『婚約破棄された令嬢ですが、気づけば王国の基準になっていました』

ふわふわ

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第三十五話 信頼の価格

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第三十五話 信頼の価格

 新技術支援策を発表してから十日。

 王都の空気は、わずかに変わっていた。

 停滞は完全には消えていない。

 だが「様子見」だった市場が、「計算」に戻り始めている。

 午前、財務監督室に新技術枠の第一次成果報告が届いた。

「保管自動化の試験導入で、倉庫回転率が八%改善」

 顧問が淡々と読み上げる。

「初期投資は高額だが、三年で回収見込み」

 私は静かに頷く。

 短期利益ではない。

 だが持続性がある。

「商会の反応は」

「関心が高まっています」

 守りの制度に、攻めの可能性が加わる。

 市場は、安定だけでは動かない。

 未来が必要だ。

 午後、王宮で報告。

「数字は良い」

 エドガーが言う。

「だが財源は」

「新技術枠は限定的です」

 私は資料を示す。

「過度な拡大はしません」

 宰相が問う。

「拡大を求められたら」

「選別します」

 全員を満足させることはできない。

 信頼は、無制限の支援ではなく、基準で築かれる。

 夕刻、三商会の代表が訪れる。

「新技術枠への参加を検討したい」

 様子見を続けていた二社のうち一社。

 私は条件を提示する。

「成果報告の公開を義務とします」

「公開か」

「透明性は制度の前提です」

 代表は少し考え、頷いた。

「受け入れよう」

 夜、集計が更新される。

 新技術枠の申請が倍増。

 流出率は四%台へ。

 市場は、動いた。

 だがその裏で、別の動き。

 街道整備の一部区間で事故。

 資材の品質問題。

「原因は」

「下請け業者の不正」

 私は即座に監査を命じる。

 新技術支援の拡大と同時に、基盤の綻び。

 成長は、管理の負担も増やす。

 翌日、事故区間の是正命令と補償を公表。

 批判も出る。

 ――拡大が早すぎたのではないか。

 私は会見で言う。

「問題は隠さない」

 数字と対策を提示する。

 逃げない姿勢。

 それが信頼の価格。

 夜、父が静かに言う。

「信頼は積むのも崩すのも早い」

「承知しています」

「怖くはないか」

「怖さは管理します」

 その夜、アルベインから書簡。

 ――拡大は試練を伴う。

 私は小さく息を吐く。

 リカルドは冷静だ。

 拡大は強さだが、同時に脆さも生む。

 翌朝、事故区間の補修が完了。

 再発防止策も整う。

 市場の動揺は限定的。

 むしろ透明な対応が評価される。

 窓の外、王都の灯りが揺れる。

 新技術支援は動きを生んだ。

 だが基盤管理の負担も増えた。

 信頼は、利益では買えない。

 対応で積むしかない。

 私は帳簿を閉じる。

 市場は再び動き出した。

 だが安心はしない。

 信頼の価格は、常に払い続けるもの。

 王国は今、成長と管理の均衡に立っている。
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