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第7話 地下に眠るもの
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第7話 地下に眠るもの
旧別邸は、王都から少し離れた丘の上にあった。
使われなくなって久しい建物は、外壁に蔦が絡み、窓は固く閉ざされている。
かつて貴賓を迎えたはずの屋敷は、今や時の流れから切り離されたように、静まり返っていた。
馬車を降りたジェシカは、冷たい風を一つ吸い込む。
(ここに……“始まり”が)
鍵は、地下へ続く裏口の扉にぴたりと合った。
重い音を立てて扉が開くと、ひんやりとした空気が足元から這い上がってくる。
ランプに火を灯し、石段を一段ずつ下りていく。
湿った石壁。
微かに残る薬草と鉄の匂い。
(……倉庫? それとも……)
地下室は、想像以上に広かった。
木箱が整然と並び、棚には書類と瓶がぎっしりと詰められている。
単なる放置された空間ではない。
(今も……使われている)
ジェシカの背筋に、冷たいものが走った。
最初に目に入ったのは、帳簿だった。
屋敷で見た符号。
同じ印が、ここにも記されている。
「……やっぱり」
ページをめくるごとに、記録は具体性を増していく。
支出の先。
物資の内容。
人の移動。
そして――。
(“保護対象”……?)
その文字を見た瞬間、胸が強く締め付けられた。
棚の奥。
小さな檻のような区画があり、古い毛布や簡素な寝具が残されている。
人が、ここにいた。
(監禁……? それとも、匿っていた?)
答えは、まだ出ない。
だが、どちらにしても――“善意だけ”では済まされない。
ふと、足音が響いた。
ジェシカは息を殺し、柱の陰に身を寄せる。
階段を下りてきたのは、見覚えのある背中だった。
「……アルヴィン」
夫は、ランプを掲げ、迷いなく地下を進む。
この場所を、知っている。
そして、日常的に使っている。
アルヴィンは、帳簿の前で立ち止まり、静かに息を吐いた。
「……来てしまったか」
低い声。
ジェシカは、隠れたまま、その言葉を聞いた。
「白い誓約は……必要だった」
誰に向けた言葉なのか、分からない。
「知られれば、あなたは巻き込まれる」
胸が、痛んだ。
(守るため……?)
それとも――。
アルヴィンが去ったあと、ジェシカはゆっくり姿を現した。
震える指で、帳簿を閉じる。
ここにあるのは、
単なる裏切りではない。
秘密。
隠蔽。
そして――選ばれなかった“真実”。
地下室を出るころ、外はすでに夕暮れだった。
空が赤く染まり、旧別邸の影が長く伸びる。
(あなたは、何を隠しているの?)
アルヴィン。
この結婚は、白い誓約だけでは説明できない。
ジェシカは、胸に灯った感情を否定しなかった。
それは怒りでも、悲しみでもない。
――決意。
次は、偶然ではなく、
真正面から問いただす。
白い仮面の奥にあるものを、
夫自身の口から、聞くために。
旧別邸は、王都から少し離れた丘の上にあった。
使われなくなって久しい建物は、外壁に蔦が絡み、窓は固く閉ざされている。
かつて貴賓を迎えたはずの屋敷は、今や時の流れから切り離されたように、静まり返っていた。
馬車を降りたジェシカは、冷たい風を一つ吸い込む。
(ここに……“始まり”が)
鍵は、地下へ続く裏口の扉にぴたりと合った。
重い音を立てて扉が開くと、ひんやりとした空気が足元から這い上がってくる。
ランプに火を灯し、石段を一段ずつ下りていく。
湿った石壁。
微かに残る薬草と鉄の匂い。
(……倉庫? それとも……)
地下室は、想像以上に広かった。
木箱が整然と並び、棚には書類と瓶がぎっしりと詰められている。
単なる放置された空間ではない。
(今も……使われている)
ジェシカの背筋に、冷たいものが走った。
最初に目に入ったのは、帳簿だった。
屋敷で見た符号。
同じ印が、ここにも記されている。
「……やっぱり」
ページをめくるごとに、記録は具体性を増していく。
支出の先。
物資の内容。
人の移動。
そして――。
(“保護対象”……?)
その文字を見た瞬間、胸が強く締め付けられた。
棚の奥。
小さな檻のような区画があり、古い毛布や簡素な寝具が残されている。
人が、ここにいた。
(監禁……? それとも、匿っていた?)
答えは、まだ出ない。
だが、どちらにしても――“善意だけ”では済まされない。
ふと、足音が響いた。
ジェシカは息を殺し、柱の陰に身を寄せる。
階段を下りてきたのは、見覚えのある背中だった。
「……アルヴィン」
夫は、ランプを掲げ、迷いなく地下を進む。
この場所を、知っている。
そして、日常的に使っている。
アルヴィンは、帳簿の前で立ち止まり、静かに息を吐いた。
「……来てしまったか」
低い声。
ジェシカは、隠れたまま、その言葉を聞いた。
「白い誓約は……必要だった」
誰に向けた言葉なのか、分からない。
「知られれば、あなたは巻き込まれる」
胸が、痛んだ。
(守るため……?)
それとも――。
アルヴィンが去ったあと、ジェシカはゆっくり姿を現した。
震える指で、帳簿を閉じる。
ここにあるのは、
単なる裏切りではない。
秘密。
隠蔽。
そして――選ばれなかった“真実”。
地下室を出るころ、外はすでに夕暮れだった。
空が赤く染まり、旧別邸の影が長く伸びる。
(あなたは、何を隠しているの?)
アルヴィン。
この結婚は、白い誓約だけでは説明できない。
ジェシカは、胸に灯った感情を否定しなかった。
それは怒りでも、悲しみでもない。
――決意。
次は、偶然ではなく、
真正面から問いただす。
白い仮面の奥にあるものを、
夫自身の口から、聞くために。
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