異世界に突如召喚された、ごく普通の日本人女子――雪月風花(せつげつふうか)。 黒髪というだけで「聖女様!」と崇められ、魔物も災厄もすべて彼女

ふわふわ

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第5章-2:新たな町で、ただの風花として

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第5章-2:新たな町で、ただの風花として


 

王都が滅んでから、季節がひとつめぐった。

 

風花は、相変わらず町の片隅で、静かに暮らしていた。
薬草を育て、必要な人に分け、子どもたちに文字を教え、小さな診療所で人々の手当をして。

 

「せんせー! 虫刺され、かいーの!」

 

「はいはい、これを塗って。掻いちゃだめだよ。あとで腫れちゃうから」

 

「はーい……うぅ、でも、ちょっとだけ掻きたい!」

 

「じゃあ、“ちょっとだけ”だよ?」

 

「やった!」

 

笑い声が弾ける。
それは、神殿の鐘でもなければ、王の勅命でもない。
ただの日常の、当たり前の幸福だった。

 

この町には、王都のような堅苦しい上下関係もなければ、宗教的な信仰もほとんどなかった。
祈りの代わりに、声を掛け合い、助け合う。
生きることに必死で、でもどこか自由で、あたたかい。

 

(……ここなら、“普通の私”でいられる)

 

風花は、そう思っていた。

 

だが――

 

風花の“過去”を知る者は、確実に少しずつ、この町にも流れ着き始めていた。

 

旅商人、難民、行き場をなくした元貴族の子弟たち……
彼らの中には、風花が“あの雪月風花”だと気づく者もいた。

 

けれど、彼女はそれを否定も肯定もしなかった。

 

「私はただの風花。もう聖女じゃないから」

 

それ以上は語らず、やがて周囲も悟ったように、それを深追いしなくなった。

 

風花が“祈られたくない”ということを、少しずつ理解していったのだ。

 

 

* * *

 

春の終わり、風花は診療所の子どもたちと一緒に、小さな薬草畑に苗を植えていた。

 

「これね、“あおいそう”って言うんだよ!」

 

「正解。風邪をひいたとき、葉っぱを煎じて飲むと喉にいいの」

 

「ふーん……でも苦いんでしょ?」

 

「そう。でも我慢できたら、お姉ちゃんが飴あげる」

 

「やったー!」

 

子どもたちは元気に笑って、土に苗を埋めていく。

 

その姿を見ていた年配の女性が、ぽつりと言った。

 

「……あんた、本当に“何もしてない”つもりなのかい?」

 
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