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第9話 軍師侯爵アークトゥルス
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第9話 軍師侯爵アークトゥルス
後宮の門を出ると、空気が違った。
それまで当たり前だった静けさが、
外の世界では存在しない。
人の声、馬のいななき、金属の音。
すべてが、生きている証のように響いてくる。
タニアは、輿の中からその音を聞きながら、
自分がもう後宮の姫ではないことを、
はっきりと実感していた。
向かう先は、
アークトゥルス侯爵の屋敷。
戦場で功績を挙げ、
軍師として皇帝に重用されている男。
――どんな人物なのか。
期待はしていない。
だが、警戒はしている。
下賜とは、
「与えられる」という行為だ。
それをどう受け取るかは、
相手次第。
輿が止まり、
扉が開かれる。
「タニア様、こちらへ」
出迎えは簡素だった。
過剰な礼も、
過度な好奇心もない。
それが、
逆に彼女を安心させた。
広い屋敷だが、
装飾は控えめ。
実用性が優先されている。
――戦場の人間の屋敷。
その印象は、
正しかった。
応接の間で待つよう告げられ、
しばらくして、
一人の男が入ってくる。
背は高く、
体つきは引き締まっているが、
威圧感はない。
鋭い目だが、
感情を読み取りにくい。
彼が、
アークトゥルス侯爵だった。
「タニアだな」
声は低く、
簡潔だった。
「はい」
彼女は、
跪きはしない。
それが許される立場だと、
事前に聞いていた。
アークは、
彼女をじっと見つめる。
品定め、というより――
確認。
「下賜について、
不満はあるか」
いきなりの質問だった。
タニアは、
一瞬も迷わなかった。
「ございません」
それは、
嘘ではない。
「理由は?」
「後宮に残るより、
選択肢が多いと判断しました」
率直すぎる答えに、
一瞬、沈黙が落ちる。
普通なら、
もっと飾る言い方をするだろう。
名誉だとか、
光栄だとか。
だがタニアは、
そうしなかった。
アークは、
わずかに口元を緩めた。
笑みとも、
皮肉とも取れない。
「正直だな」
「正直でなければ、
無意味だと思いました」
彼女は、視線を逸らさない。
好かれようとはしない。
だが、誤解もされたくない。
アークは、
しばらく彼女を見つめてから、
静かに言った。
「君がどういう立場で来たかは、
理解している」
その一言で、
タニアは察した。
――この男は、
下賜を“手柄の証”とは
思っていない。
「期待はするな。
だが、
無理もしろとは言わない」
それは、
曖昧な約束ではない。
現実的な条件提示だ。
「分かりました」
タニアは、
短く答えた。
この男は、
感情で人を扱わない。
だからこそ、
話が早い。
「しばらく屋敷に慣れろ。
数日後、
私は戦場へ向かう」
戦場。
その言葉に、
胸がざわつく。
だがタニアは、
それを表に出さない。
「承知しました」
アークは、
彼女の反応を見逃さなかった。
だが、
何も言わない。
「君は、
計算できる女だと聞いている」
その評価に、
タニアは内心で、
少しだけ息を吐いた。
――話は通じる。
それだけで、
十分だった。
後宮を出たばかりの彼女は、
まだ何も持っていない。
だが、
最悪の相手ではない。
タニアは、
そう結論づけた。
この場所で、
生き残れるかどうか。
その答えは、
これから自分が
どう振る舞うかにかかっている。
彼女は、
静かに覚悟を固めていた。
ここは、
新しい戦場だ。
後宮の門を出ると、空気が違った。
それまで当たり前だった静けさが、
外の世界では存在しない。
人の声、馬のいななき、金属の音。
すべてが、生きている証のように響いてくる。
タニアは、輿の中からその音を聞きながら、
自分がもう後宮の姫ではないことを、
はっきりと実感していた。
向かう先は、
アークトゥルス侯爵の屋敷。
戦場で功績を挙げ、
軍師として皇帝に重用されている男。
――どんな人物なのか。
期待はしていない。
だが、警戒はしている。
下賜とは、
「与えられる」という行為だ。
それをどう受け取るかは、
相手次第。
輿が止まり、
扉が開かれる。
「タニア様、こちらへ」
出迎えは簡素だった。
過剰な礼も、
過度な好奇心もない。
それが、
逆に彼女を安心させた。
広い屋敷だが、
装飾は控えめ。
実用性が優先されている。
――戦場の人間の屋敷。
その印象は、
正しかった。
応接の間で待つよう告げられ、
しばらくして、
一人の男が入ってくる。
背は高く、
体つきは引き締まっているが、
威圧感はない。
鋭い目だが、
感情を読み取りにくい。
彼が、
アークトゥルス侯爵だった。
「タニアだな」
声は低く、
簡潔だった。
「はい」
彼女は、
跪きはしない。
それが許される立場だと、
事前に聞いていた。
アークは、
彼女をじっと見つめる。
品定め、というより――
確認。
「下賜について、
不満はあるか」
いきなりの質問だった。
タニアは、
一瞬も迷わなかった。
「ございません」
それは、
嘘ではない。
「理由は?」
「後宮に残るより、
選択肢が多いと判断しました」
率直すぎる答えに、
一瞬、沈黙が落ちる。
普通なら、
もっと飾る言い方をするだろう。
名誉だとか、
光栄だとか。
だがタニアは、
そうしなかった。
アークは、
わずかに口元を緩めた。
笑みとも、
皮肉とも取れない。
「正直だな」
「正直でなければ、
無意味だと思いました」
彼女は、視線を逸らさない。
好かれようとはしない。
だが、誤解もされたくない。
アークは、
しばらく彼女を見つめてから、
静かに言った。
「君がどういう立場で来たかは、
理解している」
その一言で、
タニアは察した。
――この男は、
下賜を“手柄の証”とは
思っていない。
「期待はするな。
だが、
無理もしろとは言わない」
それは、
曖昧な約束ではない。
現実的な条件提示だ。
「分かりました」
タニアは、
短く答えた。
この男は、
感情で人を扱わない。
だからこそ、
話が早い。
「しばらく屋敷に慣れろ。
数日後、
私は戦場へ向かう」
戦場。
その言葉に、
胸がざわつく。
だがタニアは、
それを表に出さない。
「承知しました」
アークは、
彼女の反応を見逃さなかった。
だが、
何も言わない。
「君は、
計算できる女だと聞いている」
その評価に、
タニアは内心で、
少しだけ息を吐いた。
――話は通じる。
それだけで、
十分だった。
後宮を出たばかりの彼女は、
まだ何も持っていない。
だが、
最悪の相手ではない。
タニアは、
そう結論づけた。
この場所で、
生き残れるかどうか。
その答えは、
これから自分が
どう振る舞うかにかかっている。
彼女は、
静かに覚悟を固めていた。
ここは、
新しい戦場だ。
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