『公爵家を乗っ取った男爵一家は、家系図から消えました』 ―偽令嬢は王太子妃を夢見て国外追放、私は公爵として責務を果たします―

ふわふわ

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第八話 帳簿の開示

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第八話 帳簿の開示

一族会議は、そのまま解散とはならなかった。

長机の中央に置かれたのは、公爵家の帳簿。

分厚い革表紙。
代々の当主が受け継いできた記録。

老侯爵が静かに言う。

「後見人殿。財務の説明を」

叔父は喉を鳴らした。

「当然だ。公爵家のために支出したものばかりだ」

帳簿が開かれる。

紙の擦れる音が、広間に響く。

伯爵が読み上げる。

「夜会費用、金貨三百」

ざわめき。

「宝飾品購入、金貨二百五十」

叔母の顔色が変わる。

「王太子殿下への贈答品、金貨五百」

空気が凍る。

「……これは公爵家として必要な支出か」

低い問い。

叔父は声を張る。

「王家との縁を結ぶためだ!」

「正式な当主の承認なく?」

言葉が詰まる。

エレノアは黙っている。

視線は帳簿に落ちている。

ページがめくられる。

「持参金準備費用、前借り金」

「公爵家名義での個人借入」

「担保不明」

数字が並ぶたびに、ざわめきは強くなる。

老侯爵がゆっくりと顔を上げる。

「これは……公爵家の財か?」

叔父は必死に言う。

「家族のためだ!」

「違う」

伯爵がきっぱりと遮る。

「これは男爵家の浪費だ」

その一言で、空気が変わる。

男爵家。

その言葉が、叔父の胸を刺す。

叔母が立ち上がる。

「そんな言い方はないでしょう! 私たちは公爵家の――」

「除名はまだだ」

老侯爵が冷たく言う。

「だが、直系がここにいる以上、お前たちは後見人に過ぎぬ」

エレノアが静かに口を開いた。

「叔父様」

視線が集まる。

「男爵一家として使用なさった資金は、全額ご返却いただきます」

広間が静まり返る。

叔母が叫ぶ。

「何を言っているの!」

エレノアは続ける。

「公爵家の名で行われた契約は、精査の上、正当なもののみ継承いたします」

「それでは借金が――」

「男爵家の負債です」

淡々と。

冷たく。

逃げ道を塞ぐ言葉。

叔父の顔から血の気が引く。

「返済不能なら、財産を差し出すしかあるまい」

伯爵の声が重い。

「領地の一部売却も検討すべきだ」

叔母が震える。

「そんな……」

従妹が泣きそうな声で言う。

「でも、私は王太子妃に……」

老侯爵が視線を向ける。

「王家を欺く形になれば、連座もあり得る」

その言葉が落ちた瞬間、広間の温度が下がった。

連座。

一族全体が責任を問われる可能性。

怒りが爆発する。

「お前のせいで、我らまで逆賊か!」

「公爵家の名を盾に何をした!」

叔父は反論できない。

エレノアは一歩下がる。

自分は糾弾しない。

ただ事実を提示しただけ。

それで十分だった。

老侯爵が静かに宣言する。

「財務は凍結する」

「本日より、公爵家の資産は直系当主の管理下に置く」

重い決定。

叔父の手から、実質的な権限が落ちる。

叔母が呟く。

「私は公爵夫人よ……」

その声は、もう誰にも届かない。

エレノアは長老たちに一礼した。

「公爵家を守るため、必要な措置をお願いいたします」

感情は見せない。

泣かない。

怒鳴らない。

広間の空気は凍りついたまま。

帳簿は閉じられた。

だが。

偽物の足元は、確実に崩れ始めている。

そして次に問われるのは。

婚約。

王家の名を巻き込んだ、その一点。

エレノアは静かに目を伏せた。

崩れる音は、もうすぐはっきりと響く。
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