『公爵家を乗っ取った男爵一家は、家系図から消えました』 ―偽令嬢は王太子妃を夢見て国外追放、私は公爵として責務を果たします―

ふわふわ

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第七話 一族招集

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第七話 一族招集

王都の噂は、三日もあれば熟す。

「グランヴェール公爵令嬢、王太子妃内定か」

そう書かれた手紙が、地方の分家にも届いた。

そして同時に、もう一通。

“直系当主の確認のため、一族会議を開く”

グランヴェール公爵邸の大広間は、久しぶりに重い空気に包まれていた。

長机の両側に、分家当主たちが座る。

白髪の老侯爵、無言の伯爵、険しい顔の男爵たち。

誰も笑っていない。

叔父は堂々と上座に座った。

「お忙しい中、集まっていただき感謝する」

その声音には、公爵のような響きがある。

だが名乗ってはいない。

まだ。

「噂は聞いておる」

老侯爵が口を開く。

「王太子殿下との婚約だと?」

「前向きな話だ」

叔父は即答する。

「公爵家にとって悪い話ではない」

ざわめき。

誰も祝福しない。

「確認したい」

伯爵が低く言う。

「当主は誰だ」

沈黙。

叔父は微笑む。

「未成年の姪に代わり、私が後見人として――」

「当主は誰だと聞いている」

重ねられる言葉。

空気が張りつめる。

そのとき。

扉が静かに開いた。

エレノアが入ってくる。

黒の簡素なドレス。

飾りはない。

けれど背筋はまっすぐ。

視線が一斉に集まる。

叔母が小声で舌打ちする。

「なぜここに……」

エレノアは長机の中央に立ち、深く一礼した。

「グランヴェール公爵家直系、エレノア・ディ・グランヴェールです」

名乗り。

静かな、しかし確かな声。

老侯爵が目を細める。

「直系、と言ったな」

「はい」

叔父が口を挟む。

「体調が優れぬはずだ。無理をするな」

エレノアは叔父を見ない。

視線は長老たちに向けられている。

「確認が必要と伺いましたので」

短い言葉。

逃げない。

老侯爵がゆっくりと頷く。

「では問う」

その声は、広間全体を包む。

「初代公爵が王に誓った言葉は何だ」

叔父がわずかに動く。

その問いを知らない。

エレノアは迷わない。

「忠義は血より重く、誇りは命より重い」

広間の空気が変わる。

何人かが小さく息を呑む。

「……間違いない」

伯爵が低く呟く。

「その言葉は直系のみが伝えられる」

叔父の表情が固まる。

叔母が焦る。

「そんな古い言葉、誰でも聞いたことが――」

「聞いただけでは言えぬ」

老侯爵が遮る。

「意味を知らねば、言葉は空だ」

静寂。

エレノアは胸元から小さな布袋を取り出した。

中から現れたのは、淡く輝く魔石。

「直系の血にのみ応える家宝です」

そう言って手の上に乗せる。

淡い光が、ゆっくりと広がる。

ざわめき。

叔父が思わず一歩下がる。

「まさか……」

老侯爵が立ち上がる。

「確認は済んだ」

その一言が、重く落ちる。

叔父が声を荒げる。

「待て! 私は後見人だ! 血は同じだ!」

「血は同じでも、格は違う」

冷たい言葉。

叔母が叫ぶ。

「家族でしょう!?」

伯爵が静かに返す。

「家族だからこそ許せぬ」

視線が一斉に叔父へ向く。

「王太子との婚約話が進んでいると聞く」

老侯爵が言う。

「それは直系当主の承認なくして成り立つ話ではない」

沈黙。

叔父の額に汗が浮かぶ。

エレノアは一歩下がる。

何も誇らない。

何も責めない。

ただ、立っている。

その姿が答えだ。

老侯爵がゆっくりと宣言する。

「一族会議はこれより、正式な当主確認と財務精査に入る」

ざわめきが広がる。

叔母の顔が青ざめる。

従妹が小声で言う。

「お父様……?」

叔父は何も答えられない。

エレノアは目を伏せる。

ついに、境界が引かれた。

偽物は、光の下に引き出された。

まだ断罪ではない。

だが逃げ道は、確実に狭まっている。

広間の空気は冷たい。

冬の風よりも鋭い。

エレノアは心の中で、静かに呟いた。

――始まりました。

そして、もう止まらない。
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