」
「もちろんですわ。再発防止策ですの♡」
レオン様が吹き出した。
「君という人は……本当に痛快だな」
「ええ、“痛快こそわたくしの生き甲斐”ですの♡」
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そんなある日の午後。
村の子どもたちが屋敷に遊びに来た。
“女神様、また絵本読んで~!”と元気な声を上げる。
「女神ではございませんのよ、“寝坊のアリアお姉さん”ですの♡」
「ねぼうってなにー?」
「大人になると、朝がちょっとお昼寄りになることですわ♡」
子どもたちが笑う。
わたくしは膝の上に彼らを乗せ、優しく物語を読み聞かせた。
――かつて聖女と呼ばれた自分が、今こうして普通の生活をしている。
それが、何よりの“ざまぁ”だと思う。
世界に復讐する代わりに、
世界の片隅で幸福に笑って生きる。
それこそが、最大の勝利なのだから。
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夜。
屋敷のバルコニーに出ると、風が心地よかった。
白い花畑が月光に照らされ、銀の海のように広がっている。
レオン様が隣に立ち、そっと肩を抱いてくれた。
「……どうした?」
「いえ、ただ思いましたの。
“聖女”でも、“女神”でも、“返品不可”でも――
結局、わたくしの幸せは“あなたの隣”にしかありませんのねって♡」
レオン様は静かに笑い、
額に唇を寄せた。
「お前の幸せがここにあるなら、
俺の幸福もここにある」
「まあ……もう、そういう台詞をさらっと言うのやめてくださいませ♡」
「なら、キスで黙らせようか?」
「きゃっ……!」
唇が触れる。
柔らかな夜風と共に、心の奥まで温かい。
まるで神様が見ていないふりをしてくれているようだった。
---
その後、わたくしたちは小さな村の学校を建てた。
孤児たちや、働く農家の子どもたちが通う場所だ。
わたくしはそこで読み書きを教えながら、お菓子作りの講師も務めている。
――王都を救った聖女が、いまは焼き菓子職人。
世の中とは、本当に愉快ですわね。
「アリア様、今日は何を焼くんですか?」
「本日は“返品マドレーヌ”ですの♡」
「へんぴん……?」
「ええ、“一度食べたら二度と手放せない味”ですの♡」
子どもたちが笑い転げ、
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これが、わたくしの望んだ日常。
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---
夕方。
レオン様が迎えに来る。
彼の手には小さな花束――例の白い花、“返品不可”。
「アリア、今日も良い香りだな」
「まあ、マドレーヌの香りと、あなたの香り、どちらかしら♡」
「両方だろうな」
「……もう、そういうところが好きですわ♡」
二人で並んで歩く。
辺境の空は黄金色に染まり、
遠くの鐘が静かに鳴り響いていた。
---
帰宅後、机の上に届いた手紙を一通開く。
差出人は“元・聖女リリィ”。
> 『アリア様、ごめんなさい。
あなたのように生きたいと思いました。
どうか、少しでもその強さを教えてください』
わたくしは微笑んだ。
そして、短く返信を書く。
> 『リリィ様へ。
まずは、しっかり食べて、しっかり寝ること。
幸福は“返品不可”なほどよく寝た人にしか訪れませんの♡』
手紙を封じ、そっとランプの火を見つめる。
わたくしのざまぁ劇は、もう終幕。
でも、この穏やかな幸福こそが――最終章にふさわしい“勝利”ですの。
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夜風がカーテンを揺らす。
レオン様がベッドの隣で本を閉じた。
「おやすみ、アリア」
「おやすみなさいませ、レオン様♡」
眠りにつく前、ふと思う。
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