『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ

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第二十四話 焦りの影

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第二十四話 焦りの影

 防衛研究予算案が可決されてから、王宮内の空気は一時的に穏やかになった。

 軍部強硬派は「役割」を与えられ、声を荒らげる理由を失った。評議会は安定運営を維持し、港湾収益は予定通り推移している。

 ――だが、成果はすぐには出ない。

 防衛研究は数字として可視化されるまで時間がかかる。

 そして、待てぬ者は焦る。

 王宮、軍部会議室。

「研究に回した予算で、何が変わる」

「兵は増えぬ」

「武威は示せぬ」

 若い将校の声が上がる。

 代表格の老将が低く制する。

「成果を出せば、次がある」

「だが殿下は慎重すぎる」

 慎重。

 その言葉は、弱さと同義に扱われがちだ。

 一方、王宮書斎。

「北方契約、順調」

「税収回復率、上昇傾向」

 ガレインの報告に、レオニードは静かに頷く。

「軍部は?」

「研究に着手。ただし一部で不満が」

 彼は目を伏せる。

 決断力を示せば、均衡が崩れる。

 抑えれば、弱腰と囁かれる。

 誇りと理の間。

 その綱は細い。

 一方、教育機関。

 本日の講義は「象徴としての王」。

「王は常に正解を出す存在ではありません」

 私はゆっくりと言う。

「正解へ導く過程を示す存在です」

 教室が静まる。

「焦りは、強さに見えることがあります」

 ミレーヌの視線が揺れる。

「ですが、それは長く続きません」

 講義後。

「殿下は、焦っています」

 彼女が静かに言う。

「軍部の声が気になっている」

「当然です」

「どうすれば」

 私は少し考えた。

「成果を可視化させることです」

「研究の?」

「ええ」

 数字は安心を生む。

 夜。

 王宮の庭園。

「研究成果の中間報告を公表しては」

 ミレーヌがレオニードに提案する。

「まだ初期段階だ」

「それでも、進捗は示せます」

 彼は考える。

「焦りは、不安から生まれます」

 彼女は続ける。

「進んでいると分かれば、不安は減ります」

 レオニードはしばらく黙り、やがて頷いた。

「評議会で提案しよう」

 翌週。

 防衛研究の進捗報告が公表された。

 新型防具の試作、訓練効率の向上、兵站改善の数値。

 派手ではない。

 だが、具体的。

 軍部内のざわめきは、静まり始めた。

「確かに進んでいる」

「成果が出れば、増額も」

 焦りは、少し鎮まる。

 一方、私は報告を受け、静かに頷く。

「火種は小さくなりました」

「はい」

 クラウスが答える。

「王太子殿下も、落ち着いておられます」

 窓の外、王宮の灯りが揺れる。

 焦りは影のようなもの。

 消えたように見えても、形を変える。

 だが、いまは理が上にある。

 王は、選ばれる存在から、選ぶ存在へ。

 王妃は、支えられる存在から、支える存在へ。

 並び立つ影は、以前よりも安定している。

 それでも私は忘れない。

 均衡は、完成するものではない。

 維持するもの。

 焦りが消えれば、次は慢心が生まれる。

 王都は静かだ。

 だが、静けさの中にこそ、次の影は潜む。

 私は静かに呟く。

「さて、次は何が揺れますかしら」

 均衡の物語は、まだ続く。
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