二世代の伝説の歌姫 〜ラストナンバーは終わらない〜

ふわふわ

文字の大きさ
28 / 37

第7章-4:歓声と涙

しおりを挟む
第7章-4:歓声と涙

 歌い終わった瞬間、講堂は一瞬、静まり返った。
 優の歌声が、完全に消えたわけではない。むしろ、彼女の歌の余韻が、空気を震わせているような感覚があった。
 その静寂の中で、優はマイクをそっと下ろし、胸を少しだけ上下させて息を整えた。
 そして、ゆっくりと顔を上げ、観客に目を向ける。

 その瞬間、観客席にいた全員が息を呑んだ。
 静けさが、まるで緊張の糸のように張り詰めていた。

 

 「……ありがとう」

 優が、小さく、でもはっきりとその言葉を口にした。

 その瞬間――

 

 「――!?」

 突如、観客席から大きな拍手が起こった。
 誰かが立ち上がり、続いて全員が拍手をしながら立ち上がった。
 その音は、まるで講堂全体が震えるような、圧倒的な力を持っていた。優はその拍手を、ただただ受け止めることしかできなかった。
 胸が熱くなり、目頭が熱くなった。

 

 「……やっぱり、すごかった!」

 泉が、観客席の最前列で手を振りながら叫んだ。
 「優ちゃん、最高!」

 明も笑いながら、目を潤ませた。
 「やっぱ、すげぇよ、お前」

 

 優はその言葉を、ただ静かに受け入れながら、ステージ中央で膝をついた。
 涙がこぼれそうになったが、彼女はそれをこらえた。

 「……ありがとう」

 その言葉は、今度こそ、観客全体に向けて響かせた。

 

 拍手が鳴り止まない中、優はステージを降りる準備をした。
 すると、泉が駆け寄ってきて、彼女を抱きしめた。

 「優ちゃん、ほんとにお疲れ様! やったね!」
 「……うん、ありがとう、泉」

 明も手を伸ばし、ぎゅっと優の肩を叩いた。

 「な、なんだよ、涙かよ。格好つけろよ、あんま泣くなって」

 優は、それを聞いて少しだけ笑顔を見せた。

 「泣いてない……よ?」

 明は苦笑し、泉も笑いながら優を引っ張って外へと歩き始めた。

 「みんな待ってるよ! 舞台裏に戻らなきゃ!」

 優はその手を握り返し、しっかりと歩を進めた。
 拍手は、まだ止まらない。

 

 ステージ裏に戻ると、少し慌ただしく動き回るスタッフたちの姿が見えた。
 だがその中で、戸川浩一が静かに、そして誇らしげに優を迎えた。

 「……お疲れさま、白河さん」

 優は、戸川を見つめる。その目は、少し濡れている。

 「戸川さん……ありがとうございます……」

 戸川は微笑んだ。

 「いえ、君が素晴らしい歌を届けてくれたからだよ。舞さんがずっと伝えたかった“想い”を、君が歌い継いだ。それだけだ」

 優は、ただ深く頭を下げた。
 そして、胸の中で静かに誓う。

 ――舞おばさん、これが私の“歌”です。

 その思いを、今、確かに感じていた。

 

 学園祭は、まだ終わっていなかった。だが、優にとっては、そのステージこそが“自分の物語の始まり”だった。
 顔を出し、名前を背負って、誰かに届ける歌。
 それは決して終わりではなく、むしろ始まりの一歩に過ぎなかった。

 

 その後、優はクラスメイトたちからたくさんの祝福を受けた。

 「やっぱり、すごかったよ。Yuuだって気づいてたけど、顔出して歌った姿、もう最強だよ!」
 「優さん、歌声に感動したよ! あの歌、私も聴きたかった!」  「うちのクラスでも、優さんファンが増えるんじゃない?」

 優は少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、でもその胸は、誇らしさでいっぱいだった。

 

 その日、SNSは再び騒然となった。
 優が学園祭のステージで歌う姿を、観客が撮影した動画が拡散され、瞬く間に「Yuuの正体」「白河優」という言葉が広がった。

 「今さら言うまでもないけど、Yuuの正体があの白河優だったってこと、みんな気づいてるよな? あの歌声、あの姿、やっぱりすごすぎる!」

 「学校でこんなにすごい人いたんだって驚いた。彼女が歌ってたのを見て、涙が止まらなかった!」

 SNSに上がった動画のコメント欄は、絶賛の嵐だった。
 優はそのすべてを見ていたが、今はもう“照れる”ことはなかった。
 心の中で、すっと背筋を伸ばす。

 ――私は、私の歌を歌う。

 

 そしてその夜、優は初めて自分のことを考えた。

 “Yuu”という名前で歌ったこと。
 “白河優”としてステージに立ったこと。
 それが今後どうなるのかは、まだわからない。

 でも、私はもう、隠れなくていい。
 自分の歌で、今後の未来を切り開く覚悟が、確かにできていた。

 優は、窓の外を見ながら深呼吸をした。

 もう一度、始まりの一歩を踏み出す時が来た――

 ラストナンバーでは終わらない。
 私の“歌”が、これから始まるのだから。


---

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

処理中です...