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第24話 正義は、声の大きい方に寄っていく
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第24話 正義は、声の大きい方に寄っていく
公開説明会は、いったん休止となった。
だが、王都の空気は休んでいない。
むしろ――熱を帯びて、騒がしくなっていく。
「……えらいことになっとるな」
宿舎の窓から広場を見下ろし、ステラ・ダンクルは呟いた。
人だかり。
小さな輪。
ささやき声と、ひそひそ話。
頭の奥の声が、静かに言う。
――公開の場いうのはな、
――事実より“印象”が走る。
「せやろな」
休止の理由は「整理のため」。
だが実態は、空気づくりの時間だった。
その日の午後、広場の一角で、即席の演説が始まった。
「皆さん!」
若い修道士が声を張り上げる。
「善意は、条件付きであってはなりません!」
拍手が起こる。
「選別とは、救いの否定です!」
その言葉が、風に乗って広がる。
「……あれ、誰や」
ステラは、目を細めた。
「教会側の“若手”やな」
頭の奥の声が応じる。
――若い正義は、声がでかい。
「ほんまそれ」
演説は続く。
「施しに理由をつけるなら、
それはもはや施しではない!」
聴衆の中に、頷く者が増える。
分かりやすい。
単純。
そして――気持ちがいい。
「……危ないな」
院長が、隣で呟いた。
「危ないで」
ステラは、即答した。
「正義が、分かりやすくなりすぎとる」
その夜、宿舎の部屋に、意外な訪問者が現れた。
「……失礼します」
現れたのは、王太子アッシュだった。
きちんと整えられた衣装。
だが、表情には疲れがにじんでいる。
「珍しいな」
ステラは、椅子に腰かけたまま言った。
「王太子様が、こんなとこ来はるなんて」
「……今日は、個人として来た」
アッシュは、そう前置きしてから続ける。
「正直に言う」
視線を外す。
「このままでは、教会の“正しさ”が勝つ」
「せやろな」
ステラは、否定しなかった。
「声でかいし、分かりやすいし」
「……あなたは、それでいいのか?」
アッシュの問いは、真剣だった。
「悪者にされる」
「追放された元聖女が、
“選別を正当化した”と」
ステラは、しばらく黙ったあと、口を開いた。
「なあ、アッシュ」
「なんだ」
「正義ってな」
一拍置く。
「勝った側が、後で名付けるもんや」
アッシュが、眉をひそめる。
「……諦めているのか?」
「ちゃう」
ステラは、首を振った。
「分かっとるだけや」
「声のでかい正義は、
一回、勝たな止まらん」
アッシュは、沈黙した。
「せやけどな」
ステラは、ふっと笑う。
「勝った正義は、
次の現場で、必ず破綻する」
「……なぜ?」
「現場は、うるさいからや」
アッシュは、言葉を失った。
その翌日。
王都教会は、追加声明を出した。
『施しの在り方について、
教会は“全面的な指針統一”を検討する』
つまり――現場判断の否定。
修道院側は、ざわついた。
「……私たち、どうなるんでしょう」
「全部、決められる……?」
不安が、広がる。
「落ち着き」
ステラは、修道女たちを集めた。
「これ、向こうのミスや」
「……え?」
「正義が、でかくなりすぎた」
ステラは、指で机を叩く。
「全修道院、同じ基準」
「全部、紙で決める」
「それ、
誰かが必ず困る」
修道女たちが、息を呑む。
「その“誰か”がな」
ステラは、静かに言った。
「次の味方や」
頭の奥の声が、低く笑う。
――静かな現場は、
――怒りを溜めとる。
「せや」
ステラは、飴を配る。
「今は、騒がん」
「“正義の声”に、譲ったる」
修道女が、不安そうに尋ねる。
「……それで、私たちは」
「やることは一緒や」
ステラは、にっと笑った。
「目の前の人、助ける」
「紙に書かれてへんとこでな」
王都の空気は、騒がしい。
正義は、声の大きい方に寄っていく。
だが――
本当に人を動かすのは、
声にならん不満や。
それが溜まる先を、
ステラ・ダンクルは、ちゃんと見ていた。
公開説明会は、いったん休止となった。
だが、王都の空気は休んでいない。
むしろ――熱を帯びて、騒がしくなっていく。
「……えらいことになっとるな」
宿舎の窓から広場を見下ろし、ステラ・ダンクルは呟いた。
人だかり。
小さな輪。
ささやき声と、ひそひそ話。
頭の奥の声が、静かに言う。
――公開の場いうのはな、
――事実より“印象”が走る。
「せやろな」
休止の理由は「整理のため」。
だが実態は、空気づくりの時間だった。
その日の午後、広場の一角で、即席の演説が始まった。
「皆さん!」
若い修道士が声を張り上げる。
「善意は、条件付きであってはなりません!」
拍手が起こる。
「選別とは、救いの否定です!」
その言葉が、風に乗って広がる。
「……あれ、誰や」
ステラは、目を細めた。
「教会側の“若手”やな」
頭の奥の声が応じる。
――若い正義は、声がでかい。
「ほんまそれ」
演説は続く。
「施しに理由をつけるなら、
それはもはや施しではない!」
聴衆の中に、頷く者が増える。
分かりやすい。
単純。
そして――気持ちがいい。
「……危ないな」
院長が、隣で呟いた。
「危ないで」
ステラは、即答した。
「正義が、分かりやすくなりすぎとる」
その夜、宿舎の部屋に、意外な訪問者が現れた。
「……失礼します」
現れたのは、王太子アッシュだった。
きちんと整えられた衣装。
だが、表情には疲れがにじんでいる。
「珍しいな」
ステラは、椅子に腰かけたまま言った。
「王太子様が、こんなとこ来はるなんて」
「……今日は、個人として来た」
アッシュは、そう前置きしてから続ける。
「正直に言う」
視線を外す。
「このままでは、教会の“正しさ”が勝つ」
「せやろな」
ステラは、否定しなかった。
「声でかいし、分かりやすいし」
「……あなたは、それでいいのか?」
アッシュの問いは、真剣だった。
「悪者にされる」
「追放された元聖女が、
“選別を正当化した”と」
ステラは、しばらく黙ったあと、口を開いた。
「なあ、アッシュ」
「なんだ」
「正義ってな」
一拍置く。
「勝った側が、後で名付けるもんや」
アッシュが、眉をひそめる。
「……諦めているのか?」
「ちゃう」
ステラは、首を振った。
「分かっとるだけや」
「声のでかい正義は、
一回、勝たな止まらん」
アッシュは、沈黙した。
「せやけどな」
ステラは、ふっと笑う。
「勝った正義は、
次の現場で、必ず破綻する」
「……なぜ?」
「現場は、うるさいからや」
アッシュは、言葉を失った。
その翌日。
王都教会は、追加声明を出した。
『施しの在り方について、
教会は“全面的な指針統一”を検討する』
つまり――現場判断の否定。
修道院側は、ざわついた。
「……私たち、どうなるんでしょう」
「全部、決められる……?」
不安が、広がる。
「落ち着き」
ステラは、修道女たちを集めた。
「これ、向こうのミスや」
「……え?」
「正義が、でかくなりすぎた」
ステラは、指で机を叩く。
「全修道院、同じ基準」
「全部、紙で決める」
「それ、
誰かが必ず困る」
修道女たちが、息を呑む。
「その“誰か”がな」
ステラは、静かに言った。
「次の味方や」
頭の奥の声が、低く笑う。
――静かな現場は、
――怒りを溜めとる。
「せや」
ステラは、飴を配る。
「今は、騒がん」
「“正義の声”に、譲ったる」
修道女が、不安そうに尋ねる。
「……それで、私たちは」
「やることは一緒や」
ステラは、にっと笑った。
「目の前の人、助ける」
「紙に書かれてへんとこでな」
王都の空気は、騒がしい。
正義は、声の大きい方に寄っていく。
だが――
本当に人を動かすのは、
声にならん不満や。
それが溜まる先を、
ステラ・ダンクルは、ちゃんと見ていた。
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