『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ

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第九話 初めての抗議

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第九話 初めての抗議

 それは、王宮の門前から始まった。

 最初は十人ほどだった。再建区画で仕事を失った職人たちが、ただ「話を聞いてほしい」と集まっただけだ。

「工事再開はいつだ」

「賃金の補填はどうなる」

 声は荒れていない。だが、焦りが滲んでいる。

 衛兵は困惑しながらも対応する。

「王宮へは取り次ぐ」

 だが、取り次ぎは即答を生まない。

 午後には人数が倍に増えた。

 商人、職人、その家族。皆が不安を抱え、集まってくる。

 それでもまだ、暴動ではない。

 ただの抗議。

 王宮内では、財務大臣ガレインが顔を蒼白にしていた。

「門前に百名以上」

「鎮圧は?」

「まだ穏やかです」

 王太子レオニードが立ち上がる。

「なぜだ。なぜ私に矛先が向く」

「殿下……」

 ガレインは慎重に言葉を選ぶ。

「民は原因を単純化します」

「公爵家だろう!」

「ですが、決断を下したのは殿下です」

 沈黙。

 レオニードの表情が硬くなる。

「私は正しい選択をした」

「ええ。しかし、結果が伴わねば……」

 そのとき、侍従が駆け込む。

「殿下、門前で“基金再開を”との声が」

 レオニードは拳を握る。

 愛を選んだことが、ここまで広がるとは思わなかった。

 一方、ヴァルテール公爵邸。

 私は門前の報告を受けていた。

「王宮前で小規模な抗議」

「規模は?」

「百名超」

「暴力は?」

「ございません」

 私は静かに頷く。

 これは感情の爆発ではない。

 不安の表出。

「備蓄小麦の一部を市場へ放出します」

「いま、ですか」

「ええ。価格安定のために」

 クラウスが一礼する。

 王家を助けるためではない。

 市場を守るため。

 それが長期的な安定につながる。

 夕刻。

 中央市場に、公爵家の倉庫から小麦が搬入される。

「ヴァルテール公爵家より、価格安定のため放出」

 張り紙が出る。

 人々のざわめきが変わる。

「助かった」

「値が少し戻るぞ」

「公爵家が……?」

 噂はすぐに広がる。

 王宮前の抗議は、次第に収束した。

 だが、残ったのは空気の変化。

 王宮の灯りが、以前より弱く見える。

 夜、レオニードは報告を受ける。

「公爵家が小麦を放出した?」

「はい。価格は一時的に安定」

「……恩着せがましい」

 だが、胸の奥に微かな焦燥が芽生える。

 民は結果を見る。

 誰が守り、誰が止めたか。

 ミレーヌがそっと近づく。

「殿下、きっと大丈夫ですわ」

 その言葉は温かい。

 だが、温かさだけでは帳簿は黒字にならない。

 一方、私は窓辺で夜の王都を見つめる。

 抗議は最初の波。

 まだ小さい。

 だが、波は繰り返す。

 次はもっと大きくなる。

 私はペンを取り、新たな書類に署名する。

 港湾収益の再投資計画。

 教育基金設立準備。

 王家の均衡が揺らぐほど、こちらの基盤は固まる。

 これは攻撃ではない。

 空いた場所に、静かに根を張るだけ。

 王宮の塔が夜に浮かぶ。

 あの塔の下で、王太子は初めて“結果”と向き合っているだろう。

 愛と責任。

 どちらが重いか。

 民はすでに、秤にかけ始めている。
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