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第十七話 再契約
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第十七話 再契約
王宮の大広間は、異様な静けさに包まれていた。
通常ならば儀礼や謁見で賑わう空間だが、その日集められたのはごく限られた者たちだけだった。国王、王太子、宰相、新任財務顧問。そしてヴァルモンド侯爵家当主と――私。
赤い絨毯の上を、ゆっくりと歩く。
視線が集中しているのを感じるが、足取りは乱れない。
これは感情の場ではない。
契約の場だ。
「セレスティア・ヴァルモンド」
国王が名を呼ぶ。
「参りました」
一礼。
王太子エドガーと目が合う。彼の表情は硬いが、以前のような確信に満ちた強さはない。
代わりに、覚悟がある。
「提示された条件について、王宮として回答する」
国王が告げる。
「第一、保証は王宮と侯爵家の共同名義とする」
静かな頷き。
「第二、再開発区画および主要交易契約について、監査権を付与する」
宰相が書類を差し出す。
「第三、保証と監査の内容は公にする。裏ではなく、正式な役職として扱う」
その一言に、胸の奥がわずかに熱を帯びる。
影ではない。
名を持つ立場。
「受け入れる」
国王の声は揺らがない。
「王国は、仕組みを再設計する」
私はゆっくりと顔を上げる。
「承知いたしました」
宰相が契約書を広げる。
新たに記された条文。
共同保証。
監査権。
財務監督顧問――セレスティア・ヴァルモンド。
役職名が、はっきりと書かれている。
私はペンを取り、署名した。
王宮側も署名する。
再契約。
それは単なる保証の復活ではない。
構造の再編。
儀式は短く終わった。
だが、その意味は重い。
会議室を出る前、王太子が一歩近づく。
「……感謝する」
低い声。
「国のためです」
私は淡々と答える。
「それだけか」
問いは小さく、しかし個人的だ。
私は一瞬だけ彼を見る。
「それ以上は、契約に含まれておりません」
沈黙。
だが彼は怒らない。
代わりに、深く息を吐く。
「……当然だな」
午後。
王宮は共同保証と新役職を正式発表した。
市場は即座に反応する。
国債利回り、微減。
再開発区画の資金再実行。
交易保証料、再調整。
数字は、静かに落ち着きを取り戻し始めた。
夕刻、再開発区画で再び槌音が響く。
完全な回復ではない。
だが、歯車は再び回り出す。
書斎で最新の報告を受け取る。
「利回り〇・三低下。港湾取扱量回復傾向」
私は小さく息を吐く。
安堵ではない。
確認。
仕組みは、正しく組めば動く。
夜。
父が静かに言う。
「戻ったな」
「戻ってはおりません」
私は微笑む。
「位置が変わっただけです」
影ではなく、表へ。
だが感情は置いてきた。
王太子との関係は、契約の外。
それはもう、別の問題だ。
窓の外、王都の灯りが穏やかに揺れている。
揺れは完全には消えていない。
だが、制御可能な範囲に収まった。
再契約。
それは王国と私の、新しい距離。
愛ではなく、信頼でもなく。
合理と条件の上に成り立つ関係。
だがそれでいい。
私はペンを置き、静かに灯りを落とす。
王国は、再び動き始めた。
そして私もまた、新しい役割の中で歩き出す。
再契約は、終わりではない。
始まりだった。
王宮の大広間は、異様な静けさに包まれていた。
通常ならば儀礼や謁見で賑わう空間だが、その日集められたのはごく限られた者たちだけだった。国王、王太子、宰相、新任財務顧問。そしてヴァルモンド侯爵家当主と――私。
赤い絨毯の上を、ゆっくりと歩く。
視線が集中しているのを感じるが、足取りは乱れない。
これは感情の場ではない。
契約の場だ。
「セレスティア・ヴァルモンド」
国王が名を呼ぶ。
「参りました」
一礼。
王太子エドガーと目が合う。彼の表情は硬いが、以前のような確信に満ちた強さはない。
代わりに、覚悟がある。
「提示された条件について、王宮として回答する」
国王が告げる。
「第一、保証は王宮と侯爵家の共同名義とする」
静かな頷き。
「第二、再開発区画および主要交易契約について、監査権を付与する」
宰相が書類を差し出す。
「第三、保証と監査の内容は公にする。裏ではなく、正式な役職として扱う」
その一言に、胸の奥がわずかに熱を帯びる。
影ではない。
名を持つ立場。
「受け入れる」
国王の声は揺らがない。
「王国は、仕組みを再設計する」
私はゆっくりと顔を上げる。
「承知いたしました」
宰相が契約書を広げる。
新たに記された条文。
共同保証。
監査権。
財務監督顧問――セレスティア・ヴァルモンド。
役職名が、はっきりと書かれている。
私はペンを取り、署名した。
王宮側も署名する。
再契約。
それは単なる保証の復活ではない。
構造の再編。
儀式は短く終わった。
だが、その意味は重い。
会議室を出る前、王太子が一歩近づく。
「……感謝する」
低い声。
「国のためです」
私は淡々と答える。
「それだけか」
問いは小さく、しかし個人的だ。
私は一瞬だけ彼を見る。
「それ以上は、契約に含まれておりません」
沈黙。
だが彼は怒らない。
代わりに、深く息を吐く。
「……当然だな」
午後。
王宮は共同保証と新役職を正式発表した。
市場は即座に反応する。
国債利回り、微減。
再開発区画の資金再実行。
交易保証料、再調整。
数字は、静かに落ち着きを取り戻し始めた。
夕刻、再開発区画で再び槌音が響く。
完全な回復ではない。
だが、歯車は再び回り出す。
書斎で最新の報告を受け取る。
「利回り〇・三低下。港湾取扱量回復傾向」
私は小さく息を吐く。
安堵ではない。
確認。
仕組みは、正しく組めば動く。
夜。
父が静かに言う。
「戻ったな」
「戻ってはおりません」
私は微笑む。
「位置が変わっただけです」
影ではなく、表へ。
だが感情は置いてきた。
王太子との関係は、契約の外。
それはもう、別の問題だ。
窓の外、王都の灯りが穏やかに揺れている。
揺れは完全には消えていない。
だが、制御可能な範囲に収まった。
再契約。
それは王国と私の、新しい距離。
愛ではなく、信頼でもなく。
合理と条件の上に成り立つ関係。
だがそれでいい。
私はペンを置き、静かに灯りを落とす。
王国は、再び動き始めた。
そして私もまた、新しい役割の中で歩き出す。
再契約は、終わりではない。
始まりだった。
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