婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

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第1話 婚約破棄、その瞬間に

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第1話 婚約破棄、その瞬間に

王宮大広間は、
本来であれば祝賀の空気に満ちているはずだった。

第一王子アセルス・アウストラリスと、
アルファルド公爵令嬢シャウラ・アルファルド。
王国随一の名門同士の婚約は、
それ自体が王国の安定を象徴していたからだ。

――少なくとも、
つい数刻前までは。

「この場をもって宣言する」

静まり返った広間に、
アセルスの声が響く。

「私は、
シャウラ・アルファルドとの婚約を破棄する」

どよめきが走る。

だが、
それはまだ序章だった。

「そして――
聖女ジャネットを、
新たな婚約者として迎える」

視線が、一斉に聖女へと向けられる。
平民出身ながら聖女に選ばれた少女は、
驚きに目を見開いたまま、言葉を失っていた。

シャウラは――
微動だにしなかった。

「以上だ」

それだけ言って、
アセルスは満足げに顎を上げる。

(これでいい。
 王国にとって、最善の選択だ)

彼は、本気でそう思っていた。

だが、
その直後だった。

広間の一角、
アルファルド派の貴族たちが、
一斉に立ち上がったのは。

「――失礼」

派閥の重鎮が、
静かに一歩前へ出る。

「我らアルファルド派は、
本日の宣言をもって、
殿下への支持を白紙といたします」

ざわり、と空気が変わる。

アセルスは、
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

「……は?」

重鎮は、淡々と続ける。

「アルファルド家との縁を、
殿下ご自身が断たれた以上、
我らが殿下を支える理由はございません」

それは怒りでも抗議でもなく、
事務的な宣言だった。

続いて、
別の方向から、低い声が響く。

「アルベルド商会も、
同様でございます」

発言したのは、
王国最大の商会――
アルベルド商会の代表だった。

「殿下が王太子になられると見込み、
これまで支援を行ってまいりましたが……
本日の件を受け、
その前提は崩れました」

「よって、
今後の取引および支援は、
すべて停止いたします」

静まり返る広間。

貴族たちの顔色が、
一斉に変わった。

――終わった。
誰もが、そう理解した。

ただ一人を除いて。

「……待て」

アセルスは、
ようやく声を出す。

「なぜ、今、そんな話になる?」

彼は、本気で分かっていなかった。

「婚約相手が変わっただけだろう?
 私は第一王子だ。
 王太子の座も――」

「でしたら」

アルベルド商会の代表は、
わずかに首を傾げた。

「なぜ、
アルファルド家を切られたのですか?」

その問いに、
アセルスは答えられなかった。

理由は単純だ。
深く考えていなかったから。

広間の空気は、
すでに彼のものではない。

シャウラは、
その様子を遠くから眺め、
小さく息を吐いた。

(……始まったのね)

だがそれは、
復讐でも勝利宣言でもない。

ただ――
当然の帰結を見届けているだけだった。

この瞬間、
婚約破棄と同時に、
アセルスはすべてを失っていた。

だが本人だけが、
それに気づいていなかった。

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