『公爵家を乗っ取った男爵一家は、家系図から消えました』 ―偽令嬢は王太子妃を夢見て国外追放、私は公爵として責務を果たします―

ふわふわ

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第十八話 契約の再編

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第十八話 契約の再編

事件から数か月。

王都の空気は完全に落ち着いていた。

公爵家への視線は、同情でも好奇でもない。

――信頼。

エレノアは長い会議卓の中央に座っていた。

商会代表、金融ギルド、領地管理官。

かつて叔父が「公爵」の名で無秩序に結んだ契約を、今度は正式に結び直す場だ。

「本日より、契約はすべて直系当主名義で再締結します」

静かな宣言。

重みがある。

大商会主が深く頷く。

「公爵様のお言葉なら、安心できます」

あのとき。

彼らは債権回収のために牙を剥いた。

だが今は違う。

信頼は、強い通貨だ。

ルークが資料を配る。

整然とした数字。

無駄のない計画。

「不透明だった流通を整理しました」

「公爵家は今後、保証人にはなりません」

はっきりと。

曖昧さを残さない。

商会主が笑う。

「それでこそ本物の当主」

会議は滑らかに進む。

誰も声を荒げない。

それが本来の形だ。

一方、北部鉱山。

グレゴールは膝をついていた。

体が重い。

咳が止まらない。

「立て」

監督官の声。

男爵だった過去は、もう遠い。

鎚を握る手に力が入らない。

倒れれば鞭。

それが現実。

夫人は石を運ぶ列にいる。

肩は痩せ、髪は乱れている。

「水……」

かすれた声。

誰も応えない。

囚人は番号で呼ばれる。

人格は不要。

娘は異国で言葉を覚え始めていた。

笑うことはない。

ただ、従う。

王都とは別世界。

エレノアは会議を終え、窓辺に立つ。

春風が庭を揺らす。

薔薇は満開だ。

「経済は安定しました」

ルークが言う。

「叔父が残した混乱は収束しています」

「よかった」

短く。

感情を誇示しない。

「噂も落ち着きました」

「落ち着いたのではなく、忘れられただけです」

静かな指摘。

だがそれでいい。

忘れられるということは、力を失うということ。

過去は風化する。

だが記録は残る。

公爵家の書庫には、判決文と売却証書が保管されている。

教訓として。

夜。

エレノアは一人で書類を整理していた。

灯りの下、ペンが走る。

新しい商路計画。

領地の整備。

未来の話。

ふと、ルークが言う。

「縁談の話が増えています」

エレノアは眉を上げる。

「そうでしょうね」

偽物が消え、本物が残った。

価値は明確だ。

「お断りしますか」

「急ぎません」

公爵家は、もう揺るがない。

焦る理由はない。

北部鉱山では、夕暮れの鐘が鳴る。

囚人たちが列をなす。

グレゴールは咳込みながら歩く。

夫人は視線を落とす。

もう“私は公爵夫人よ”とは言わない。

言葉に意味がないと知ったから。

静かな絶望。

王都では、音楽が流れている。

新しい舞踏会の招待状が届く。

エレノアはそれを受け取り、軽く微笑む。

強ザマァは終わった。

だが物語は続く。

公爵として。

少女ではなく、当主として。

彼女はペンを置く。

夜は静かだ。

嵐は去った。

そして、守るべき家は、確かにここにある。
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