15 / 40
第15話 揺らぐ貴族社会
しおりを挟む
第15話 揺らぐ貴族社会
王立公会堂での発言から、三日が過ぎた。
だが、ジェシカの名は、まるで風邪のように王都中を巡っていた。
「聞いた? 白の誓約を否定したって」
「女の身で、あの場で……信じられない」
好奇と非難、そしてわずかな称賛。
噂は形を変えながら、貴族社会の奥深くへと染み込んでいく。
ジェシカは、屋敷の応接室で書簡の束を見下ろしていた。
「……ずいぶん増えたわね」
アルヴィンが、疲れたように息を吐く。
「半分は抗議だ。
残り半分は……同意とも、相談とも取れる」
ジェシカは、一通を手に取った。
――差出人不明。
ただ、震える文字でこう書かれている。
『私も、何も知らされないまま誓約を結ばされました
あなたの言葉で、初めて“おかしい”と思えた』
胸の奥が、静かに熱くなる。
「……届いてる」
だが、良い反応ばかりではなかった。
その日の午後。
アルヴィンは、王都評議会からの呼び出しを受けて戻ってきた。
「圧がかかっている」
「やっぱり?」
「主に、古参貴族だ。
“家の秩序を乱した女”だと」
ジェシカは、微笑んだ。
「乱したんじゃないわ。
見えないようにされていた歪みが、表に出ただけ」
アルヴィンは、その言葉に反論できなかった。
翌日、貴族学園。
ジェシカは、講堂の後方に立っていた。
本来、彼女のような立場の女性が、学生の場に顔を出すことは少ない。
だが――
若い令嬢たちの視線が、明らかに集まっていた。
「ヴァルモント夫人……」
一人の少女が、勇気を振り絞るように声をかける。
「私……将来、白の誓約を結ぶ予定で……
でも……」
言葉が、続かない。
ジェシカは、しゃがみ込み、視線を合わせた。
「怖い?」
少女は、こくりと頷く。
「怖いと思えるのは、ちゃんと考えている証拠よ」
その場にいた令嬢たちが、息を詰める。
「大切なのは、“選ばされる”ことじゃない」
ジェシカは、静かに続けた。
「選ぶ権利を、自分が持っていると知ること」
誰かが、小さく涙を拭った。
その光景は、翌日には別の形で伝わった。
「若い世代が影響を受け始めている」
「これは……放置できない」
貴族社会の空気が、確実に変わり始めていた。
一方で、ジェシカ自身も理解していた。
(ここからが、本当の分岐点)
同調は、必ず反発を生む。
支持が集まれば、敵も明確になる。
夜、執務室。
ジェシカは、机に広げた地図と家系図を見つめていた。
「……動くわ」
「どこへ?」
「“制度”じゃなく、“人”を見る」
彼女は、貴族名のいくつかに印を付ける。
「賛成派。
沈黙派。
そして――敵対派」
白の誓約は、もはや一つの制度ではない。
価値観の戦争へと姿を変えつつあった。
窓の外で、王都の灯が揺れる。
ジェシカは、確信していた。
この揺らぎは、もう止まらない。
そして――
次に試されるのは、
“声を上げた者が、どこまで立ち続けられるか”だということを。
物語は、
静かな対立の章へと、踏み込んでいった。
王立公会堂での発言から、三日が過ぎた。
だが、ジェシカの名は、まるで風邪のように王都中を巡っていた。
「聞いた? 白の誓約を否定したって」
「女の身で、あの場で……信じられない」
好奇と非難、そしてわずかな称賛。
噂は形を変えながら、貴族社会の奥深くへと染み込んでいく。
ジェシカは、屋敷の応接室で書簡の束を見下ろしていた。
「……ずいぶん増えたわね」
アルヴィンが、疲れたように息を吐く。
「半分は抗議だ。
残り半分は……同意とも、相談とも取れる」
ジェシカは、一通を手に取った。
――差出人不明。
ただ、震える文字でこう書かれている。
『私も、何も知らされないまま誓約を結ばされました
あなたの言葉で、初めて“おかしい”と思えた』
胸の奥が、静かに熱くなる。
「……届いてる」
だが、良い反応ばかりではなかった。
その日の午後。
アルヴィンは、王都評議会からの呼び出しを受けて戻ってきた。
「圧がかかっている」
「やっぱり?」
「主に、古参貴族だ。
“家の秩序を乱した女”だと」
ジェシカは、微笑んだ。
「乱したんじゃないわ。
見えないようにされていた歪みが、表に出ただけ」
アルヴィンは、その言葉に反論できなかった。
翌日、貴族学園。
ジェシカは、講堂の後方に立っていた。
本来、彼女のような立場の女性が、学生の場に顔を出すことは少ない。
だが――
若い令嬢たちの視線が、明らかに集まっていた。
「ヴァルモント夫人……」
一人の少女が、勇気を振り絞るように声をかける。
「私……将来、白の誓約を結ぶ予定で……
でも……」
言葉が、続かない。
ジェシカは、しゃがみ込み、視線を合わせた。
「怖い?」
少女は、こくりと頷く。
「怖いと思えるのは、ちゃんと考えている証拠よ」
その場にいた令嬢たちが、息を詰める。
「大切なのは、“選ばされる”ことじゃない」
ジェシカは、静かに続けた。
「選ぶ権利を、自分が持っていると知ること」
誰かが、小さく涙を拭った。
その光景は、翌日には別の形で伝わった。
「若い世代が影響を受け始めている」
「これは……放置できない」
貴族社会の空気が、確実に変わり始めていた。
一方で、ジェシカ自身も理解していた。
(ここからが、本当の分岐点)
同調は、必ず反発を生む。
支持が集まれば、敵も明確になる。
夜、執務室。
ジェシカは、机に広げた地図と家系図を見つめていた。
「……動くわ」
「どこへ?」
「“制度”じゃなく、“人”を見る」
彼女は、貴族名のいくつかに印を付ける。
「賛成派。
沈黙派。
そして――敵対派」
白の誓約は、もはや一つの制度ではない。
価値観の戦争へと姿を変えつつあった。
窓の外で、王都の灯が揺れる。
ジェシカは、確信していた。
この揺らぎは、もう止まらない。
そして――
次に試されるのは、
“声を上げた者が、どこまで立ち続けられるか”だということを。
物語は、
静かな対立の章へと、踏み込んでいった。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です
希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」
卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。
「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」
私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる