婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ

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第八話 不在の重み

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第八話 不在の重み

 ノーランド公爵領の朝は、いつもと変わらぬ静けさで始まった。

 だが執務室の空気は、わずかに違っている。

 机の上に積まれた書類の束が、いつもより高い。

 家令が困惑気味に報告する。

「王都向けの輸送許可証が、まだ未裁可のままでございます」

「理由は」

 ナチュは淡々と問い返す。

「王宮の新体制移行に伴い、承認手続きが滞っているとのこと」

 新体制。

 その言葉に含まれる意味は明白だった。

 王太子妃教育の始まりと、内部再編。

「税率変更の通知は届いておりますか」

「まだでございます」

 ナチュは静かに頷く。

「では、暫定処理で対応いたします。前年度基準で計算し、差額は保留扱いに」

「よろしいのですか」

「止めるわけにはまいりません」

 領地は待たない。

 港の荷は毎日動き、商人は利益を求める。農地は季節を逃さない。

 王宮が揺れようと、民の暮らしは止まらない。

 ナチュは新たな書類に目を落とす。

 そこへ父が入ってきた。

「少し困ったことになった」

「どの件でございますか」

「王都からの補助金だ。今月分がまだだ」

「想定内でございます」

 ナチュは即答する。

「準備金から一時的に補填いたします」

「準備金などあったか」

 父は怪訝な顔をする。

「昨年の余剰分を積み立てております」

「そんな報告は」

「帳簿に記載済みでございます」

 父は咳払いをした。

「……それは助かる」

 ナチュは顔を上げる。

「王都は現在、調整期でございます。しばらくは遅延が続く可能性がございます」

「それは王太子妃候補の教育と関係があるのか」

 父は無意識に問いかける。

 ナチュは一瞬だけ沈黙し、答える。

「影響はあると存じます」

 王宮が新しい役割に適応する間、承認系統は不安定になる。

 そこに慣れぬ者が立てば、なおさらだ。

 その時、家令が追加の報告を持って入る。

「王都商会より問い合わせが」

「内容は」

「契約条件の再確認を求められております」

 再確認。

 本来不要な手続き。

 ナチュは理解する。

 王宮の判断が揺れている。

「契約書の写しを送付し、条文の該当箇所を明示いたします」

「かしこまりました」

 家令が去る。

 父は椅子に腰を下ろす。

「王宮は大丈夫なのか」

 その問いは、半ば不安だった。

 ナチュは淡々と答える。

「制度は強固でございます。ただし運用には時間が必要です」

「コンキュは……」

 父は言葉を濁す。

「努力しているはずでございます」

 それ以上は言わない。

 午後、王都から急使が届く。

 内容は短い。

 港湾税改定案の再提出要求。

 理由は記されていない。

 ナチュは文面を読み、静かに息を吐く。

「説明不足でございますね」

「不足でございますか」

「先方が理解していないのでございます」

 違和感は小さい。

 だが確実に広がっている。

 王宮の承認が遅れ、商会が不安を覚え、地方に問い合わせが増える。

 不在の重みは、ゆっくりと影を落とす。

 夜。

 ナチュは灯りの下で帳簿を閉じる。

 数字は整っている。

 領地は回っている。

 だが王宮は、まだ整っていない。

 窓の外に星が瞬く。

 遠く王都で、華やかな灯りが揺れていることだろう。

 だがその裏で、見えない歪みが生まれ始めている。

 選択はすでに為された。

 その影響は、静かに、確実に広がっていく。
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