二世代の伝説の歌姫 〜ラストナンバーは終わらない〜

ふわふわ

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番外編『ラストナンバー』

第7章:沈黙の中で響く歌

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第7章:沈黙の中で響く歌



 202X年4月某日、19時55分。

 その時間、日本中のテレビが“止まった”。

 

 各局は予定されていた番組を中断し、同じ映像を流した。
 静寂に包まれた画面。白いワンピースの少女が、ただ一人、何もない舞台に立っていた。
 MCも字幕もスポンサー名も、なにもなかった。

 

 流れたのは、たった一曲。

 

 MV「ラストナンバー」。
 その歌声は、わずか90秒のTVサイズに編集され、全放送局の視聴者のもとへ同時に届けられた。

 

 瞬間、日本中に“沈黙”が生まれた。

 

 CMだと気づいた人もいた。
 だが、すぐに誰もが理解した。これは広告などではない。心に届く“叫び”だった。

 

 スーパーのテレビ売場では、買い物客が立ち止まり、動きを止めた。
 居酒屋では、店員がリモコンを落としたまま、画面を見つめていた。
 病院の待合室、空港のロビー、家庭のリビング――
 あらゆる場所で、誰もが、その“声”に引き込まれていた。

 

 「……誰?」

 「この人、誰なの?」

 

 どこかで誰かが呟いた。

 

 そして、曲が終わった。

 黒い画面に、たったひとつの文字が浮かぶ。

 

my
『ラストナンバー』
now on release

 

 情報はそれだけ。
 アーティストの写真も、プロフィールも、リンクもない。
 それなのに、数秒後、インターネットは爆発した。

 

◆SNSトレンド第1位:#my
◆検索トレンド:
「ラストナンバー 歌手」
「my 正体」
「ラストナンバー 歌詞 泣いた」
「AIじゃないよね?」
「my 実在する?」

 

 わずか90秒で、myは“伝説”になった。

 



 

 MV公開から1時間後。
 大手音楽ストリーミングサイトのサーバーはダウンした。
 YouTubeでは、公式MVの再生数が30分で100万回を突破。

 

 しかし、myの名前を知る者は誰もいない。
 インタビューもなければ、顔出しもない。
 レコード会社は「本人の意向により非公開」と繰り返すだけ。

 

 その“謎”が、さらに注目を集めた。
 歌詞サイトでは全文が即座に書き起こされ、「まるで遺言のようだ」と語られた。

 

 “あなたに届きますように
 わたしがここにいた証に
 名前もいらない 声も消えて
 それでも 誰かを照らせたら――”

 

 この部分に、何千、何万というコメントが寄せられた。

 

「泣いた。もう、立てない」
「言葉にできないけど、生きようと思った」
「myって人間? AI? 神様? でも、確かに心に届いた」

 

 やがて、ある“噂”が広がり始める。

 

 「myは、もうこの世にいない」

 

 姿を見せない理由。沈黙。あの曲のタイトル。
 すべてが“別れ”を連想させた。

 

 証拠はどこにもなかった。
 でも、人々は“感じて”いた。
 この歌が生まれた背景には、誰かの命があったのだと。

 

 ネット掲示板では、誰かがこう書いていた。

 

「たぶん、myって人はもう死んでる。
だから、名前も出ないし、顔も出さない。
でも、それでもいい。
この歌がある限り、“彼女”は生きてるんだと思う」

 

 その投稿は一晩で何万回もシェアされた。

 



 

 一方、レコード会社の応接室。

 安藤真裕は、テレビのリモコンを置き、静かにため息をついた。

 

 「……終わったな。これで、本当に終わった」

 

 戸川浩一は隣で黙って頷いていた。
 彼の目は赤く、腕はわずかに震えていた。

 

 「舞のことを……知ってもらえなかったのは、やっぱり悔しいよ」

 

 「でも、舞はそれでよかったと思ってるよ。姿が消えても、歌が残ればいいって、いつも言ってた」

 

 戸川は、懐から小さなUSBメモリを取り出す。
 そこには、“ラストナンバー”の別バージョン――
 スタジオで、ただ一度だけ収録された“生の一発録り”の音源が入っている。

 

 「これだけは……俺の中にだけ残しておくよ。彼女が“生きた証拠”として」

 

 「舞はmyになった。
 でも、myはもう“誰のものでもない”んだ。
 myは、聴いた人の心に残る、“あなた自身”なんだよ」

 

 安藤のその言葉に、戸川は小さく笑った。

 

 「なるほどな。たしかに、名前が“my”なのも、そういう意味だったのかもな……」

 

 my――私。
 でも、それは「私=舞」ではなく、「私=聴いたあなた」かもしれない。

 

 誰かの中に、myは今も生きている。

 

 たった一曲の、“ラストナンバー”を残して。

 

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