白い仮面の結婚を捨てた私が、裁かれない場所を作るまで

ふわふわ

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第19話 裁かれる者たち

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第19話 裁かれる者たち

 

 評議会当日。

 王都中央評議院は、いつになく静まり返っていた。

 重厚な石造りの建物の前には、馬車が並び、
 その一台一台に、貴族たちの“立場”が詰め込まれている。

 

 ジェシカは、ゆっくりと階段を上った。

 視線が集まる。
 好奇、敵意、そして期待。

 

(逃げない)

 

 それだけを、胸に刻む。

 

 評議会の円卓には、古参派、穏健派、沈黙派が揃っていた。
 誰もが、今日が分岐点であることを理解している。

 

「これより――」

 議長の声が、空間を切り裂く。

「ヴァルモント夫人ジェシカに関する審議を開始する」

 

 名指しされた瞬間、空気が張り詰めた。

 

「夫人は、王国の伝統である白の誓約について、
 “問題がある”との発言を公の場で行った」

 

 古参派の侯爵が、重々しく立ち上がる。

「その結果、社交界に混乱が生じ、
 若年層に不安を与えた責任は、重い」

 

 ジェシカは、黙って聞いていた。

 

「よって我々は――」

 

「発言しても、よろしいですか」

 

 静かな声が、割って入る。

 

 議長が、わずかに逡巡し、頷いた。

 

 ジェシカは、一歩前に出た。

 

「まず、確認させてください」

 

 視線が集まる。

 

「私は、“白の誓約を廃止せよ”とは、一度も言っていません」

 

 ざわめき。

 

「私が問うたのは、
 説明なき同意が、当たり前として扱われている現状です」

 

 古参派が、鼻で笑った。

「結果として、皆、問題なく暮らしてきたではないか」

 

「“声を上げられない人”が、
 問題を問題として扱われなかっただけです」

 

 ジェシカの言葉は、鋭かった。

 

「私は、制度を壊そうとしたのではない」

「制度の中で、誰が黙らされてきたのかを、可視化しただけ」

 

 一瞬、沈黙が落ちる。

 

 その時。

 

「……異議あり」

 

 沈黙派の席から、声が上がった。

 グラント伯爵だった。

 

「夫人の発言は、扇動ではない」

 

 彼は、机に手を置き、ゆっくりと続ける。

「我々が“説明してこなかった”事実を、
 突きつけられただけだ」

 

 場が、ざわつく。

 

「それは、伝統の否定だ!」

 

「いいえ」

 

 今度は、ラザフォード子爵が立ち上がった。

「伝統を続けるなら、
 説明し、選ばせる覚悟も必要だという話です」

 

 古参派の顔色が、変わる。

 

 ジェシカは、その光景を見つめながら思った。

(裁かれているのは、私じゃない)

 

(“沈黙を前提にした社会”そのものだ)

 

 議長が、深く息を吸う。

「……本件について、
 本日の決議は見送る」

 

 どよめき。

 

「追加調査および、
 白の誓約運用の実態調査を行う」

 

 それは――
 即時処罰の否定。

 

 ジェシカは、静かに目を閉じた。

 

 勝利ではない。
 だが、排除もされなかった。

 

 評議会が終わり、人々が席を立つ。

 誰もが、同じ表情をしていた。

 

 選ばされる側から、選ぶ側へ移る恐怖。

 

 アルヴィンが、そっと隣に立つ。

「……生き残ったな」

 

「ええ」

 ジェシカは、微笑んだ。

「でも、これからが本番よ」

 

 制度は、まだ残っている。

 価値観も、すぐには変わらない。

 

 けれど――

 

 沈黙は、もう“安全な選択肢”ではなくなった。

 

 ジェシカは、評議院の扉を振り返った。

 

 ここは、裁く場所だった。

 そして今日――

 

 裁かれる側が、初めて問いを返した場所になった。

 

 物語は、
 いよいよ終章へと、歩みを進めていく。
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