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第25話 境界線のこちら側
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第25話 境界線のこちら側
評議会からの「代表派遣」は、思ったよりも早かった。
だが、それは公式な使節団ではない。
肩書きも、役職も、どこか曖昧だ。
「……随分と、軽い編成ですね」
政庁の応接室で、補佐官が小声で言う。
「様子見、ということです」
ミディア・バイエルンは、静かに答えた。
「王都は、まだ“決めきれていない”」
来訪者は三人。
評議会関係者一名、商会代表一名、そして記録係。
いずれも、強く出ることも、弱く出ることもできない立場だ。
「本日は、お時間をいただき感謝します」
評議会関係者が、形式的に頭を下げる。
「こちらこそ」
ミディアは、丁寧だが、距離を保ったまま応じた。
「では、早速――」
「説明は、いたしません」
その言葉に、三人の動きが止まる。
「……確認のための訪問だと伺っておりますが」
「はい」
ミディアは、落ち着いて続ける。
「確認は、“見る”ことでできます」
「しかし、評議会としては――」
「王都の判断基準は、こちらでは使いません」
沈黙。
誰も、すぐに反論できない。
ここが、境界線だった。
支配でも、対立でもない。
だが、譲歩でもない。
「ご案内します」
ミディアは、席を立った。
視察は、淡々と進んだ。
街道、倉庫、作業場、集落。
どこにも、過剰な歓迎はない。
「……住民の反応が、静かですね」
商会代表が、正直に言う。
「生活しているだけです」
ミディアは、簡潔に答えた。
「特別な日ではありませんから」
倉庫では、作業員が荷を運んでいる。
「納期は?」
「守れています」
「遅延は?」
「今のところ、ありません」
記録係のペンが、忙しく動く。
だが、数値だけでは書ききれない空気があった。
誰も、焦っていない。
誰も、怯えていない。
午後、集落の端で、子どもたちが遊んでいるのを見かけた。
「学校は?」
「通っています」
付き添いの教師が答える。
「今年は、欠席が減りました」
「理由は?」
「……親が、仕事を休まずに済むからです」
その一言に、評議会関係者は、視線を逸らした。
夕方、政庁に戻る。
「……率直に伺います」
評議会関係者が、ようやく口を開いた。
「この体制、王都の管理下に戻すつもりは?」
「ありません」
即答だった。
「反抗と受け取られても?」
「反抗ではありません」
ミディアは、静かに言い切る。
「ここは、最初から“王都のやり方”で作られていません」
言葉は、穏やかだ。
だが、線は明確だった。
「王都と、こちらの境界線です」
三人は、何も言えなくなった。
夜、来訪者たちは宿舎に引き上げた。
補佐官が、ミディアに尋ねる。
「……強く出すぎでは?」
「いいえ」
ミディアは、首を振る。
「曖昧にすると、必ず踏み込まれます」
境界線は、引かなければ意味がない。
「王都は、どう判断するでしょう」
「判断しません」
ミディアは、静かに答えた。
「判断できないから、来たのです」
それでいい。
王都が迷っている間、
こちらは、ただ、続ける。
夜更け、執務室で一人、書類を整理する。
そこには、王都の印も、王太子の名もない。
「……こちら側で、十分です」
ミディア・バイエルンは、そう結論づけた。
境界線のこちら側には、
騒がしさも、栄光もない。
だが、確かに、人が生きている。
そしてそれこそが、
彼女が守り続けると決めた場所だった。
評議会からの「代表派遣」は、思ったよりも早かった。
だが、それは公式な使節団ではない。
肩書きも、役職も、どこか曖昧だ。
「……随分と、軽い編成ですね」
政庁の応接室で、補佐官が小声で言う。
「様子見、ということです」
ミディア・バイエルンは、静かに答えた。
「王都は、まだ“決めきれていない”」
来訪者は三人。
評議会関係者一名、商会代表一名、そして記録係。
いずれも、強く出ることも、弱く出ることもできない立場だ。
「本日は、お時間をいただき感謝します」
評議会関係者が、形式的に頭を下げる。
「こちらこそ」
ミディアは、丁寧だが、距離を保ったまま応じた。
「では、早速――」
「説明は、いたしません」
その言葉に、三人の動きが止まる。
「……確認のための訪問だと伺っておりますが」
「はい」
ミディアは、落ち着いて続ける。
「確認は、“見る”ことでできます」
「しかし、評議会としては――」
「王都の判断基準は、こちらでは使いません」
沈黙。
誰も、すぐに反論できない。
ここが、境界線だった。
支配でも、対立でもない。
だが、譲歩でもない。
「ご案内します」
ミディアは、席を立った。
視察は、淡々と進んだ。
街道、倉庫、作業場、集落。
どこにも、過剰な歓迎はない。
「……住民の反応が、静かですね」
商会代表が、正直に言う。
「生活しているだけです」
ミディアは、簡潔に答えた。
「特別な日ではありませんから」
倉庫では、作業員が荷を運んでいる。
「納期は?」
「守れています」
「遅延は?」
「今のところ、ありません」
記録係のペンが、忙しく動く。
だが、数値だけでは書ききれない空気があった。
誰も、焦っていない。
誰も、怯えていない。
午後、集落の端で、子どもたちが遊んでいるのを見かけた。
「学校は?」
「通っています」
付き添いの教師が答える。
「今年は、欠席が減りました」
「理由は?」
「……親が、仕事を休まずに済むからです」
その一言に、評議会関係者は、視線を逸らした。
夕方、政庁に戻る。
「……率直に伺います」
評議会関係者が、ようやく口を開いた。
「この体制、王都の管理下に戻すつもりは?」
「ありません」
即答だった。
「反抗と受け取られても?」
「反抗ではありません」
ミディアは、静かに言い切る。
「ここは、最初から“王都のやり方”で作られていません」
言葉は、穏やかだ。
だが、線は明確だった。
「王都と、こちらの境界線です」
三人は、何も言えなくなった。
夜、来訪者たちは宿舎に引き上げた。
補佐官が、ミディアに尋ねる。
「……強く出すぎでは?」
「いいえ」
ミディアは、首を振る。
「曖昧にすると、必ず踏み込まれます」
境界線は、引かなければ意味がない。
「王都は、どう判断するでしょう」
「判断しません」
ミディアは、静かに答えた。
「判断できないから、来たのです」
それでいい。
王都が迷っている間、
こちらは、ただ、続ける。
夜更け、執務室で一人、書類を整理する。
そこには、王都の印も、王太子の名もない。
「……こちら側で、十分です」
ミディア・バイエルンは、そう結論づけた。
境界線のこちら側には、
騒がしさも、栄光もない。
だが、確かに、人が生きている。
そしてそれこそが、
彼女が守り続けると決めた場所だった。
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