異世界に突如召喚された、ごく普通の日本人女子――雪月風花(せつげつふうか)。 黒髪というだけで「聖女様!」と崇められ、魔物も災厄もすべて彼女

ふわふわ

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第4章-1:告発の髪色

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第4章-1:告発の髪色

 

その日、王都の空は晴れわたっていた。だが、神殿内に流れる空気は張りつめていた。

 

「エルミナ様、こちらでお着替えを……」

 

「ええ。すぐに行くわ」

 

応接間の扉が閉まり、神官たちが去ったのを確認すると、エルミナは小さく吐息を漏らした。
衣の襟を緩め、ふうっと首を仰ぐ。
その手元には、桃色の髪がわずかに覗いていた。

 

「……ちょっと色が落ちてきたかしら」

 

戸棚の奥から染料の壺を取り出し、いつものように丁寧に髪に塗る。
真夜中に染め、朝に乾かし、日中は徹底して隠す。

 

――これさえ守っていれば、彼女は“聖女”だった。

 

神殿にはすでに彼女の肖像画が飾られ、民は彼女を神の使いとして讃え、王は信頼を寄せていた。

 

(黒髪であれば、誰でも“聖女”になれる。なら、私がなって何が悪いの?)

 

彼女は歯を見せて笑った。

 

 

* * *

 

だが、神殿にはもうひとつの視線があった。

 

若き神官ライハルト。
かつて風花を“ただの女の子”として見ていた彼は、エルミナの登場に違和感を拭えずにいた。

 

(確かに癒しは起きているが……どこか、奇跡とは違う)

 

あの日、湯殿の係の侍女がささやいた。

 

「……エルミナ様のお湯、黒い色が少し浮いていたんです。墨かしらって……でも、あの方の髪、もしかして……」

 

ライハルトは驚き、急ぎ湯殿の排水から布を使って水をすくい取った。
乾かし、香料を抜き、残った微粒子を神殿調合室で確認する。

 

「これは……染料だ」

 

確信を得た彼は、上官である神殿副長に報告した。

 

「証拠は充分にあります。彼女の髪は――黒くありません。これは、神の啓示でも奇跡でもない。計算された偽りです!」

 

副長は顔をしかめる。

 

「……だが、王もすでに彼女を“新たな聖女”として認めている。軽々に動けば……神殿そのものの信頼が揺らぐぞ」

 

「それでも、偽りを放置することこそ、信仰への裏切りです!」

 

ライハルトの声は、真剣だった。
彼は、風花を失ったときの後悔を繰り返したくなかった。

 

「――このまま、また偽物を崇めるのか。罪を見逃して、私たちは何を守るというのですか」

 

副長は目を閉じ、しばし沈黙ののち、重くうなずいた。

 

「……わかった。陛下に直接報告しよう」

 

 

* * *

 

王宮謁見の間。
王・グラディウスは、白銀の玉座の上でじっと報告を聞いていた。

 

「黒髪は、偽装……?」

 

「はい、陛下。これが染料の成分と、該当する髪の毛の標本です。今日、神殿から回収したものです」

 

供された小瓶と、紙に包まれた一房の髪。

 

王はそれを見下ろすと、次の瞬間――玉座のひじ掛けを強く叩いた。

 

「……またか」

 

その声は、苦悶と怒りと、そして恐怖に満ちていた。

 

「民の希望はどうなる……! また、“聖女は偽物だった”と民が知れば、今度こそ……!」

 

「すでに、神官の一部には動揺が広がっております。癒しの奇跡も、全て“即効薬”と“演出”によるものでした」

 

「――処刑だ」

 

王の口から、その言葉がこぼれた。

 

「聖女を騙るなど、神を騙るのと同義……反逆罪に等しい。全城に伝令を。エルミナは、今宵をもって“聖女詐称の罪”で断罪される」

 

「はっ」

 

 

* * *

 

その頃、エルミナはいつものように神殿の祈祷室にいた。

 

「神よ、この者たちをお救いください――」

 

その“祈り”の最中、扉が乱暴に開かれた。

 

「……なに、騒がしい――っ!?」

 

複数の騎士が部屋へ雪崩れ込む。
その中心にいた副神官が、無感情に告げた。

 

「エルミナ。王命により、貴様を反逆罪で拘束する」

 

「なっ、何を言って……私は聖女よ!? 私は……!」

 

「神を騙った罪は、最も重き罰をもって贖われる」

 

「違うのよ……違う……私は……“必要とされた”だけなの……!」

 

取り押さえられたエルミナは、そのまま神殿の奥へと引きずられていった。
その声が、王都に響き渡る最期の嘆願になるとも知らず――

 

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