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第28話 報せの重さ
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第28話 報せの重さ
辺境からの最初の報せは、
思ったよりも早く届いた。
「……子爵領より、書簡です」
差し出された封筒は、
分厚くもなく、
華美でもない。
だが、
重い。
タニアは、
執務室でそれを受け取り、
一人になってから開いた。
内容は、
形式的な挨拶に始まり、
簡潔な近況報告で終わっている。
――下賜、確かに受け取った。
――領内は平穏。
――問題はない。
差出人は、
カウス・アウストラリス子爵。
文面は粗いが、
虚飾はない。
「……問題はない、か」
タニアは、
小さく息を吐いた。
“問題がない”という言葉ほど、
あてにならないものはない。
特に、
下賜された直後の女に関しては。
午後、
アークに書簡を渡す。
彼は、
ざっと目を通し、
短く言った。
「想定通りだな」
「はい」
「誇示も、
不満もない」
「中央向けの文面です」
二人の認識は、
一致している。
これは、
“報告”ではない。
線引きだ。
――干渉するな。
――問題が起きたら、
こちらで処理する。
そういう意思表示。
「ハマルは、
どうしていると思う」
不意に、
アークが問う。
タニアは、
少し考えてから答えた。
「最初は、
絶望しているでしょう」
「その後は?」
「観察を始めます」
後宮で生きた女は、
そうする。
泣くのは、
最初だけ。
「適応できるか」
「……出来るかどうかで言えば、
出来ます」
「だが?」
「削られます」
誇りも、
選ぶ権利も、
中央で身につけた価値観も。
すべて。
「それでも?」
「それでも、
生きるでしょう」
それが、
後宮の女だ。
夜、
タニアは一人、
書斎で考える。
もし、
ハマルが壊れたら。
もし、
辺境で問題を起こしたら。
その責任は、
誰が負うのか。
答えは、
分かっている。
――中央だ。
だが中央は、
責任を取らない。
責任は、
現場に落ちる。
つまり、
辺境に。
「……だから、
切った」
中央は、
自分たちを守るために、
ハマルを切った。
自分が、
かつて切られたように。
タニアは、
その構図を
痛いほど理解している。
だからこそ、
感情で動かない。
翌日、
別の報告が入る。
「辺境より、
追加の情報です」
今度は、
商人筋から。
「ハマル様は、
まだ公の場に
姿を見せていないようです」
「当然でしょう」
「ただ……
子爵は、
周囲に隠していないとか」
何を、
と問うまでもない。
「下賜された姫を、
“戦利品”として
扱っている」
タニアは、
目を伏せた。
それは、
中央の価値観では
下劣だとされる。
だが――
辺境では、
珍しくもない。
「彼女は、
どうしますか」
報告者の問いに、
タニアは答えなかった。
答える必要が、
ないからだ。
ハマルは、
選ばれる側ではない。
選ばれ、
置かれ、
適応する側だ。
それが、
下賜の現実。
夜、
タニアは
窓の外を見る。
遠い空。
辺境は、
見えない。
だが、
確実に繋がっている。
自分が、
あの場所へ行かなかった理由。
それが、
今日、
よりはっきりした。
婆になる前に、
行き先を選んだ。
今は――
他人の行き先が、
その選択の正しさを
静かに証明している。
タニアは、
書簡を閉じた。
同情は、
しない。
救済も、
しない。
だが――
忘れない。
後宮が、
どんな場所か。
下賜が、
何を意味するか。
それを忘れた瞬間、
自分もまた、
切られる側に戻るのだから。
彼女は、
静かに灯りを落とした。
辺境からの報せは、
これで終わりではない。
そして――
この物語も、
まだ先がある。
辺境からの最初の報せは、
思ったよりも早く届いた。
「……子爵領より、書簡です」
差し出された封筒は、
分厚くもなく、
華美でもない。
だが、
重い。
タニアは、
執務室でそれを受け取り、
一人になってから開いた。
内容は、
形式的な挨拶に始まり、
簡潔な近況報告で終わっている。
――下賜、確かに受け取った。
――領内は平穏。
――問題はない。
差出人は、
カウス・アウストラリス子爵。
文面は粗いが、
虚飾はない。
「……問題はない、か」
タニアは、
小さく息を吐いた。
“問題がない”という言葉ほど、
あてにならないものはない。
特に、
下賜された直後の女に関しては。
午後、
アークに書簡を渡す。
彼は、
ざっと目を通し、
短く言った。
「想定通りだな」
「はい」
「誇示も、
不満もない」
「中央向けの文面です」
二人の認識は、
一致している。
これは、
“報告”ではない。
線引きだ。
――干渉するな。
――問題が起きたら、
こちらで処理する。
そういう意思表示。
「ハマルは、
どうしていると思う」
不意に、
アークが問う。
タニアは、
少し考えてから答えた。
「最初は、
絶望しているでしょう」
「その後は?」
「観察を始めます」
後宮で生きた女は、
そうする。
泣くのは、
最初だけ。
「適応できるか」
「……出来るかどうかで言えば、
出来ます」
「だが?」
「削られます」
誇りも、
選ぶ権利も、
中央で身につけた価値観も。
すべて。
「それでも?」
「それでも、
生きるでしょう」
それが、
後宮の女だ。
夜、
タニアは一人、
書斎で考える。
もし、
ハマルが壊れたら。
もし、
辺境で問題を起こしたら。
その責任は、
誰が負うのか。
答えは、
分かっている。
――中央だ。
だが中央は、
責任を取らない。
責任は、
現場に落ちる。
つまり、
辺境に。
「……だから、
切った」
中央は、
自分たちを守るために、
ハマルを切った。
自分が、
かつて切られたように。
タニアは、
その構図を
痛いほど理解している。
だからこそ、
感情で動かない。
翌日、
別の報告が入る。
「辺境より、
追加の情報です」
今度は、
商人筋から。
「ハマル様は、
まだ公の場に
姿を見せていないようです」
「当然でしょう」
「ただ……
子爵は、
周囲に隠していないとか」
何を、
と問うまでもない。
「下賜された姫を、
“戦利品”として
扱っている」
タニアは、
目を伏せた。
それは、
中央の価値観では
下劣だとされる。
だが――
辺境では、
珍しくもない。
「彼女は、
どうしますか」
報告者の問いに、
タニアは答えなかった。
答える必要が、
ないからだ。
ハマルは、
選ばれる側ではない。
選ばれ、
置かれ、
適応する側だ。
それが、
下賜の現実。
夜、
タニアは
窓の外を見る。
遠い空。
辺境は、
見えない。
だが、
確実に繋がっている。
自分が、
あの場所へ行かなかった理由。
それが、
今日、
よりはっきりした。
婆になる前に、
行き先を選んだ。
今は――
他人の行き先が、
その選択の正しさを
静かに証明している。
タニアは、
書簡を閉じた。
同情は、
しない。
救済も、
しない。
だが――
忘れない。
後宮が、
どんな場所か。
下賜が、
何を意味するか。
それを忘れた瞬間、
自分もまた、
切られる側に戻るのだから。
彼女は、
静かに灯りを落とした。
辺境からの報せは、
これで終わりではない。
そして――
この物語も、
まだ先がある。
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