『婚約破棄されたので玉座から降りました。――理で王国をざまあします

ふわふわ

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第二十七話 祝福の裏側

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第二十七話 祝福の裏側

 王太子妃冊立の布告が出た日、王都は祭りのような熱気に包まれた。

 市場では布地が飛ぶように売れ、仕立屋は夜遅くまで灯りをともす。菓子職人は特製の祝菓を作り、子どもたちは王宮の方向へ手を振る。

「おめでたいな」

「ようやく落ち着く」

「王家も盤石だ」

 祝福の声は、確かに本物だった。

 だが、歓声の裏側で、別の動きも始まっている。

 王宮内の一角。

「冊立が終われば、制度の役目は縮小するだろう」

 古参貴族の一人が低く言う。

「王太子妃が正式に立てば、教育機関の影響も薄れる」

「ヴァルテール公爵家の発言力もな」

 均衡が安定すると、次に目指されるのは権力の再分配。

 一方、教育機関。

 本日の講義は、予定を変更した。

「冊立後の立ち位置」

 私は黒板に書く。

「王妃になった瞬間、学びは終わると思いますか」

 教室は静まり返る。

 ミレーヌはゆっくりと首を振った。

「いいえ」

「なぜ」

「責任が増すからです」

 その声は、以前より迷いがない。

「王妃は完成形ではありません」

 私は頷く。

「常に未完成である自覚を持つこと。それが均衡を保つ」

 講義後。

「冊立後も、ここへ通います」

 ミレーヌが静かに言う。

「お忙しくなりますわ」

「それでも」

 彼女は微笑む。

「学びを止めれば、わたくしは止まります」

 その決意は、軽くはない。

 王宮。

 レオニードは冊立準備の報告を受けていた。

「儀式の規模は?」

「王国史上最大級に」

「……控えめでよい」

 侍従が目を丸くする。

「殿下?」

「誇示ではなく、安定を示す場だ」

 その言葉は、かつての彼からは想像できないものだった。

 夜。

 私は公爵邸の執務室で、冊立式の祝辞案を読んでいた。

「ご出席はなさいますか」

 クラウスが問う。

「もちろん」

 私は微笑む。

「外側から祝福する立場ですもの」

 胸の奥に、何も残っていないと言えば嘘になる。

 だが、それは未練ではない。

 かつての選択の記憶。

 私は理を選び、彼らは並び立つ道を選んだ。

 それだけのこと。

 翌日。

 王宮の回廊で、シリウス公爵が私に言った。

「冊立が終われば、君の影響は弱まる」

「そうかもしれませんわね」

「焦らぬのか」

「焦る理由がございません」

 私は静かに答える。

「均衡が保たれるなら、それで十分」

 彼は小さく笑った。

「本当に王妃向きだったな」

「向き不向きではなく、役割ですわ」

 冊立は祝福だ。

 だが、祝福の裏には必ず動きがある。

 王妃が正式に立てば、王家の力は強まる。

 そして制度は、試される。

 私は窓の外を見る。

 王宮の灯りが、以前よりも強く見える。

 だが、灯りは風に揺れるもの。

 冊立は終着ではない。

 次の均衡の始まり。

 私は静かに呟く。

「祝福の裏側こそ、本番ですわね」

 王都は華やぎ、王宮は準備に追われる。

 だが、その静かな奥で、権力の波は再び動き始めていた。
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