婚約破棄追放された公爵令嬢、前世は浪速のおばちゃんやった。 ―やかましい?知らんがな!飴ちゃん配って正義を粉もんにした結果―

ふわふわ

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第22話 数字は嘘をつかない、嘘をつかせる人間がいる

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第22話 数字は嘘をつかない、嘘をつかせる人間がいる

 調査団が去って三日。

 修道院は、表向きは平穏を取り戻していた。
 だが、その平穏は――張りつめた静けさだった。

「……来ぇへんな」

 ステラ・ダンクルは、台所で鍋をかき混ぜながら呟いた。

 頭の奥の声が、静かに応じる。

 ――今は、“まとめとる”時期や。

「せやろな」

 調査は終わった。
 だが、裁きは終わっていない。

 数字は集められ、言葉は記録された。
 あとは、それをどう読むかだ。

 昼過ぎ、院長のもとに王都からの使いが来た。

「……追加の資料要請、です」

 差し出された封書には、丁寧な文字が並んでいる。

『施しを受けた者の選定基準について
 より詳細な説明を求む』

「……選定基準、ですか」

 院長の声が、わずかに揺れる。

「ほな来たな」

 ステラは、紙を一瞥して言った。

「数字を、言葉に縛りに来とる」

「……悪いことでしょうか」

「悪くはない」

 ステラは、首を振る。

「せやけどな」

 一拍置く。

「数字は、理由を欲しがらへん」

「人間が、理由を欲しがる」

 院長は、意味を考える。

「……数字が足りない、ということですか?」

「ちゃう」

 ステラは、鍋を火から下ろす。

「数字は足りとる」

「せやけど、“都合のええ並べ方”は、
 いくらでもできる」

 その日の夕方、町で奇妙な噂が流れ始めた。

 ――修道院では、年寄りより若者が優先されている。
 ――働ける者を選んで助けている。
 ――だから、“効率”を重視しているのだ。

「……そんな」

 修道女たちが、憤る。

「効率だなんて……」

「言葉遊びや」

 ステラは、冷静だった。

「“効率”言うたら、悪も正義も作れる」

 頭の奥の声が、低く言う。

 ――数字はな、
 ――刃にも盾にもなる。

 夜、ステラは帳簿を広げた。

 配給の回数。
 年齢層。
 支援の内容。

「……確かに」

 数字だけ見れば、偏りはある。

 だが、それは“事情”の結果だ。

 足が悪い者。
 家族を失った者。
 自力で立てるまでの“短期支援”。

 それらは、数字には表れにくい。

「これを、どう歪めるか……」

 ステラは、ため息をついた。

 そこへ、若い修道女が入ってくる。

「ステラ様……町の集会で」

「うん?」

「“施しは平等であるべきだ”と……」

「言うやろな」

 ステラは、苦笑した。

「平等ほど、耳障りのええ言葉、あらへん」

「でも……」

 修道女は、不安そうだ。

「私たち、間違ってるんでしょうか」

 ステラは、帳簿を閉じた。

「なあ」

 修道女の目を見る。

「平等いうのはな、
 “同じ量”ちゃう」

「“同じ方向”や」

 修道女は、首を傾げる。

「全員を同じ高さに引き上げるんが、平等や」

「背ぇ低い子に、
 高い子と同じ椅子渡しても、意味あらへん」

 修道女の目が、少しだけ明るくなる。

「……じゃあ、どうすれば」

「そのままでええ」

 ステラは、即答した。

「向こうはな、
 数字で“物語”作りたいだけや」

 翌日、王都教会内。

 クレア・グレコは、集められた資料を眺めていた。

「……数字は、悪くないわね」

 部下が頷く。

「不正は見当たりません」

「だから、使えるのよ」

 クレアは、静かに言った。

「不正がない数字ほど、
 “解釈”で殺せる」

 彼女は、指で紙を叩く。

「“効率的支援”
 “選別的施し”
 “現場判断による偏り”」

「言葉を足せば、
 いくらでも疑念は生まれる」

 一方、修道院。

 ステラは、町の子どもに飴を渡していた。

「はい、おまけや」

「ありがとう!」

 その光景を、遠巻きに見る人影がある。

 ――疑いの目。

 だが、ステラは気にしない。

「なあ」

 頭の奥の声が、ぽつりと言う。

 ――数字で来る相手は、
 ――感情で崩れる。

「せやな」

 ステラは、空を見上げた。

「そろそろ、向こうが痺れ切らす頃や」

 数字は、嘘をつかない。
 だが――
 嘘をつかせるのは、いつも人間だ。

 そして、その嘘は、
 次の一手で形になる。

 静かな夜が、また一つ、過ぎていった。
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