婚約破棄追放された公爵令嬢、前世は浪速のおばちゃんやった。 ―やかましい?知らんがな!飴ちゃん配って正義を粉もんにした結果―

ふわふわ

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第19話 善意を装った、刃が来る

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第19話 善意を装った、刃が来る

 修道院に、また“外からの声”が届いた。

 それは怒鳴り声でも、抗議でもない。
 もっと厄介な――善意の顔をした声だった。

「……ステラ様」

 院長が、いつになく疲れた表情で呼びに来た。

「王都教会より、支援の申し出がありました」

「ほう」

 ステラは、手を止めた。

「支援、なに?」

「食料と人員です。“修道院の負担軽減のため”と」

 その言葉に、ステラは小さく笑った。

「分かりやすいなぁ」

 頭の奥の声が、即座に補足する。

 ――助けるフリして、主導権取りに来とる。

「せやね」

 ステラは、腕を組んだ。

「で、人員って?」

「……王都教会所属の修道士数名と、補佐役の女性一名」

 院長は、一拍置いて言った。

「“施しの管理”を担うそうです」

「管理、ね」

 その瞬間、ステラは確信した。

 ――来たな。
 ――善意を装った、刃や。

 昼過ぎ、修道院の門前に馬車が止まった。

 降りてきたのは、清潔な法衣を纏った修道士たち。
 そして、その後ろから――

「ご無沙汰しております、ステラ様」

 柔らかく、完璧な微笑み。

「……クレア・グレコです」

 修道院の空気が、一瞬で凍った。

「えらいとこまで来はったな」

 ステラは、静かに言った。

「王都は、暇なん?」

「まさか」

 クレアは首を振る。

「ただ、噂が気になりまして」

 その言葉に、修道女たちがざわつく。

「“追放された聖女の方が、人を救っている”などという、不穏な噂が」

 あくまで“心配そうに”。

「教会として、放置できませんでした」

 院長が、一歩前に出る。

「……これは、監査では?」

「いいえ」

 クレアは、にこやかに答えた。

「支援です」

 その視線が、ステラに向く。

「ステラ様は、お優しい方ですもの」

 その一言に、ステラは眉を動かした。

「……優しさは、便利な言葉やな」

 クレアは、気づかないふりをする。

「無理をなさっているのでは、と」

「無理?」

「ええ。線を引くのは、お辛いでしょう?」

 修道女たちが、はっとする。

 ――“線引き”を、弱さとして語った。

「……善意を断るのは、心が痛むものです」

 クレアは、ゆっくり言葉を重ねる。

「だからこそ、教会が代わりに“管理”します」

 その場の空気が、じわりと変わる。

 ステラは、黙って聞いていた。

 そして――

「なるほど」

 静かに、言った。

「うちを、“悪者”にせんで済むわけや」

 クレアの笑みが、ほんの一瞬だけ揺れた。

「……どういう意味でしょう?」

「教会が管理するならな」

 ステラは、淡々と続ける。

「足りん時は、“教会の判断”」

「断られたら、“規則”」

「うちは、優しい人のまま」

 視線を真っ直ぐ向ける。

「そういう筋書きやろ?」

 修道士たちが、息を呑む。

 クレアは、すぐに微笑みを整えた。

「深読みですわ」

「せやろか」

 ステラは、肩をすくめた。

「深読みできへん人ほど、巻き込まれるんやけどな」

 クレアは、一歩近づいた。

「ステラ様」

 声を落とす。

「あなたは、もう聖女ではありません」

 その言葉に、修道女たちがざわめく。

「それでも、あなたの“善意”は尊い」

「だから、教会に預けなさい」

 ――善意を、奪いに来た。

 ステラは、ふっと笑った。

「なあ、クレア」

「はい?」

「うちが一番苦手なもん、何か知っとる?」

「……存じませんわ」

「善意の取り立て」

 ぴしり、と空気が張る。

「善意はな、預けた瞬間、利子ついて返ってくる」

「その利子、誰が払う思う?」

 クレアの目が、わずかに細くなる。

「……ですから、教会が責任を」

「責任?」

 ステラは、首を振った。

「責任取る言う人ほど、現場におらへん」

 沈黙。

 院長が、息を呑んだ。

「……ステラ様」

 クレアは、静かに言った。

「では、支援は不要だと?」

「違う」

 ステラは、即答した。

「条件がある」

 全員の視線が集まる。

「管理は、修道院がする」

「教会は、物だけ置いて帰る」

「名前も、旗も、出さん」

 クレアは、微笑みを保ったまま、動かない。

「……それでは、“支援”とは言えませんわ」

「ほな、要らん」

 はっきりと。

 その言葉が、修道院に響いた。

 修道女たちの中に、ざわめきと――納得が混じる。

 クレアは、ゆっくりと息を吐いた。

「……分かりました」

 そう言って、踵を返す。

「本日は、引きます」

 だが、去り際に、振り返った。

「ただし」

 視線が冷える。

「善意を拒む者は、やがて“悪”と呼ばれます」

 その言葉を、ステラは真正面から受け止めた。

「ええよ」

 静かに。

「悪言われる方が、
 腹減らせるよりマシや」

 クレアの表情が、初めて歪んだ。

 馬車が去ったあと、修道院は深い沈黙に包まれた。

「……大丈夫でしょうか」

 修道女が、震える声で問う。

「大丈夫や」

 ステラは、いつもの調子で言った。

「今のは、“善意の刃”や」

「ちゃんと、見えたやろ?」

 修道女たちは、ゆっくり頷いた。

 その夜、王都では。

 クレア・グレコが、爪を強く握りしめていた。

「……優しさを疑わせても、ダメ」

 低く呟く。

「なら、次は――」

 “悪者に仕立てる”

 修道院の灯りが、遠くに揺れる。

 善意を装った刃は、退いた。
 だが――
 本物の刃が、次に来る。

 ステラ・ダンクルは、
 それを、すでに悟っていた
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