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第10話 出陣前の条件
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第10話 出陣前の条件
アークトゥルス侯爵が屋敷に滞在する時間は、長くはなかった。
到着してから数日。
その間に、軍議の書類が運び込まれ、
使者が頻繁に出入りするようになる。
戦場が、近い。
タニアは、その空気を敏感に察していた。
後宮とは違う緊張感。
命のやり取りを前提とした、現実の匂い。
ある朝、彼女は執務室に呼ばれた。
「座っていい」
簡潔な言葉に従い、
タニアは向かいの椅子に腰を下ろす。
机の上には、
整然と並べられた書類。
その端に、彼女が見慣れない封筒が一つあった。
「数日後、出陣する」
予想していた言葉だった。
それでも、胸の奥がわずかに揺れる。
「留守中のことだが――」
アークは、封筒に手を置く。
「屋敷は、君に任せる」
その一言は、
想像以上に重かった。
代理、ではない。
補佐、でもない。
任せる、という言い方だった。
「私で、よろしいのですか」
確認するように問うと、
アークは頷いた。
「判断を誤らない。
感情で動かない。
少なくとも、
それだけは期待できる」
それは、
信頼というより、
評価だった。
タニアは、
自分が試されていることを理解する。
「条件がある」
続く言葉に、
彼女は背筋を伸ばした。
「越権はするな。
最終的な処断は、私が戻ってからだ」
「承知しました」
「だが、
記録と証拠は集めておけ」
その言葉に、
タニアの中で、
歯車が噛み合う音がした。
――この人は、
すべて分かっている。
屋敷には、
問題がある。
それを、
彼女に丸投げするつもりはない。
だが、
見逃す気もない。
「私は、
守るために戦場へ行く」
唐突な言葉だった。
タニアは、
一瞬、言葉に詰まる。
「この国も、
この屋敷も、
ここにいる者たちもだ」
それは、
感情的な宣言ではない。
事実の確認に近かった。
「だから、
私が不在の間、
屋敷を壊すな」
タニアは、
その真意を理解する。
――無事に戻る前提で、
話している。
それが、
何よりも現実的で、
同時に残酷だった。
「アーク様」
彼女は、
一呼吸置いてから言った。
「万が一のことがあれば、
私は路頭に迷います」
言葉は、
あまりに正直だった。
美しい見送りの言葉ではない。
祈りでもない。
ただの、
利害関係の提示だ。
一瞬、
室内の空気が止まる。
だがアークは、
眉一つ動かさなかった。
「……そうだな」
それだけだった。
不快に思った様子はない。
怒りも、呆れもない。
むしろ、
納得しているようだった。
「だから、
生きて戻る」
淡々とした言葉に、
タニアは頷く。
「お待ちしております」
それは、
感情ではなく、
条件に基づいた言葉だった。
アークは、
彼女をじっと見つめる。
「君は、
依存しない」
それは、
確認に近い。
「はい。
利用できるものは、
正しく利用します」
その返答に、
彼はわずかに息を吐いた。
「それでいい」
そう言って、
彼は立ち上がる。
出陣まで、
もう時間はない。
タニアは、
背中を見送りながら、
静かに覚悟を固めた。
この屋敷は、
しばらく彼女の戦場になる。
そして彼女は、
その戦い方を、
すでに理解していた。
感情で動かず、
結果を積み上げる。
それが、
生き残るための、
唯一の方法だと。
アークが去った後、
屋敷には、
新しい静けさが訪れた。
だがそれは、
安らぎではない。
――試される時間の、始まりだった。
アークトゥルス侯爵が屋敷に滞在する時間は、長くはなかった。
到着してから数日。
その間に、軍議の書類が運び込まれ、
使者が頻繁に出入りするようになる。
戦場が、近い。
タニアは、その空気を敏感に察していた。
後宮とは違う緊張感。
命のやり取りを前提とした、現実の匂い。
ある朝、彼女は執務室に呼ばれた。
「座っていい」
簡潔な言葉に従い、
タニアは向かいの椅子に腰を下ろす。
机の上には、
整然と並べられた書類。
その端に、彼女が見慣れない封筒が一つあった。
「数日後、出陣する」
予想していた言葉だった。
それでも、胸の奥がわずかに揺れる。
「留守中のことだが――」
アークは、封筒に手を置く。
「屋敷は、君に任せる」
その一言は、
想像以上に重かった。
代理、ではない。
補佐、でもない。
任せる、という言い方だった。
「私で、よろしいのですか」
確認するように問うと、
アークは頷いた。
「判断を誤らない。
感情で動かない。
少なくとも、
それだけは期待できる」
それは、
信頼というより、
評価だった。
タニアは、
自分が試されていることを理解する。
「条件がある」
続く言葉に、
彼女は背筋を伸ばした。
「越権はするな。
最終的な処断は、私が戻ってからだ」
「承知しました」
「だが、
記録と証拠は集めておけ」
その言葉に、
タニアの中で、
歯車が噛み合う音がした。
――この人は、
すべて分かっている。
屋敷には、
問題がある。
それを、
彼女に丸投げするつもりはない。
だが、
見逃す気もない。
「私は、
守るために戦場へ行く」
唐突な言葉だった。
タニアは、
一瞬、言葉に詰まる。
「この国も、
この屋敷も、
ここにいる者たちもだ」
それは、
感情的な宣言ではない。
事実の確認に近かった。
「だから、
私が不在の間、
屋敷を壊すな」
タニアは、
その真意を理解する。
――無事に戻る前提で、
話している。
それが、
何よりも現実的で、
同時に残酷だった。
「アーク様」
彼女は、
一呼吸置いてから言った。
「万が一のことがあれば、
私は路頭に迷います」
言葉は、
あまりに正直だった。
美しい見送りの言葉ではない。
祈りでもない。
ただの、
利害関係の提示だ。
一瞬、
室内の空気が止まる。
だがアークは、
眉一つ動かさなかった。
「……そうだな」
それだけだった。
不快に思った様子はない。
怒りも、呆れもない。
むしろ、
納得しているようだった。
「だから、
生きて戻る」
淡々とした言葉に、
タニアは頷く。
「お待ちしております」
それは、
感情ではなく、
条件に基づいた言葉だった。
アークは、
彼女をじっと見つめる。
「君は、
依存しない」
それは、
確認に近い。
「はい。
利用できるものは、
正しく利用します」
その返答に、
彼はわずかに息を吐いた。
「それでいい」
そう言って、
彼は立ち上がる。
出陣まで、
もう時間はない。
タニアは、
背中を見送りながら、
静かに覚悟を固めた。
この屋敷は、
しばらく彼女の戦場になる。
そして彼女は、
その戦い方を、
すでに理解していた。
感情で動かず、
結果を積み上げる。
それが、
生き残るための、
唯一の方法だと。
アークが去った後、
屋敷には、
新しい静けさが訪れた。
だがそれは、
安らぎではない。
――試される時間の、始まりだった。
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*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
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