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第34話 帰還の足音
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第34話 帰還の足音
戦場からの報せは、
いつも突然だ。
「……侯爵様が、
まもなくお戻りになります」
老執事の声は、
いつもより硬かった。
それは、
緊張ではない。
覚悟だ。
屋敷に、
主が戻る。
それは、
単なる再会ではない。
これまでの采配、
判断、
処断――
すべてが、
評価される時でもある。
「そう……」
タニアは、
それだけ答えた。
胸が高鳴ることはない。
不安も、
ない。
彼女は、
やるべきことを
すべてやった。
それ以上でも、
それ以下でもない。
その日から、
屋敷の空気が
微妙に変わった。
使用人たちは、
そわそわと落ち着かない。
「奥様が、
どう評価されるのか……」
「もし、
侯爵様が
不満を持たれたら……」
そんな囁きが、
隠されることなく
聞こえてくる。
タニアは、
止めない。
噂は、
抑えるより
流した方がいい。
流れの中で、
本音が見える。
翌日、
屋敷の門が
大きく開いた。
甲冑を脱いだ
アーク・アークトゥルス侯爵が、
静かに馬から降りる。
戦場帰りだというのに、
疲労を感じさせない。
ただ、
目だけが
少し鋭くなっている。
「留守、
問題はなかったか」
「大事には、
至りませんでした」
タニアは、
そう答えた。
余計な説明は、
しない。
それは、
夜に行う。
使用人たちが
見守る中、
アークは
一人一人を
ざっと見回した。
秩序。
緊張。
無駄な動きのなさ。
彼は、
すぐに理解する。
――屋敷は、
きちんと回っている。
夜、
執務室。
二人きりで、
向かい合う。
タニアは、
用意していた書類を
静かに差し出した。
「留守中の報告です」
アークは、
黙って目を通す。
不正の件。
処断の理由。
改善された手順。
どれも、
簡潔で、
感情がない。
「……切ったな」
「はい」
「躊躇は?」
「ありません」
それは、
嘘ではない。
アークは、
しばらく黙り、
書類を閉じた。
「正しい判断だ」
その一言で、
部屋の空気が
変わった。
「屋敷は、
よく保たれている」
「使用人たちも、
よく動いている」
「……俺が
いなくてもな」
それは、
皮肉ではない。
確認だ。
タニアは、
視線を逸らさず答える。
「侯爵様が
お戻りになるまで、
崩さないよう
務めただけです」
「それだけか?」
「それ以上を
求められていませんでしたから」
アークは、
小さく笑った。
「……相変わらず、
計算高い」
「生き残るためです」
「正直だな」
「隠す理由が
ありませんので」
しばしの沈黙。
そして、
アークは言った。
「これからも、
留守は任せる」
それは、
命令ではない。
宣言だった。
タニアは、
一礼する。
「承知しました」
その夜、
使用人たちに
知らせが回る。
――侯爵は、
奥様の采配を
全面的に認めた。
ざわめきは、
すぐに収まった。
驚きは、
納得に変わる。
彼らは、
すでに知っていたからだ。
誰が、
屋敷を支えていたのかを。
タニアは、
自室で静かに
灯りを落とす。
帰還は、
終わりではない。
始まりだ。
彼女は、
選ばれた女ではない。
役に立つ女として、
この場所に
立っている。
そして――
それが一番、
強い。
戦場からの報せは、
いつも突然だ。
「……侯爵様が、
まもなくお戻りになります」
老執事の声は、
いつもより硬かった。
それは、
緊張ではない。
覚悟だ。
屋敷に、
主が戻る。
それは、
単なる再会ではない。
これまでの采配、
判断、
処断――
すべてが、
評価される時でもある。
「そう……」
タニアは、
それだけ答えた。
胸が高鳴ることはない。
不安も、
ない。
彼女は、
やるべきことを
すべてやった。
それ以上でも、
それ以下でもない。
その日から、
屋敷の空気が
微妙に変わった。
使用人たちは、
そわそわと落ち着かない。
「奥様が、
どう評価されるのか……」
「もし、
侯爵様が
不満を持たれたら……」
そんな囁きが、
隠されることなく
聞こえてくる。
タニアは、
止めない。
噂は、
抑えるより
流した方がいい。
流れの中で、
本音が見える。
翌日、
屋敷の門が
大きく開いた。
甲冑を脱いだ
アーク・アークトゥルス侯爵が、
静かに馬から降りる。
戦場帰りだというのに、
疲労を感じさせない。
ただ、
目だけが
少し鋭くなっている。
「留守、
問題はなかったか」
「大事には、
至りませんでした」
タニアは、
そう答えた。
余計な説明は、
しない。
それは、
夜に行う。
使用人たちが
見守る中、
アークは
一人一人を
ざっと見回した。
秩序。
緊張。
無駄な動きのなさ。
彼は、
すぐに理解する。
――屋敷は、
きちんと回っている。
夜、
執務室。
二人きりで、
向かい合う。
タニアは、
用意していた書類を
静かに差し出した。
「留守中の報告です」
アークは、
黙って目を通す。
不正の件。
処断の理由。
改善された手順。
どれも、
簡潔で、
感情がない。
「……切ったな」
「はい」
「躊躇は?」
「ありません」
それは、
嘘ではない。
アークは、
しばらく黙り、
書類を閉じた。
「正しい判断だ」
その一言で、
部屋の空気が
変わった。
「屋敷は、
よく保たれている」
「使用人たちも、
よく動いている」
「……俺が
いなくてもな」
それは、
皮肉ではない。
確認だ。
タニアは、
視線を逸らさず答える。
「侯爵様が
お戻りになるまで、
崩さないよう
務めただけです」
「それだけか?」
「それ以上を
求められていませんでしたから」
アークは、
小さく笑った。
「……相変わらず、
計算高い」
「生き残るためです」
「正直だな」
「隠す理由が
ありませんので」
しばしの沈黙。
そして、
アークは言った。
「これからも、
留守は任せる」
それは、
命令ではない。
宣言だった。
タニアは、
一礼する。
「承知しました」
その夜、
使用人たちに
知らせが回る。
――侯爵は、
奥様の采配を
全面的に認めた。
ざわめきは、
すぐに収まった。
驚きは、
納得に変わる。
彼らは、
すでに知っていたからだ。
誰が、
屋敷を支えていたのかを。
タニアは、
自室で静かに
灯りを落とす。
帰還は、
終わりではない。
始まりだ。
彼女は、
選ばれた女ではない。
役に立つ女として、
この場所に
立っている。
そして――
それが一番、
強い。
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