『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ

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第十五話 初講義の朝

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第十五話 初講義の朝

 王妃教育機関の初講義の日、王都は不思議な緊張に包まれていた。

 馬車が次々と会館前に到着し、華やかなドレスに身を包んだ令嬢たちが降り立つ。だが、その顔に浮かぶのは浮き立つ笑顔ではなく、どこか硬い決意だ。

 ここは舞踏会の場ではない。

 評価されるのは笑顔ではなく、理解力と判断力。

 入口で出迎えながら、私はそれぞれに軽く頷いた。

「本日はようこそ」

「よろしくお願いいたします、リディアナ様」

 侯爵令嬢、伯爵令嬢、公爵令嬢。

 皆、家名を背負っている。

 そして、空白の一席。

 王太子妃候補の名札は、まだ置かれていない。

 王宮では、同じ朝、重い空気が流れていた。

「殿下、ミレーヌ様のご予定は……」

 侍従が慎重に尋ねる。

「今日は王宮に留まる」

 レオニードは短く答えた。

 ミレーヌはその横で、わずかに視線を落とす。

 彼女は昨夜、長く考えていた。

 通うべきか。

 通えば、自分の不足を認めることになる。

 通わなければ、比較され続ける。

 だが、殿下の言葉は重い。

「必要ない」

 その一言が、彼女の足を止めた。

 一方、会館の講義室。

 初回のテーマは「王妃と財務」。

 私は壇上に立ち、静かに口を開く。

「王妃とは、王の隣で国を支える者。支えるとは、感情で寄り添うだけではありません」

 室内は静まり返る。

「財務とは、国の血流。滞れば、国は衰弱します」

 私は黒板に数字を書き出す。

 税収、支出、軍事費、公共投資。

「王が決断を誤ったとき、隣に立つ者は止められるでしょうか」

 令嬢たちの目が揺れる。

「止められなければ、共に沈みます」

 重い言葉。

 だが、必要な現実。

 講義後、令嬢たちがざわめく。

「思っていたより厳しい」

「舞踏や礼法ではないのですね」

「数字の意味など、考えたこともなかった」

 その反応に、私は小さく頷く。

 ここは現実を学ぶ場。

 夕刻。

 市場では、教育機関の話題が広がっていた。

「初講義は財務だとよ」

「王妃が帳簿を読む時代か」

「公爵令嬢はやはり違う」

 噂は、自然と王宮へ向かう。

「王太子妃様は通われていないらしい」

「では、どうなる」

 比較は避けられない。

 王宮書斎。

 レオニードは報告を受けていた。

「教育機関の評判、上々」

「民衆も好意的です」

 彼は黙って聞く。

「……放っておけ」

 だが、その声にはわずかな苛立ちが混じる。

「殿下」

 ガレインが静かに言う。

「信用は積み重ねです。制度も、その一部」

「私は信用されていないと?」

「いまは、試されている段階です」

 沈黙。

 王太子という立場にありながら、試される。

 それが彼の心を刺す。

 夜。

 私は講義の記録を整理していた。

「参加者の理解度は?」

「概ね良好。ただ、外交史では苦戦が見られます」

「次回は事例中心に」

「承知いたしました」

 窓の外、王宮の灯りが見える。

 今日、あの席は空いていた。

 だが、空白は永遠ではない。

 選ぶのは向こう。

 通うも、通わぬも。

 私はただ、場を用意しただけ。

 鏡は置かれた。

 あとは、映るかどうか。

 夜風が会館の窓を揺らす。

 王都の均衡は、ゆっくりと整い始めている。

 だが、人の心の均衡は、まだ揺れている。

 王妃とは何か。

 その問いは、今日から現実になった。

 そして、その答えを出す者だけが、玉座の隣に立つ。
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