婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ

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第27話 呼ばれない席

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第27話 呼ばれない席

 王都では、静かな混乱が続いていた。

 騒ぎにならない。
 議題にもならない。
 だが、確実に“置き去り”にされているものがある。

「……辺境の件、どう扱う」

 評議会の小部屋で、低い声が交わされる。

「扱えない、が正解だろう」

「命令すれば?」

「理由がない」

 理由がない――それが、王都にとって致命的だった。

 反乱なら、鎮圧できる。
 失政なら、責任者を罰せられる。
 だが、秩序だった“通常運転”は、止めようがない。

「王太子殿下は?」

 誰かが、恐る恐る名を出す。

「……触れない方がいい」

 その空気だけで、十分だった。

 王太子アルトゥールは、公式の場では何も言わない。
 だが、呼ばれない席が一つ増えている。

 ――辺境伯領に関する席。

 かつてなら、彼の判断を仰がれたはずの案件だ。

 一方、その頃。

 辺境伯領の政庁では、昼の会議が終わろうとしていた。

「では、この件は次回に回します」

 ミディア・バイエルンの声は、変わらない。

「今日中に決めなくていいものは、急がない」

 会議は、きちんと時間通りに終わった。

 誰も、残業を当然だとは思っていない。
 それが、いつの間にか根付いていた。

「……不思議ですね」

 片付けをしながら、補佐官が言う。

「何がですか」

「王都から、呼び戻されないことです」

 ミディアは、少し考えてから答えた。

「呼ぶ理由が、ないからでしょう」

「それだけで?」

「十分です」

 呼ばれる席とは、
 “必要とされる席”ではなく、
 “使われる席”だ。

 ミディアは、もうそこにいない。

 午後、現場を回る途中、アイロス・アルツハイムが並んで歩いた。

「王都が沈黙するのは、危険では?」

「いいえ」

 ミディアは、即答する。

「沈黙は、介入しないという意思表示です」

「……信頼ではなく?」

「信頼なら、言葉があります」

 沈黙は、距離だ。

 それでいい。

 集落の端で、簡易市場が開かれていた。
 農産物、加工品、道具。

「最近、人が増えましたね」

 商人の一人が、嬉しそうに言う。

「外から?」

「ええ。ここなら、続けられるって」

 ミディアは、その言葉を静かに受け取った。

 王都では、
 “選ばれる席”が価値を持つ。

 だが、ここでは違う。

 “呼ばれない席”の方が、
 ずっと自由だった。

 夕方、政庁に戻ると、一通の未署名文書が届いていた。

 差出人不明。
 内容は、短い。

「王都への復帰の意思はあるか」

 ミディアは、紙を見つめ、ゆっくりと折り畳んだ。

「……答える必要は、ありませんね」

 補佐官が、頷く。

「はい。質問自体が、未完成です」

 復帰、という言葉には、前提がある。
 ――戻るべき場所がある、という前提だ。

 だが、ミディアにはもうない。

 夜、執務室の灯りの下で、彼女は静かに思う。

 呼ばれない席は、
 冷遇ではない。

 選ばれなかったわけでもない。

 ただ――
 最初から、並ばなかっただけだ。

 ミディア・バイエルンは、
 その事実を、すでに受け入れていた。

 そして、呼ばれない夜は、
 今日も穏やかに更けていく。
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