39 / 39
第40話 婆になる前に、嫁に行きました
しおりを挟む
第40話 婆になる前に、嫁に行きました
朝の光は、
いつもと変わらず
屋敷の回廊を照らしていた。
だが、
タニアにとっては
少しだけ違って見える。
「……これで、
一区切りですね」
老執事の言葉に、
タニアは頷いた。
辺境からの報告は、
これ以上続かなかった。
ハマルは、
生きている。
壊れず、
消えず、
辺境の地で
“選ばれなかった女”として
生き始めた。
それで、
終わりだ。
後宮も、
中央も、
それ以上を
望まない。
静かな結末。
それが、
この世界における
最大の慈悲だった。
「……お前は、
満足か?」
執務室で、
アークが問う。
その問いは、
感情ではなく
確認だ。
タニアは、
少しだけ考えてから
答える。
「満足、
という言葉は
使いません」
「では?」
「想定通りです」
それ以上でも、
以下でもない。
後宮で生き残る女は、
“理想”ではなく
“結果”で
物事を測る。
「お前は、
後悔しているか?」
「何を、
でしょう」
「下賜を
受け入れたことを」
タニアは、
即答した。
「いいえ」
後悔する理由が、
どこにもない。
後宮に残っていれば、
年を取り、
やがて
静かに捨てられた。
下賜を拒めば、
別の形で
切られただろう。
ならば――
選べるうちに
選ぶ。
それだけだ。
「私は、
婆になる前に
嫁に行きました」
その言葉は、
自嘲でも
冗談でもない。
事実の確認だ。
アークは、
しばらく黙り、
やがて言った。
「……賢い選択だ」
「ありがとうございます」
褒め言葉として
受け取らない。
評価として
受け取る。
それが、
二人の距離感だった。
午後、
屋敷の庭を
ゆっくりと歩く。
使用人たちは、
もう彼女を
“下賜された姫”とは
見ていない。
侯爵夫人。
屋敷を回す女。
判断を下す人。
それが、
彼女の立場だ。
そして、
それでいい。
夜。
灯りを落とす前に、
タニアは
ふと思う。
もし、
この世界が
もう少し
優しかったら。
もし、
女が
選ばれる側ではなく、
選ぶ側で
いられたら。
そんな仮定に、
意味はない。
ここは、
そういう世界ではない。
だからこそ、
彼女は
考え、
選び、
動いた。
誰かに
救われるためではない。
生き残るために。
「……これで、
よし」
タニアは、
静かに呟き、
灯りを消した。
後宮で始まった物語は、
後宮で終わらない。
下賜という名の
切り捨てを、
彼女は
“戦略”に変えた。
それが、
彼女の答えだ。
――婆になる前に、
嫁に行きました。
それは、
敗北ではない。
この世界で
女が生きるための、
最適解だった。
物語は、
ここで終わる。
だが、
彼女の人生は――
ようやく、
安定した軌道に
乗ったばかりだった。
朝の光は、
いつもと変わらず
屋敷の回廊を照らしていた。
だが、
タニアにとっては
少しだけ違って見える。
「……これで、
一区切りですね」
老執事の言葉に、
タニアは頷いた。
辺境からの報告は、
これ以上続かなかった。
ハマルは、
生きている。
壊れず、
消えず、
辺境の地で
“選ばれなかった女”として
生き始めた。
それで、
終わりだ。
後宮も、
中央も、
それ以上を
望まない。
静かな結末。
それが、
この世界における
最大の慈悲だった。
「……お前は、
満足か?」
執務室で、
アークが問う。
その問いは、
感情ではなく
確認だ。
タニアは、
少しだけ考えてから
答える。
「満足、
という言葉は
使いません」
「では?」
「想定通りです」
それ以上でも、
以下でもない。
後宮で生き残る女は、
“理想”ではなく
“結果”で
物事を測る。
「お前は、
後悔しているか?」
「何を、
でしょう」
「下賜を
受け入れたことを」
タニアは、
即答した。
「いいえ」
後悔する理由が、
どこにもない。
後宮に残っていれば、
年を取り、
やがて
静かに捨てられた。
下賜を拒めば、
別の形で
切られただろう。
ならば――
選べるうちに
選ぶ。
それだけだ。
「私は、
婆になる前に
嫁に行きました」
その言葉は、
自嘲でも
冗談でもない。
事実の確認だ。
アークは、
しばらく黙り、
やがて言った。
「……賢い選択だ」
「ありがとうございます」
褒め言葉として
受け取らない。
評価として
受け取る。
それが、
二人の距離感だった。
午後、
屋敷の庭を
ゆっくりと歩く。
使用人たちは、
もう彼女を
“下賜された姫”とは
見ていない。
侯爵夫人。
屋敷を回す女。
判断を下す人。
それが、
彼女の立場だ。
そして、
それでいい。
夜。
灯りを落とす前に、
タニアは
ふと思う。
もし、
この世界が
もう少し
優しかったら。
もし、
女が
選ばれる側ではなく、
選ぶ側で
いられたら。
そんな仮定に、
意味はない。
ここは、
そういう世界ではない。
だからこそ、
彼女は
考え、
選び、
動いた。
誰かに
救われるためではない。
生き残るために。
「……これで、
よし」
タニアは、
静かに呟き、
灯りを消した。
後宮で始まった物語は、
後宮で終わらない。
下賜という名の
切り捨てを、
彼女は
“戦略”に変えた。
それが、
彼女の答えだ。
――婆になる前に、
嫁に行きました。
それは、
敗北ではない。
この世界で
女が生きるための、
最適解だった。
物語は、
ここで終わる。
だが、
彼女の人生は――
ようやく、
安定した軌道に
乗ったばかりだった。
20
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです
ほーみ
恋愛
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
「お前とは結婚できない」って言ったのはそっちでしょ?なのに今さら嫉妬しないで
ほーみ
恋愛
王都ベルセリオ、冬の終わり。
辺境領主の娘であるリリアーナ・クロフォードは、煌びやかな社交界の片隅で、ひとり静かにグラスを傾けていた。
この社交界に参加するのは久しぶり。3年前に婚約破棄された時、彼女は王都から姿を消したのだ。今日こうして戻ってきたのは、王女の誕生祝賀パーティに招かれたからに過ぎない。
「リリアーナ……本当に、君なのか」
――来た。
その声を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく凍るようだった。
振り向けば、金髪碧眼の男――エリオット・レインハルト。かつての婚約者であり、王家の血を引く名家レインハルト公爵家の嫡男。
「……お久しぶりですね、エリオット様」
私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします
ほーみ
恋愛
その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。
そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。
冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。
誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。
それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。
だが、彼の言葉は、決定的だった。
「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる