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第32話 管理という名の手
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第32話 管理という名の手
法務院からの照会に返答しないまま、三日が過ぎた。
その沈黙は、
拒否でも、反抗でもない。
分類不能――
それ自体が、最も厄介な回答だった。
そして、四日目。
王都の空気が、明確に変わった。
第三の場所の前に、
見慣れない馬車が止まる。
紋章付き。
法務院直属。
降りてきたのは、
例の監査官マルセルだった。
「突然で失礼する」
穏やかな声。
だが、その背後には
正式な権限が立っている。
「視察だ」
ジェシカは、門の前で彼を迎えた。
「中に入る許可は、
誰が出したのですか」
「必要ない」
マルセルは、静かに答える。
「ここは、
登録されていない施設だ」
――だから、
守られてもいない。
それは、
脅しではなく、
事実の提示。
「管理されていない場所は、
事故が起きやすい」
「だから?」
「だから、
管理する」
その言葉に、
空気が冷える。
中では、
いつものように
数人が静かに座っていた。
誰も、
声を上げない。
マルセルは、
室内を一巡し、
棚や椅子を眺める。
「議事録は?」
「ありません」
「責任者は?」
「いません」
「目的は?」
ジェシカは、
はっきりと言った。
「ありません」
マルセルは、
一瞬だけ目を細めた。
「それが問題だ」
彼は、
書類を一枚取り出す。
「この場所を、
“相談支援施設”として
仮登録する」
その言葉に、
誰かが息を呑んだ。
「登録すれば、
補助金が出る。
職員も派遣できる」
「代わりに?」
ジェシカが問う。
「活動内容の報告。
利用者の把握。
最低限の安全管理」
最低限――
制度が口にする時、
それは最大限に膨らむ。
「拒否すれば?」
マルセルは、
即答しなかった。
「……
無許可施設として、
閉鎖も視野に入る」
沈黙。
年若い女性が、
小さく震える。
ジェシカは、
一歩前に出た。
「質問があります」
「何だ」
「あなたが言う
“安全”とは、
誰の安全ですか」
マルセルは、
即座に答えられなかった。
「利用者ですか。
それとも――」
一拍。
「制度ですか」
空気が、
凍りつく。
マルセルは、
低く息を吐いた。
「……両方だ」
「では」
ジェシカは、
穏やかに言った。
「ここは、
まだ危険ですね」
「何?」
「制度にとって、
安全ではない」
だから――
今、潰そうとしている。
「登録は、受けません」
静かな宣言だった。
「ここは、
管理されないことが
前提です」
マルセルは、
しばらく黙っていた。
「覚悟は?」
「あります」
即答。
それは、
強さではない。
譲れない線を知っている
というだけ。
マルセルは、
書類をしまった。
「では、
上に報告する」
立ち去る直前、
彼は小さく言った。
「……
管理されない場所は、
必ず、
“誰か”に狙われる」
「ええ」
ジェシカは、
頷いた。
「だから、
私がここにいます」
馬車が去る。
残された空気は、
張り詰めたままだ。
誰かが、
ぽつりと漏らした。
「……
ここ、
なくなりますか」
ジェシカは、
否定しない。
「分からない」
だが。
「無くなるとしても、
今ここに居た事実は
消えません」
それだけで、
人は立てる。
管理という名の手は、
確実に伸びてきた。
だが。
掴めないものを、
握ることはできない。
白い仮面は、
制度の側に残っている。
だが。
その仮面を
外さないままでも――
境界線の外に、
足場は作れる。
それを、
誰もが理解し始めていた。
法務院からの照会に返答しないまま、三日が過ぎた。
その沈黙は、
拒否でも、反抗でもない。
分類不能――
それ自体が、最も厄介な回答だった。
そして、四日目。
王都の空気が、明確に変わった。
第三の場所の前に、
見慣れない馬車が止まる。
紋章付き。
法務院直属。
降りてきたのは、
例の監査官マルセルだった。
「突然で失礼する」
穏やかな声。
だが、その背後には
正式な権限が立っている。
「視察だ」
ジェシカは、門の前で彼を迎えた。
「中に入る許可は、
誰が出したのですか」
「必要ない」
マルセルは、静かに答える。
「ここは、
登録されていない施設だ」
――だから、
守られてもいない。
それは、
脅しではなく、
事実の提示。
「管理されていない場所は、
事故が起きやすい」
「だから?」
「だから、
管理する」
その言葉に、
空気が冷える。
中では、
いつものように
数人が静かに座っていた。
誰も、
声を上げない。
マルセルは、
室内を一巡し、
棚や椅子を眺める。
「議事録は?」
「ありません」
「責任者は?」
「いません」
「目的は?」
ジェシカは、
はっきりと言った。
「ありません」
マルセルは、
一瞬だけ目を細めた。
「それが問題だ」
彼は、
書類を一枚取り出す。
「この場所を、
“相談支援施設”として
仮登録する」
その言葉に、
誰かが息を呑んだ。
「登録すれば、
補助金が出る。
職員も派遣できる」
「代わりに?」
ジェシカが問う。
「活動内容の報告。
利用者の把握。
最低限の安全管理」
最低限――
制度が口にする時、
それは最大限に膨らむ。
「拒否すれば?」
マルセルは、
即答しなかった。
「……
無許可施設として、
閉鎖も視野に入る」
沈黙。
年若い女性が、
小さく震える。
ジェシカは、
一歩前に出た。
「質問があります」
「何だ」
「あなたが言う
“安全”とは、
誰の安全ですか」
マルセルは、
即座に答えられなかった。
「利用者ですか。
それとも――」
一拍。
「制度ですか」
空気が、
凍りつく。
マルセルは、
低く息を吐いた。
「……両方だ」
「では」
ジェシカは、
穏やかに言った。
「ここは、
まだ危険ですね」
「何?」
「制度にとって、
安全ではない」
だから――
今、潰そうとしている。
「登録は、受けません」
静かな宣言だった。
「ここは、
管理されないことが
前提です」
マルセルは、
しばらく黙っていた。
「覚悟は?」
「あります」
即答。
それは、
強さではない。
譲れない線を知っている
というだけ。
マルセルは、
書類をしまった。
「では、
上に報告する」
立ち去る直前、
彼は小さく言った。
「……
管理されない場所は、
必ず、
“誰か”に狙われる」
「ええ」
ジェシカは、
頷いた。
「だから、
私がここにいます」
馬車が去る。
残された空気は、
張り詰めたままだ。
誰かが、
ぽつりと漏らした。
「……
ここ、
なくなりますか」
ジェシカは、
否定しない。
「分からない」
だが。
「無くなるとしても、
今ここに居た事実は
消えません」
それだけで、
人は立てる。
管理という名の手は、
確実に伸びてきた。
だが。
掴めないものを、
握ることはできない。
白い仮面は、
制度の側に残っている。
だが。
その仮面を
外さないままでも――
境界線の外に、
足場は作れる。
それを、
誰もが理解し始めていた。
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