『元婚約者は生物(なまもの)につき返品不可ですわ!』

ふわふわ

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4-2 ざまぁの巫女、花を継ぐ ――「幸福は二度咲くものですわ♡」

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第4章 神話になった“返品不可”

4-2 ざまぁの巫女、花を継ぐ ――「幸福は二度咲くものですわ♡」




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 その日、聖都エル=ルシエラの空に、白い花弁が舞った。
 神殿の庭に咲く“返品不可の花”が、一斉に散ったのだ。

 それは、女神アリアが姿を現した夜から三日後のこと。
 誰もが“前兆”だと囁いた。
 神が再び、何かを伝えようとしている――と。


---

 リオンは、枯れかけた花畑を見下ろしていた。
 白かった花が灰色に変わり、次々と地に落ちていく。

「……どうしてだ。千年も咲き続けてきたのに」

 そのとき、背後から少女の声がした。
「――それは、“ざまぁ”が足りないからですの♡」

 リオンが振り返ると、そこに立っていたのは、
 ピンクがかった金髪を編み込んだ、十代半ばほどの少女。
 白い衣をまとい、胸には“アリアの紋章”をつけている。

「あなたは……?」
「“ざまぁの巫女”と呼ばれていますわ♡」
「ざまぁの……巫女?」

 少女はくすりと笑い、裾を摘まんでお辞儀した。
「ミリア=ルヴァリエルと申します。
 ――女神アリア様の“再生の祝詞”を継ぐ者ですの」


---

 リオンは思わず目を見張った。
「君が……伝承の巫女?」
「ええ。ですが、いまのわたくしは“ざまぁ不足”ですの♡」
「ざまぁ不足?」
「ええ、幸福を笑い飛ばす力が、世界から薄れているのです」

 ミリアは枯れた花を指差した。
「この花たちは、人々の“笑って乗り越える心”の象徴。
 でも近年、皆、怒りと不安ばかり抱えて、
 “ざまぁ”を忘れてしまったのですわ」

「……つまり、笑顔が足りないから、花が枯れた?」
「その通りですの♡」

 リオンは思わず苦笑した。
「なるほど……理屈は神話的ですが、妙に納得できますね」
「でしょう? ですから、旅に出ましょう♡」
「旅?」
「“アリアの花”の根を探す旅ですの!」


---

 こうして、ふたりの奇妙な旅が始まった。
 目的は、“アリア女神が最後に微笑んだ地”――
 千年前、辺境ディオールの丘。

 そこに今も、彼女の幸福が眠っていると言われている。


---

 旅の途中、ミリアは明るく笑いながら話す。

「ねぇリオン様、“ざまぁ”の本当の意味、ご存じ?」
「正義が報われること……ではないのですか?」
「うふふ、それは半分正解ですわ♡」

 彼女は、白い花びらを手に取りながら言った。
「ざまぁとは、“もう泣かない”と決めた人の強さ。
 だから、神様も“ざまぁ”を祝福なさるのですわ♡」

 リオンは静かに頷いた。
「……僕はずっと、ざまぁを“復讐”だと思っていました」
「ちがいますわ。ざまぁは――“笑顔の報復”ですの♡」

 その言葉に、リオンの胸の奥がじんわり温かくなった。
 彼は旅の目的を思い出す。
 そうだ。世界を救うのは怒りではなく、笑いなのだ。


---

 数日後、ふたりは古代遺跡の谷に辿り着いた。
 石碑には、かすれた文字が刻まれている。

> 『幸福は二度咲く。
 一度目は涙の上に、二度目は笑顔の中に。
 ――返品不可の花、永遠に。』



 ミリアが目を細める。
「ここが、アリア様が眠る地の入口……」
「本当にここに、“根”があるのか?」
「ええ。“返品不可の種”は、永遠に消えませんの♡」


---

 洞窟の奥へ進むと、淡い光が満ちていた。
 中央には、半ば石化した一本の白い花。
 けれど、その根元にはかすかに緑の光が残っている。

「これが……“アリアの花”の根?」
「はい。この光を取り戻すには――“笑い”が必要ですの」
「笑い?」
「そう。神殿の儀式ではなく、心の底から笑うこと♡」

 リオンは困惑した。
「……笑うって、いまここで?」
「ええ♡ 神聖なる“ざまぁ笑い”ですわ!」


---

 ミリアは両手を合わせ、瞳を閉じた。
 彼女の唇が微かに動く。
 ――まるで祈りと笑いが交わるような、不思議な音。

> 『アリア様、今日も世界が少しだけ愚かですわ。
 でも、それでいいんですの。
 愚かさを笑える限り、人はまだ救われますもの♡』



 その瞬間、根元の光が少し強くなった。

 リオンは思わず吹き出す。
「……そんな祈り、初めて聞きましたよ」
「ふふっ、効きますの♡ ざまぁ成分、増えてきましたわね」

 彼も両手を胸の前に組んだ。
「アリア様……もし本当に聞こえているなら。
 あなたの“ざまぁ”を、僕らにもう一度見せてください!」


---

 風が吹き抜け、洞窟全体が光に包まれた。
 花の根が震え、石化が解けていく。
 そして――白い花が再び咲いた。

 それは千年前と同じ、柔らかな光を放っていた。
 花弁が宙に舞い、ふたりの頬に触れる。

> 『よく笑いましたわね♡』



 どこからともなく、女神の声が響く。

> 『ざまぁは、怒りではなく、笑顔の連鎖ですの。
 この花が咲いたということは――
 あなたたち、立派な“返品不可”ですわ♡』



 ミリアは涙ぐみながら笑った。
「アリア様……ありがとうございますの♡」
 リオンも微笑む。
「もう、僕は忘れません。“ざまぁ”の意味を」


---

 地上に戻ると、世界はまるで生まれ変わっていた。
 白い花が風に乗って舞い、どこまでも広がっていく。
 人々がそれを見上げ、自然と笑顔になる。

「見てください、リオン様! 皆、笑ってますわ!」
「ああ……世界中が“ざまぁ”している」

 彼らの笑い声が空へと響き、
 花は次々に芽吹いていった。


---

 神殿に戻ったあと、ミリアは人々に語りかけた。

> 「ざまぁとは、人を笑わせる力ですわ。
 誰かがあなたを傷つけても、泣かずに笑ってください。
 その笑顔が、神様への祈りになりますの♡」



 その日から、聖都には新しい祝祭が生まれた。
 名を「笑祭(しょうさい)」――“ざまぁの祭り”。

 人々が過去の失敗を笑い合い、
 恋に破れた者が舞台で劇を演じ、
 「私は返品されましたけど今は幸せですわ♡」と声を上げる。

 笑いと幸福が街を包み、空には再び白い花が舞った。


---

 夜。
 ミリアとリオンは神殿の屋上に並んでいた。
 風が心地よく、満月が照らしている。

「ねぇ、リオン様」
「なんだい?」
「わたくし、思うのです。幸福って、最初から咲いてるんじゃなくて、
 一度枯れて、また笑って咲くものなんですわ♡」
「……“幸福は二度咲く”か」
「ええ。それが、“返品不可”の真意ですの」

 ミリアはそっと両手を合わせた。
 月明かりの中、どこかでアリアの声が微かに響く。

> 『よくできましたの♡ これで、“ざまぁ”の継承、完了ですわ♡』



 その瞬間、聖都の上空に一筋の光が走り、
 白い花が再び夜空を満たした。


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 翌朝、神殿の前には新しい石碑が建てられていた。

> 『幸福は二度咲く。
 一度目は涙の上に、二度目は笑顔の中に。
 ――ざまぁの巫女、ミリアと神官リオンによって再び咲く。』



 その足元には、満開の“返品不可の花”。

 それを見た誰もが、笑わずにはいられなかった。


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