白い仮面の結婚を捨てた私が、裁かれない場所を作るまで

ふわふわ

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第25話 条件付きの席

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第25話 条件付きの席

 

 評議会からの返答は、思いのほか早かった。

 封蝋は正式なもの。
 差出人は、王国評議院事務局。

 

 ジェシカは、静かに封を切った。

 

『あなたの提示した条件を、原則として受諾する。
 ただし、発言は制度改定の検討範囲に限定されたい』

 

 読み終え、彼女は一度だけ目を閉じた。

 

(来たわね)

 

 受諾。
 だが、限定付き。

 ――象徴として欲しい。
 だが、自由には語らせない。

 

 アルヴィンが、肩越しに覗く。

「どうする?」

 

「行くわ」

 

 即答だった。

 

「制限があるなら、
 その中で話すだけ」

 

 制限があるということは、
 そこが“触れてはいけない線”だと、
 自ら認めているということ。

 

 それだけで、十分だった。

 

 評議院の小会議室は、
 円卓よりも一段、温度が低い。

 参加者は少数。
 記録官が二名。

 

「まず、感謝を」

 

 議長代理が形式的に言う。

「あなたの意見は、
 社会的影響が大きい」

 

 ジェシカは、頷いた。

「影響を与えたかったわけではありません」

 

「しかし、与えた」

 

 淡々とした言い方だった。

 

「そこで、我々としては、
 制度を維持しつつ、
 説明義務を明文化する方向で――」

 

「質問があります」

 

 ジェシカは、遮らず、しかし確実に切り込んだ。

 

「“説明を受けた後でも、
 拒否した場合の不利益”は、
 どう扱われますか」

 

 空気が、わずかに固まる。

 

「それは……
 制度外の問題だ」

 

「いいえ」

 

 ジェシカは、はっきりと言った。

「それが、制度の“実態”です」

 

 記録官の筆が、止まる。

 

「説明をした、という事実だけでは足りない」

 

 彼女は、机に手を置いた。

「拒否できる結果が伴わなければ、
 それは選択ではない」

 

 誰も、すぐには反論できなかった。

 

 議長代理が、慎重に言葉を選ぶ。

「……それを認めれば、
 社会的混乱が生じる」

 

「混乱は、
 すでに生じています」

 

 ジェシカは、声を荒げない。

「ただ、
 見えない場所に追いやられているだけ」

 

 彼女は、一枚の紙を差し出した。

 署名のない、
 あの報告書の要約だった。

 

「これは、
 私の名前で出していません」

 

 その言葉に、数名が顔を上げる。

 

「でも、事実です」

 

 沈黙。

 

 議長代理は、深く息を吐いた。

「……あなたは、
 何を求めている」

 

 ジェシカは、少しだけ考え、答えた。

 

「制度を壊すことではありません」

 

「拒否しても、
 人生が壊れない仕組みを、
 最初から組み込むことです」

 

 それは、
 妥協ではない。

 

 最低限の、条件だった。

 

 会議が終わり、
 廊下に出たとき。

 アルヴィンが、小さく言った。

「嫌われたな」

 

 ジェシカは、微笑んだ。

 

「いいの」

 

「好かれるために、
 座った席じゃない」

 

 評議院の外は、
 いつもより風が強かった。

 

 彼女は、空を見上げる。

 

 名を持つ席に座ることは、
 安全ではない。

 

 だが。

 

 条件を示せたなら、
 その席は“利用されるだけの場所”ではなくなる。

 

 ジェシカは、歩き出した。

 

 白い仮面は、
 まだ完全には外れていない。

 

 それでも。

 

 仮面を被るかどうかを、
 誰が決めるのか――

 

 その問いは、
 確実に、評議院の壁に刻まれた。

 

 次に問われるのは、
 制度ではない。

 

 “拒否されたとき、
 社会は何を守るのか”――
 その覚悟だった。
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