白い仮面の結婚を捨てた私が、裁かれない場所を作るまで

ふわふわ

文字の大きさ
20 / 40

第20話 選ばれる未来

しおりを挟む
第20話 選ばれる未来

 

 評議会から戻った王都は、静かだった。

 だがそれは、何も変わらなかったからではない。
 誰もが、何かが変わってしまったことを理解していたからだ。

 

 ジェシカは、ヴァルモント家の中庭に立っていた。
 春の気配を含んだ風が、木々を揺らしている。

 

(終わったわけじゃない)

 

 評議会は結論を先送りにした。
 それは敗北ではない。だが勝利でもない。

 ――問いが、正式に“存在を認められた”だけ。

 

 その夜、屋敷には小さな集まりが開かれていた。

 グラント伯爵。
 ラザフォード子爵。
 そして、これまで名を伏せていた数名の貴族たち。

 

「君を支持する、とはまだ言えない」

 伯爵は、正直に切り出した。

 

「構いません」

 ジェシカは即答する。

「私は“味方を作る”ために動いてきたわけじゃない」

 

 子爵が、低く笑った。

「相変わらずだな。
 なら、何のためだ?」

 

 ジェシカは、少し考え、答えた。

「選択肢を残すためです」

 

 静寂が落ちる。

 

「白の誓約を結ぶ人がいてもいい。
 伝統を選ぶ人がいてもいい」

 

 だが、と彼女は続けた。

「“知らされないまま選ばされる”未来だけは、
 終わらせたい」

 

 誰も反論しなかった。

 

 数日後。

 王国評議会は、正式に調査委員会の設置を発表した。

 白の誓約の運用実態。
 説明義務の有無。
 同意書の形式。

 

 変化は、遅い。
 だが、確実だった。

 

 一方で、反対派も完全には沈黙していない。

「次は、制度を守るための“改良案”が出てくるでしょうね」

 アルヴィンが言う。

 

「ええ」

 ジェシカは、窓の外を見た。

「でも、それでいい」

 

 対話が始まったということは、
 もう“なかったこと”には戻れないということだ。

 

 その日の午後。

 貴族学園から、一通の手紙が届いた。

 

『将来の誓約について、
 説明を求める令嬢が増えています
 講話の場を、正式に設けられませんか』

 

 ジェシカは、静かに微笑んだ。

 

(届いてる)

 

 声は、確かに。

 

 夜。
 中庭で、アルヴィンと並んで立つ。

 

「後悔は?」

 

「いいえ」

 

 即答だった。

「怖かった。
 今も怖い」

 

 でも、と彼女は続ける。

「黙って守られるだけの人生より、
 ずっといい」

 

 アルヴィンは、深く息を吐いた。

「……君は、強いな」

 

 ジェシカは、首を振った。

「違うわ」

 

 月明かりの下、彼女は言った。

「選んだだけ」

 

 選ばされる側から、
 選ぶ側へ。

 

 それだけのこと。
 それだけで、世界は揺れた。

 

 白い誓約は、まだ終わっていない。
 制度も、社会も、完全には変わらない。

 

 けれど。

 

 これから生まれる誰かは、
 少なくとも一度、立ち止まれる。

 

「本当に、これでいいの?」と。

 

 ジェシカは、空を見上げた。

 

 選ばれる未来は、
 もう与えられるものじゃない。

 

 ――自分で、選び取るものだ。

 

 その始まりに、
 彼女は確かに立っていた。

 

 白い仮面の時代は、終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。 セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。 婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...