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第23話 公開の場に引きずり出される
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第23話 公開の場に引きずり出される
王都からの正式な通知が届いたのは、朝の鐘が鳴り終わった直後だった。
封蝋は赤。
文面は、やけに丁寧。
『辺境修道院における施し運営について、
公開の場にて説明を求む』
「……来よったか」
ステラ・ダンクルは、紙を一瞥して呟いた。
頭の奥の声が、低く響く。
――次は“みんなの前”や。
「せやろな」
修道院の空気が、ざわついた。
「公開……?」
「王都で、ですか?」
修道女たちの不安が、隠しきれない。
「大丈夫や」
ステラは、いつもの調子で言った。
「怖がらせたいだけや」
院長が、慎重に尋ねる。
「……行かれるのですね」
「行くで」
即答だった。
「行かへん理由、あらへん」
数日後。
王都の中央広場に設えられた仮設の壇上。
教会関係者、市民、貴族。
噂を聞きつけた野次馬も混じっている。
「……えらい人やな」
ステラは、壇の端で辺りを見回した。
その視線の先――
白い法衣に身を包んだ、クレア・グレコがいた。
完璧な姿勢。
完璧な微笑み。
「……あの人が」
修道女が、息を呑む。
「せや」
ステラは、静かに言った。
「今日の主役や」
鐘が鳴り、集会が始まる。
司祭が、形式的な言葉を並べる。
「本日は、施しの在り方について、
皆様の前で明らかにする場です」
まず、クレアが前に出た。
「皆様」
柔らかい声。
「私は、教会の名のもとに、
すべての人が等しく救われる世界を願っています」
拍手が起こる。
「しかし」
声の調子が、少し変わる。
「一部の修道院で、
“選別”が行われているとの報告がありました」
ざわめき。
「数字をご覧ください」
板に貼られた資料が示される。
「配給数、年齢層、支援期間」
「偏りが、明確です」
人々の視線が、ステラに集まる。
「……やりよるな」
ステラは、腕を組んだ。
クレアは、続ける。
「これは、悪意でしょうか?」
「いいえ。
善意が、判断を誤らせた結果です」
――善意。
――判断ミス。
責めながら、責めていない言い方。
「だからこそ、教会が正す必要があるのです」
壇上に、静かな拍手が広がる。
その空気の中で――
「ほな、うちの番やな」
ステラが、一歩前に出た。
ざわめきが、走る。
「ステラ・ダンクルです」
名乗りは、それだけ。
「数字、見せてもろた」
板の方を見る。
「確かに、偏っとる」
どよめき。
「認めるで」
クレアの目が、わずかに光る。
「でもな」
ステラは、視線を戻す。
「偏り=悪、ちゃう」
一歩、踏み出す。
「足悪い人と、元気な人に、
同じ距離歩かせるんが平等か?」
沈黙。
「腹減っとる人と、
食うた直後の人に、
同じ量渡すんが公平か?」
人々が、考え始める。
「数字はな、
“結果”しか映さん」
「その前の事情は、
紙には書かれへん」
クレアが、口を挟む。
「しかし、感情で運営すれば――」
「感情ちゃう」
ステラは、即座に遮った。
「生活や」
その一言が、広場に落ちた。
「うちは、聖女やない」
「奇跡も、魔法も、
無限のパンも出されへん」
ざわつきが、静まる。
「せやから、
“次につながる助け”しかせえへん」
壇上の空気が、変わった。
拍手は、ない。
だが、聞いている。
クレアは、表情を崩さず言った。
「……それは、選別では?」
「せや」
ステラは、はっきり言った。
「選ぶで」
息を呑む音。
「誰の“今日”を助けるか」
「誰の“明日”を助けるか」
「全部、選んどる」
そして、静かに続ける。
「せやけどな」
「誰を切り捨てるか、
選んだことはない」
広場が、静まり返った。
沈黙の中、クレアの笑みが、ほんの少しだけ硬くなる。
この場は、公開裁判のはずだった。
だが今――
裁かれているのは、
数字か、現場か。
鐘が鳴り、集会は一旦の休止に入った。
だが、誰もが分かっていた。
――流れが、変わったと。
そして、次の一手は、
もっと露骨になる。
ステラ・ダンクルは、壇の端で小さく呟いた。
「やかましい?
知らんがな」
戦いは、
いよいよ表舞台の真ん中へ出た。
王都からの正式な通知が届いたのは、朝の鐘が鳴り終わった直後だった。
封蝋は赤。
文面は、やけに丁寧。
『辺境修道院における施し運営について、
公開の場にて説明を求む』
「……来よったか」
ステラ・ダンクルは、紙を一瞥して呟いた。
頭の奥の声が、低く響く。
――次は“みんなの前”や。
「せやろな」
修道院の空気が、ざわついた。
「公開……?」
「王都で、ですか?」
修道女たちの不安が、隠しきれない。
「大丈夫や」
ステラは、いつもの調子で言った。
「怖がらせたいだけや」
院長が、慎重に尋ねる。
「……行かれるのですね」
「行くで」
即答だった。
「行かへん理由、あらへん」
数日後。
王都の中央広場に設えられた仮設の壇上。
教会関係者、市民、貴族。
噂を聞きつけた野次馬も混じっている。
「……えらい人やな」
ステラは、壇の端で辺りを見回した。
その視線の先――
白い法衣に身を包んだ、クレア・グレコがいた。
完璧な姿勢。
完璧な微笑み。
「……あの人が」
修道女が、息を呑む。
「せや」
ステラは、静かに言った。
「今日の主役や」
鐘が鳴り、集会が始まる。
司祭が、形式的な言葉を並べる。
「本日は、施しの在り方について、
皆様の前で明らかにする場です」
まず、クレアが前に出た。
「皆様」
柔らかい声。
「私は、教会の名のもとに、
すべての人が等しく救われる世界を願っています」
拍手が起こる。
「しかし」
声の調子が、少し変わる。
「一部の修道院で、
“選別”が行われているとの報告がありました」
ざわめき。
「数字をご覧ください」
板に貼られた資料が示される。
「配給数、年齢層、支援期間」
「偏りが、明確です」
人々の視線が、ステラに集まる。
「……やりよるな」
ステラは、腕を組んだ。
クレアは、続ける。
「これは、悪意でしょうか?」
「いいえ。
善意が、判断を誤らせた結果です」
――善意。
――判断ミス。
責めながら、責めていない言い方。
「だからこそ、教会が正す必要があるのです」
壇上に、静かな拍手が広がる。
その空気の中で――
「ほな、うちの番やな」
ステラが、一歩前に出た。
ざわめきが、走る。
「ステラ・ダンクルです」
名乗りは、それだけ。
「数字、見せてもろた」
板の方を見る。
「確かに、偏っとる」
どよめき。
「認めるで」
クレアの目が、わずかに光る。
「でもな」
ステラは、視線を戻す。
「偏り=悪、ちゃう」
一歩、踏み出す。
「足悪い人と、元気な人に、
同じ距離歩かせるんが平等か?」
沈黙。
「腹減っとる人と、
食うた直後の人に、
同じ量渡すんが公平か?」
人々が、考え始める。
「数字はな、
“結果”しか映さん」
「その前の事情は、
紙には書かれへん」
クレアが、口を挟む。
「しかし、感情で運営すれば――」
「感情ちゃう」
ステラは、即座に遮った。
「生活や」
その一言が、広場に落ちた。
「うちは、聖女やない」
「奇跡も、魔法も、
無限のパンも出されへん」
ざわつきが、静まる。
「せやから、
“次につながる助け”しかせえへん」
壇上の空気が、変わった。
拍手は、ない。
だが、聞いている。
クレアは、表情を崩さず言った。
「……それは、選別では?」
「せや」
ステラは、はっきり言った。
「選ぶで」
息を呑む音。
「誰の“今日”を助けるか」
「誰の“明日”を助けるか」
「全部、選んどる」
そして、静かに続ける。
「せやけどな」
「誰を切り捨てるか、
選んだことはない」
広場が、静まり返った。
沈黙の中、クレアの笑みが、ほんの少しだけ硬くなる。
この場は、公開裁判のはずだった。
だが今――
裁かれているのは、
数字か、現場か。
鐘が鳴り、集会は一旦の休止に入った。
だが、誰もが分かっていた。
――流れが、変わったと。
そして、次の一手は、
もっと露骨になる。
ステラ・ダンクルは、壇の端で小さく呟いた。
「やかましい?
知らんがな」
戦いは、
いよいよ表舞台の真ん中へ出た。
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