婆になる前に、嫁に行きます ――私が下賜を受け入れた理由――

ふわふわ

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第38話 切り捨てられた女の叫び

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第38話 切り捨てられた女の叫び

辺境からの報せは、
中央の承認よりも
遅れて届いた。

それは、
当然のことだ。

辺境は、
いつも後回しにされる。

「……子爵領にて、
問題が発生しております」

老執事の声は、
低く抑えられていた。

タニアは、
手を止めずに言う。

「内容を」

「ハマル様が、
屋敷内で
衝突を起こしました」

「衝突?」

「使用人に対して、
手を上げ……
それを、
子爵が制止した、と」

タニアは、
ようやく顔を上げた。

想像通りだ。

「怪我人は?」

「軽傷が一名。
ただし――」

老執事は、
一瞬言葉を選ぶ。

「子爵は、
公の場で
ハマル様を叱責したそうです」

公の場。

それは、
後宮育ちの女にとって、
最も耐え難い屈辱だ。

「……彼女は?」

「泣き叫び、
“私は皇帝の女だ”と
繰り返した、と」

空気が、
静まり返る。

タニアは、
目を閉じた。

それは、
最後の拠り所だ。

後宮の姫が、
世界に対抗できる
唯一の言葉。

だが――
辺境では、
意味を持たない。

「子爵は?」

「困惑している様子です。
悪気はなく、
ただ……
扱い方が分からない、と」

それも、
当然だ。

彼は、
所有物として
下賜を受け取った。

だが、
“皇帝の寵愛を受けた女”の
扱い方など、
誰も教えていない。

「……切られた女は、
声を荒げるしか
なくなります」

タニアは、
静かに言った。

それは、
誰に向けた言葉でもない。

自分自身への
確認だ。

午後、
アークが
その報告を受ける。

「……最悪の形ではないな」

「ええ。
まだ、
“暴発”ではありません」

「どうする?」

タニアは、
即答した。

「介入は、
不要です」

「冷たいな」

「現実的です」

もし、
中央が介入すれば。

それは――
ハマルの“価値”を
まだ認めていると
示すことになる。

「彼女は、
すでに
切られています」

タニアは、
淡々と続ける。

「中央が望むのは、
静かな消失です」

「……だが、
死なせる気はない」

アークの声は、
低い。

「ええ」

タニアは、
頷く。

「壊れるか、
順応するか」

「それは、
彼女自身が
選ぶことです」

夜、
タニアは
一人で考える。

もし、
自分が
あの立場だったら。

もし、
下賜先が
アークではなく、
カウスだったら。

答えは、
簡単だ。

――壊れていた。

だからこそ、
彼女は
選択を誤らなかった。

ハマルは、
誤った。

そして、
誤った女は、
この世界では
守られない。

翌日、
辺境から
続報が届く。

「ハマル様は、
部屋に
閉じこもっております」

「……皇帝の名を?」

「呼んでいません」

それは、
一つの変化だった。

叫びが、
消えた。

それは、
順応の兆しか。

それとも――
崩壊の前触れか。

タニアは、
窓の外を見る。

戦乱の世で、
女が生き残る道は
多くない。

だが――
一つだけ
確かなことがある。

選ばれなかった女は、
自分で選ばなければならない。

ハマルは、
まだその地点に
立っていない。

物語は、
終わりへと
確実に近づいている。

そして、
次に問われるのは――
“救済”か、
“見捨て”か。

タニアは、
まだ答えを
出していなかった。
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