『婚約破棄された令嬢ですが、気づけば王国の基準になっていました』

ふわふわ

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第三十三話 沈黙の試験

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第三十三話 沈黙の試験

 制度維持を宣言してから五日。

 王都は静かだった。

 静かすぎるほどに。

 流出率は六%で横ばい。

 再投資総額は維持。

 数字だけを見れば安定。

 だが市場は、声なき試験を始めている。

 午前、財務監督室に異例の報告が届いた。

「主要三商会が、新規投資を一時保留」

「理由は」

「市場の動向確認」

 直接の反発ではない。

 だが明確な様子見。

 動かないという選択。

 私は椅子に深く腰を下ろす。

 攻撃よりも、停滞の方が厄介だ。

「資金回転率は」

「低下傾向。ただし危険水準ではありません」

 市場は、王国が焦るかどうかを見ている。

 午後、王宮で報告。

「動かぬか」

 エドガーが言う。

「はい。静観です」

「揺さぶりか」

「試験です」

 私は答える。

「制度維持の覚悟を試されています」

 宰相が問う。

「刺激策は」

「出しません」

 短く、明確に。

「動かない市場に、動かない態度で応じます」

 夕刻、財務監督室で内部会議。

「停滞が長引けば税収に影響します」

 顧問が慎重に言う。

「許容範囲は」

「三か月」

 私は即答する。

「それ以上なら再調整」

 期限を決める。

 感情ではなく、時間で管理する。

 翌日、地方から意外な報告。

 小規模商会の新規参入が増加。

「大商会が様子見の間に、機会を見たのでしょう」

 私は頷く。

 市場は単一ではない。

 動かない者もいれば、動く者もいる。

 夜、新聞が報じる。

 ――王国市場、安定維持。

 派手さはない。

 だが崩れてもいない。

 その夜遅く、アルベインから短い書簡。

 ――沈黙に耐えられるか。

 私は小さく笑う。

 攻撃には反撃できる。

 だが沈黙は、自分との対話だ。

 翌朝、エドガーが財務監督室を訪れる。

「焦りはないか」

「ありません」

「本当に」

「数字が崩れていません」

 彼はしばらく私を見つめ、頷く。

「王国は動かぬ」

「動くべき時まで」

 午後、主要三商会の一社から小さな動き。

 限定的な追加投資。

 象徴的だが、意味は大きい。

 市場は完全に離れてはいない。

 夜、書斎で数字を整理する。

 停滞は続く。

 だが崩壊はない。

 沈黙の試験。

 王国が焦って制度を緩めるか。

 それを待っている。

 私は灯りを落とす。

 焦りは最大の損失。

 制度は守られている。

 市場は見ている。

 王国が自らの基準を保てるかどうか。

 沈黙は、弱さではない。

 耐える力の証明。

 私は帳簿を閉じる。

 明日もまた、静かな一日が続くだろう。

 だがその静けさこそが、今の戦場。
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