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第39話 選ばれなかった女の選択
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第39話 選ばれなかった女の選択
辺境からの報せは、
一通だけでは終わらなかった。
「……子爵領より、
再度の報告です」
老執事の声は、
昨日よりも慎重だった。
タニアは、
机から顔を上げる。
「続けて」
「ハマル様が、
子爵に
ある申し出をしたそうです」
「申し出?」
「“後宮へ戻してほしい”と」
その言葉に、
空気が止まった。
後宮へ戻る。
それは、
彼女がまだ
皇帝に選ばれていると
信じている証だった。
「……子爵は?」
「困惑しつつも、
中央へ問い合わせると
答えたようです」
タニアは、
静かに息を吐いた。
それは、
最後の賭けだ。
後宮育ちの女が、
自分の存在価値を
証明できる
唯一の道。
だが――
答えは、
最初から決まっている。
「中央は、
応じません」
アークが、
低く言った。
「ええ」
タニアも、
頷く。
後宮は、
“戻る場所”ではない。
一度出た女は、
不要と判断された女だ。
戻せば、
人選の誤りを
認めることになる。
中央は、
それを最も嫌う。
数日後、
返答が届く。
簡潔な文面。
――下賜は有効。
――後宮への復帰は認められない。
――子爵の裁量に委ねる。
それが、
すべてだった。
「……終わりましたね」
タニアは、
静かに言う。
「選択肢が、
なくなった」
「いいや」
アークは、
否定した。
「選択肢は、
最初から一つしかない」
「生き残るか、
壊れるか」
「そうだ」
夜、
辺境から
最後の報告が届く。
「ハマル様は、
子爵に
謝罪をしたそうです」
タニアは、
目を伏せた。
それは、
後宮の姫にとって
最も難しい行為だ。
「……そして」
老執事は、
続ける。
「皇帝の名を、
口にしなかった、と」
それは――
諦めだ。
同時に、
現実を受け入れた証でもある。
「子爵は?」
「戸惑いながらも、
“ここで生きるなら、
ここでのやり方を
覚えろ”と」
粗野だが、
偽りはない。
辺境の論理だ。
タニアは、
ゆっくりと立ち上がり、
窓辺へ向かう。
もし――
自分が
あの立場だったら。
同じ選択を
出来ただろうか。
答えは、
分からない。
だが、
一つだけ確かなことがある。
ハマルは、
ようやく
選ばれなかった女として
生きる道を
自分で選んだ。
それが、
遅すぎたとしても。
アークが、
静かに言う。
「救われた、
と言えるか?」
タニアは、
少し考え、
答えた。
「……生きている限り、
救済は
後からついてきます」
「それは、
希望か?」
「現実です」
後宮では、
救いは
上から降ってこない。
掴むものだ。
そして――
掴めなかった者は、
消える。
ハマルは、
消えなかった。
それだけで、
十分だ。
タニアは、
灯りを落とす。
この物語は、
終わりに近づいている。
選ばれた女の物語ではない。
選ばれなかった女たちが、
それでも生きる話だ。
次で――
すべてが、
静かに決着する。
辺境からの報せは、
一通だけでは終わらなかった。
「……子爵領より、
再度の報告です」
老執事の声は、
昨日よりも慎重だった。
タニアは、
机から顔を上げる。
「続けて」
「ハマル様が、
子爵に
ある申し出をしたそうです」
「申し出?」
「“後宮へ戻してほしい”と」
その言葉に、
空気が止まった。
後宮へ戻る。
それは、
彼女がまだ
皇帝に選ばれていると
信じている証だった。
「……子爵は?」
「困惑しつつも、
中央へ問い合わせると
答えたようです」
タニアは、
静かに息を吐いた。
それは、
最後の賭けだ。
後宮育ちの女が、
自分の存在価値を
証明できる
唯一の道。
だが――
答えは、
最初から決まっている。
「中央は、
応じません」
アークが、
低く言った。
「ええ」
タニアも、
頷く。
後宮は、
“戻る場所”ではない。
一度出た女は、
不要と判断された女だ。
戻せば、
人選の誤りを
認めることになる。
中央は、
それを最も嫌う。
数日後、
返答が届く。
簡潔な文面。
――下賜は有効。
――後宮への復帰は認められない。
――子爵の裁量に委ねる。
それが、
すべてだった。
「……終わりましたね」
タニアは、
静かに言う。
「選択肢が、
なくなった」
「いいや」
アークは、
否定した。
「選択肢は、
最初から一つしかない」
「生き残るか、
壊れるか」
「そうだ」
夜、
辺境から
最後の報告が届く。
「ハマル様は、
子爵に
謝罪をしたそうです」
タニアは、
目を伏せた。
それは、
後宮の姫にとって
最も難しい行為だ。
「……そして」
老執事は、
続ける。
「皇帝の名を、
口にしなかった、と」
それは――
諦めだ。
同時に、
現実を受け入れた証でもある。
「子爵は?」
「戸惑いながらも、
“ここで生きるなら、
ここでのやり方を
覚えろ”と」
粗野だが、
偽りはない。
辺境の論理だ。
タニアは、
ゆっくりと立ち上がり、
窓辺へ向かう。
もし――
自分が
あの立場だったら。
同じ選択を
出来ただろうか。
答えは、
分からない。
だが、
一つだけ確かなことがある。
ハマルは、
ようやく
選ばれなかった女として
生きる道を
自分で選んだ。
それが、
遅すぎたとしても。
アークが、
静かに言う。
「救われた、
と言えるか?」
タニアは、
少し考え、
答えた。
「……生きている限り、
救済は
後からついてきます」
「それは、
希望か?」
「現実です」
後宮では、
救いは
上から降ってこない。
掴むものだ。
そして――
掴めなかった者は、
消える。
ハマルは、
消えなかった。
それだけで、
十分だ。
タニアは、
灯りを落とす。
この物語は、
終わりに近づいている。
選ばれた女の物語ではない。
選ばれなかった女たちが、
それでも生きる話だ。
次で――
すべてが、
静かに決着する。
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