婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

文字の大きさ
1 / 40

第1話 婚約破棄、その瞬間に

しおりを挟む
第1話 婚約破棄、その瞬間に

王宮大広間は、
本来であれば祝賀の空気に満ちているはずだった。

第一王子アセルス・アウストラリスと、
アルファルド公爵令嬢シャウラ・アルファルド。
王国随一の名門同士の婚約は、
それ自体が王国の安定を象徴していたからだ。

――少なくとも、
つい数刻前までは。

「この場をもって宣言する」

静まり返った広間に、
アセルスの声が響く。

「私は、
シャウラ・アルファルドとの婚約を破棄する」

どよめきが走る。

だが、
それはまだ序章だった。

「そして――
聖女ジャネットを、
新たな婚約者として迎える」

視線が、一斉に聖女へと向けられる。
平民出身ながら聖女に選ばれた少女は、
驚きに目を見開いたまま、言葉を失っていた。

シャウラは――
微動だにしなかった。

「以上だ」

それだけ言って、
アセルスは満足げに顎を上げる。

(これでいい。
 王国にとって、最善の選択だ)

彼は、本気でそう思っていた。

だが、
その直後だった。

広間の一角、
アルファルド派の貴族たちが、
一斉に立ち上がったのは。

「――失礼」

派閥の重鎮が、
静かに一歩前へ出る。

「我らアルファルド派は、
本日の宣言をもって、
殿下への支持を白紙といたします」

ざわり、と空気が変わる。

アセルスは、
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

「……は?」

重鎮は、淡々と続ける。

「アルファルド家との縁を、
殿下ご自身が断たれた以上、
我らが殿下を支える理由はございません」

それは怒りでも抗議でもなく、
事務的な宣言だった。

続いて、
別の方向から、低い声が響く。

「アルベルド商会も、
同様でございます」

発言したのは、
王国最大の商会――
アルベルド商会の代表だった。

「殿下が王太子になられると見込み、
これまで支援を行ってまいりましたが……
本日の件を受け、
その前提は崩れました」

「よって、
今後の取引および支援は、
すべて停止いたします」

静まり返る広間。

貴族たちの顔色が、
一斉に変わった。

――終わった。
誰もが、そう理解した。

ただ一人を除いて。

「……待て」

アセルスは、
ようやく声を出す。

「なぜ、今、そんな話になる?」

彼は、本気で分かっていなかった。

「婚約相手が変わっただけだろう?
 私は第一王子だ。
 王太子の座も――」

「でしたら」

アルベルド商会の代表は、
わずかに首を傾げた。

「なぜ、
アルファルド家を切られたのですか?」

その問いに、
アセルスは答えられなかった。

理由は単純だ。
深く考えていなかったから。

広間の空気は、
すでに彼のものではない。

シャウラは、
その様子を遠くから眺め、
小さく息を吐いた。

(……始まったのね)

だがそれは、
復讐でも勝利宣言でもない。

ただ――
当然の帰結を見届けているだけだった。

この瞬間、
婚約破棄と同時に、
アセルスはすべてを失っていた。

だが本人だけが、
それに気づいていなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

婚約破棄?ああ、どうぞお構いなく。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢アミュレットは、その完璧な美貌とは裏腹に、何事にも感情を揺らさず「はぁ、左様ですか」で済ませてしまう『塩対応』の令嬢。 ある夜会で、婚約者であるエリアス王子から一方的に婚約破棄を突きつけられるも、彼女は全く動じず、むしろ「面倒な義務からの解放」と清々していた。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

『婚約破棄?結構ですわ。わたくしは何もしないで生きていきます』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子ユリウスの婚約者だった伯爵令嬢リュシエンヌは、公衆の面前で一方的に婚約を破棄される。 だが彼女は泣かず、怒らず、復讐も選ばなかった。 「働かないと、決めましたの」 婚約者として担ってきた政務補佐、調整、裏方の仕事をすべて手放し、彼女は“何もしない”生活を始める。 すると王宮は静かに軋み、これまで彼女が支えていた日常だけが浮き彫りになっていく。 新たな婚約者を得た王太子。 外から王宮を支える女性。 そして、何もせず距離を保つ元婚約者。 誰も声高に責めず、誰も派手なざまぁをしない。 それでも、関係は変わり、立場は入れ替わり、真実だけが残っていく。 これは、頑張らないことで人生を取り戻した令嬢の物語。 婚約破棄のその先で、“何もしない”という最強の選択をした女性が、静かに自由を手に入れるまでの40話。

婚約破棄される前に、帰らせていただきます!

パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。 普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

処理中です...