23 / 30
第23話 公開の場に引きずり出される
しおりを挟む
第23話 公開の場に引きずり出される
王都からの正式な通知が届いたのは、朝の鐘が鳴り終わった直後だった。
封蝋は赤。
文面は、やけに丁寧。
『辺境修道院における施し運営について、
公開の場にて説明を求む』
「……来よったか」
ステラ・ダンクルは、紙を一瞥して呟いた。
頭の奥の声が、低く響く。
――次は“みんなの前”や。
「せやろな」
修道院の空気が、ざわついた。
「公開……?」
「王都で、ですか?」
修道女たちの不安が、隠しきれない。
「大丈夫や」
ステラは、いつもの調子で言った。
「怖がらせたいだけや」
院長が、慎重に尋ねる。
「……行かれるのですね」
「行くで」
即答だった。
「行かへん理由、あらへん」
数日後。
王都の中央広場に設えられた仮設の壇上。
教会関係者、市民、貴族。
噂を聞きつけた野次馬も混じっている。
「……えらい人やな」
ステラは、壇の端で辺りを見回した。
その視線の先――
白い法衣に身を包んだ、クレア・グレコがいた。
完璧な姿勢。
完璧な微笑み。
「……あの人が」
修道女が、息を呑む。
「せや」
ステラは、静かに言った。
「今日の主役や」
鐘が鳴り、集会が始まる。
司祭が、形式的な言葉を並べる。
「本日は、施しの在り方について、
皆様の前で明らかにする場です」
まず、クレアが前に出た。
「皆様」
柔らかい声。
「私は、教会の名のもとに、
すべての人が等しく救われる世界を願っています」
拍手が起こる。
「しかし」
声の調子が、少し変わる。
「一部の修道院で、
“選別”が行われているとの報告がありました」
ざわめき。
「数字をご覧ください」
板に貼られた資料が示される。
「配給数、年齢層、支援期間」
「偏りが、明確です」
人々の視線が、ステラに集まる。
「……やりよるな」
ステラは、腕を組んだ。
クレアは、続ける。
「これは、悪意でしょうか?」
「いいえ。
善意が、判断を誤らせた結果です」
――善意。
――判断ミス。
責めながら、責めていない言い方。
「だからこそ、教会が正す必要があるのです」
壇上に、静かな拍手が広がる。
その空気の中で――
「ほな、うちの番やな」
ステラが、一歩前に出た。
ざわめきが、走る。
「ステラ・ダンクルです」
名乗りは、それだけ。
「数字、見せてもろた」
板の方を見る。
「確かに、偏っとる」
どよめき。
「認めるで」
クレアの目が、わずかに光る。
「でもな」
ステラは、視線を戻す。
「偏り=悪、ちゃう」
一歩、踏み出す。
「足悪い人と、元気な人に、
同じ距離歩かせるんが平等か?」
沈黙。
「腹減っとる人と、
食うた直後の人に、
同じ量渡すんが公平か?」
人々が、考え始める。
「数字はな、
“結果”しか映さん」
「その前の事情は、
紙には書かれへん」
クレアが、口を挟む。
「しかし、感情で運営すれば――」
「感情ちゃう」
ステラは、即座に遮った。
「生活や」
その一言が、広場に落ちた。
「うちは、聖女やない」
「奇跡も、魔法も、
無限のパンも出されへん」
ざわつきが、静まる。
「せやから、
“次につながる助け”しかせえへん」
壇上の空気が、変わった。
拍手は、ない。
だが、聞いている。
クレアは、表情を崩さず言った。
「……それは、選別では?」
「せや」
ステラは、はっきり言った。
「選ぶで」
息を呑む音。
「誰の“今日”を助けるか」
「誰の“明日”を助けるか」
「全部、選んどる」
そして、静かに続ける。
「せやけどな」
「誰を切り捨てるか、
選んだことはない」
広場が、静まり返った。
沈黙の中、クレアの笑みが、ほんの少しだけ硬くなる。
この場は、公開裁判のはずだった。
だが今――
裁かれているのは、
数字か、現場か。
鐘が鳴り、集会は一旦の休止に入った。
だが、誰もが分かっていた。
――流れが、変わったと。
そして、次の一手は、
もっと露骨になる。
ステラ・ダンクルは、壇の端で小さく呟いた。
「やかましい?
知らんがな」
戦いは、
いよいよ表舞台の真ん中へ出た。
王都からの正式な通知が届いたのは、朝の鐘が鳴り終わった直後だった。
封蝋は赤。
文面は、やけに丁寧。
『辺境修道院における施し運営について、
公開の場にて説明を求む』
「……来よったか」
ステラ・ダンクルは、紙を一瞥して呟いた。
頭の奥の声が、低く響く。
――次は“みんなの前”や。
「せやろな」
修道院の空気が、ざわついた。
「公開……?」
「王都で、ですか?」
修道女たちの不安が、隠しきれない。
「大丈夫や」
ステラは、いつもの調子で言った。
「怖がらせたいだけや」
院長が、慎重に尋ねる。
「……行かれるのですね」
「行くで」
即答だった。
「行かへん理由、あらへん」
数日後。
王都の中央広場に設えられた仮設の壇上。
教会関係者、市民、貴族。
噂を聞きつけた野次馬も混じっている。
「……えらい人やな」
ステラは、壇の端で辺りを見回した。
その視線の先――
白い法衣に身を包んだ、クレア・グレコがいた。
完璧な姿勢。
完璧な微笑み。
「……あの人が」
修道女が、息を呑む。
「せや」
ステラは、静かに言った。
「今日の主役や」
鐘が鳴り、集会が始まる。
司祭が、形式的な言葉を並べる。
「本日は、施しの在り方について、
皆様の前で明らかにする場です」
まず、クレアが前に出た。
「皆様」
柔らかい声。
「私は、教会の名のもとに、
すべての人が等しく救われる世界を願っています」
拍手が起こる。
「しかし」
声の調子が、少し変わる。
「一部の修道院で、
“選別”が行われているとの報告がありました」
ざわめき。
「数字をご覧ください」
板に貼られた資料が示される。
「配給数、年齢層、支援期間」
「偏りが、明確です」
人々の視線が、ステラに集まる。
「……やりよるな」
ステラは、腕を組んだ。
クレアは、続ける。
「これは、悪意でしょうか?」
「いいえ。
善意が、判断を誤らせた結果です」
――善意。
――判断ミス。
責めながら、責めていない言い方。
「だからこそ、教会が正す必要があるのです」
壇上に、静かな拍手が広がる。
その空気の中で――
「ほな、うちの番やな」
ステラが、一歩前に出た。
ざわめきが、走る。
「ステラ・ダンクルです」
名乗りは、それだけ。
「数字、見せてもろた」
板の方を見る。
「確かに、偏っとる」
どよめき。
「認めるで」
クレアの目が、わずかに光る。
「でもな」
ステラは、視線を戻す。
「偏り=悪、ちゃう」
一歩、踏み出す。
「足悪い人と、元気な人に、
同じ距離歩かせるんが平等か?」
沈黙。
「腹減っとる人と、
食うた直後の人に、
同じ量渡すんが公平か?」
人々が、考え始める。
「数字はな、
“結果”しか映さん」
「その前の事情は、
紙には書かれへん」
クレアが、口を挟む。
「しかし、感情で運営すれば――」
「感情ちゃう」
ステラは、即座に遮った。
「生活や」
その一言が、広場に落ちた。
「うちは、聖女やない」
「奇跡も、魔法も、
無限のパンも出されへん」
ざわつきが、静まる。
「せやから、
“次につながる助け”しかせえへん」
壇上の空気が、変わった。
拍手は、ない。
だが、聞いている。
クレアは、表情を崩さず言った。
「……それは、選別では?」
「せや」
ステラは、はっきり言った。
「選ぶで」
息を呑む音。
「誰の“今日”を助けるか」
「誰の“明日”を助けるか」
「全部、選んどる」
そして、静かに続ける。
「せやけどな」
「誰を切り捨てるか、
選んだことはない」
広場が、静まり返った。
沈黙の中、クレアの笑みが、ほんの少しだけ硬くなる。
この場は、公開裁判のはずだった。
だが今――
裁かれているのは、
数字か、現場か。
鐘が鳴り、集会は一旦の休止に入った。
だが、誰もが分かっていた。
――流れが、変わったと。
そして、次の一手は、
もっと露骨になる。
ステラ・ダンクルは、壇の端で小さく呟いた。
「やかましい?
知らんがな」
戦いは、
いよいよ表舞台の真ん中へ出た。
22
あなたにおすすめの小説
半世紀の契約
篠原皐月
恋愛
それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。
一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
公爵家の侍女見習い、王宮の帳簿を黙らせます―
鍛高譚
恋愛
没落寸前の子爵家に生まれたキャル・キュレイションは、公爵家で侍女見習いとして働くことになる。
高位貴族から見れば、子爵令嬢など平民と大差ない。そんな弱い立場の彼女には、ただひとつ、とんでもない才能があった。
それは――暗算。
市場の会計をごまかす商人を見抜き、屋敷の帳簿の乱れを整え、誰も気づかなかった数字の歪みを拾い上げる。
その力はやがて公爵家の中だけに留まらず、領地経営、王宮財務局、そして国そのものを動かす大きな数字へと繋がっていく。
「魔法? ただの暗算です」
けれど、数字が見えるということは、見なくていいものまで見えてしまうということでもあった。
貴族社会の冷たい現実、王宮に渦巻く思惑、そしてなぜか彼女を放っておかない王太子。
立場は弱い。権力もない。
それでもキャルは、数字を武器に、自分の居場所を切り開いていく。
これは、公爵家の侍女見習いから始まった子爵令嬢が、暗算ひとつで王宮の帳簿を読み解き、成り上がっていくお仕事成長ファンタジーです。
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~
スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」
王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。
伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。
婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。
それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。
――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。
「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」
リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。
彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。
絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。
彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。
ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます
mio
恋愛
ギフト、と呼ばれる超能力が人々に現れる国。
その中でも特に『神の目』と呼ばれるギフトは特別視されていた。基本的に貴族の令嬢が授かるそのギフトを持つものが現れると王家に嫁ぐことが定められているほどに。
そんなギフトをもって生まれたフリージアは過去を思い出し決心した。自分の持っているギフトがばれる前に逃げ、ギフトを隠したまま今世こそは自由に生きようと。
だがその決心はなかなかうまくいかなくて……。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる